外伝27 定休日
水曜日だった。
午後。
若い男は停車場の前で立ち止まる。
「……休み?」
シャッターには一枚の張り紙。
本日休業
若い男は少し笑った。
「珍しいな。」
そのまま家へ帰った。
◇
木曜日。
カラン。
「こんにちは。」
「おう。」
いつもの停車場だった。
高橋は新聞。
マスターはコーヒーを淹れている。
若い男が席に座る。
コトッ。
頼んでもいないコーヒーが置かれた。
「ありがとうございます。」
一口飲んでから聞く。
「昨日どうしたんです?」
「免許更新。」
「ああ。」
「普通免許ですか?」
「大型も。」
若い男は驚く。
「まだ更新してるんですか?」
「けん引もだ。」
「全部ですか?」
「全部。」
「使うことあるんですか?」
マスターは少し考えた。
「ない。」
「じゃあ、なんで更新するんです?」
「もったいない。」
若い男は思わず笑った。
「そんな理由ですか。」
高橋が新聞を畳む。
「今日ここへ来るなり、深視力は嫌いだってぼやいてた。」
「深視力?」
「大型の検査だ。」
マスターが頷く。
「三本の棒。」
「真ん中の棒が前後に動く。」
「並んだと思ったら押す。」
「難しいんですか?」
「難しい。」
「早いとずれる。」
「遅くてもずれる。」
「じゃあ、どうするんです?」
マスターは少し考えた。
「勘。」
若い男が吹き出した。
「勘なんですか。」
「最後は勘だ。」
高橋も笑う。
「毎回そう言う。」
「でも受かる。」
「受かる。」
マスターは静かにコーヒーを飲んだ。
「今年も勘が当たった。」
店の中に笑いが広がる。
若い男が聞く。
「更新終わって、そのまま帰ったんですか?」
「いや。」
「え?」
「ぶらぶらした。」
「どこをです?」
「免許センターの近く。」
「何しに?」
「歩いた。」
「目的は?」
「ない。」
高橋が頷く。
「昔からだ。」
「目的もなく歩く。」
「たまに消える。」
「消えるって。」
マスターはカウンターの下をごそごそ探した。
「ほれ。」
コトッ。
若い男の前に木彫りのキーホルダーが置かれた。
「……何ですか?」
「土産。」
「ありがとうございます。」
若い男は手に取って眺める。
「クマですか?」
マスターも覗き込む。
「多分。」
「多分?」
「店の人も分からんって言ってた。」
「えぇ?」
高橋がポケットからキーホルダーを取り出す。
「俺も。」
若い男は見比べた。
「これは猫ですか?」
「多分。」
「高橋さんももらったんですか。」
「同じ店。」
若い男は二つを並べる。
「……。」
「似てますね。」
「似てるな。」
「どっちがクマなんですかね。」
マスターが答える。
「好きな方でいい。」
「そんな適当でいいんですか。」
「いい。」
また店の中に笑いが広がった。
帰り際。
若い男はバッグにキーホルダーを付けた。
クマなのか。
猫なのか。
結局、分からなかった。
でも。
休みの日に自分のことを思い出して買ってきてくれた。
それだけで、少し嬉しかった。
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