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喫茶 停車場  作者: みそのKS


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外伝26 伊藤


 暑い午後だった。


 若い男は汗を拭きながら停車場の扉を開ける。


「暑いですねぇ……」


「そうか。」


 席へ着く頃には、アイスコーヒーが置かれていた。


「ありがとうございます。」


「知ってる。」


 若い男は笑う。


 もう注文をしなくても出てくる。


 そんなことが少し嬉しかった。


 カラン。


 扉が開く。


「おう。」


 老人だった。


 帽子を脱ぎ、いつものようにカウンターへ座る。


「暑いな。」


「そうか。」


 若い男は思わず笑ってしまう。


 二人とも会話は短い。


 それでも、昔からずっとこんなやり取りをしてきたんだろうと思えた。


「こんにちは、伊藤さん。」


 老人の動きが止まる。


「ん?」


 ゆっくり若い男を見る。


「兄ちゃん。」


「なんで俺の名前知ってんだ?」


「あっ……高橋さんから聞きました。」


 老人はマスターへ目を向ける。


 マスターはカップを磨きながら短く答えた。


「高橋。」


「あぁ。」


 老人は納得したように頷く。


「あいつ、余計なことまで喋ったな。」


 そう言いながらも、どこか嬉しそうだった。


「運送会社の話も聞きました。」


「会社を立ち上げた話とか。」


 老人はコーヒーを一口飲む。


「そうか。」


 少しだけ目を細めた。


「まったく。」


「手のかかる弟分だった。」


 若い男は少し身を乗り出す。


「皆さん、そんなによく整備工場へ行ってたんですか?」


「ああ。」


 老人は懐かしそうに笑う。


「仕事が終わるとな。」


「誰かしら工場へ来る。」


「工具を借りる奴。」


「缶コーヒーだけ飲みに来る奴。」


「車もないのに来る奴。」


 若い男は首をかしげる。


「車もないのに?」


「ただ話しに来るだけだ。」


 店の中に小さな笑いが広がる。


「マスターもですか?」


「あいつはな。」


「話を聞きに来る。」


「聞くだけ?」


「聞くだけだ。」


 若い男はマスターを見る。


 マスターは何も言わず、静かにカップを拭いていた。


「高橋は?」


「一番うるさい。」


「磯山は?」


「トラックの話しかしない。」


「柴田は?」


「工具持って帰る。」


 若い男は吹き出した。


「皆さん自由ですね。」


「だから面白かった。」


 老人はそう言って笑う。


「仕事が終われば集まる。」


「用なんか、なくてもな。」


 若い男は壁の集合写真を見上げた。


 トレーラーの前で笑う仲間たち。


 あの日だけが特別だったわけじゃない。


 きっと、その前にも。


 その後にも。


 整備工場には、こんな笑い声が毎日のように響いていたのだろう。


 老人も写真を見上げる。


「まったく……。」


「お前らは、いつまで経っても変わらんな。」


 マスターは静かにコーヒーカップを置いた。


「そうか。」


 今日も停車場だった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


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