外伝25 かき氷
外伝 かき氷
七月の暑い日だった。
「暑い……。」
若い男が店に入る。
いつもの席には高橋。
新聞を読みながらコーヒーを飲んでいた。
若い男が席へ向かうと、マスターは何も聞かずにアイスコーヒーを淹れ始める。
「今日はアイスなんですね。」
「そうだ。」
コトッ。
グラスが置かれる。
若い男は一口飲んだ。
「うまい。」
「暑いからな。」
高橋が新聞をめくる。
若い男は入口の黒板を見る。
「マスター。」
「なんだ。」
「かき氷とかやらないんですか。」
「やってた。」
若い男は思わず聞き返す。
「え?」
高橋も新聞から顔を上げた。
「やってたんですか。」
「ああ。」
「なんでやめたんです?」
マスターはグラスを洗う。
答えない。
少し考えた高橋が笑った。
「多分だけど。」
「ベタベタするからじゃないか。」
若い男が吹き出す。
「そんな理由ですか。」
マスターは頷いた。
「そうだ。」
高橋も笑う。
「当たった。」
若い男は不思議そうな顔をする。
「分かるんですか。」
「長い付き合いだからな。」
「違ってたら訂正される。」
マスターは短く答える。
「しない。」
「ほら。」
店に笑いが広がる。
若い男はアイスコーヒーをもう一口飲んだ。
「何味があったんです?」
「いちご。」
「メロン。」
「ブルーハワイ。」
若い男は少し驚く。
「ちゃんとやってたんですね。」
「やってた。」
「売れたんですか。」
「ああ。」
「じゃあ、なんでもったいない……。」
マスターは少しだけ考えて言った。
「ベタベタ。」
高橋が笑う。
「だから言ったろ。」
若い男も笑う。
「そこまで嫌だったんですか。」
「ああ。」
少し間があく。
「コーヒーも。」
「ベタベタになる。」
若い男はアイスコーヒーを見る。
「なるほど。」
「だからコーヒーなんですね。」
マスターは静かに頷いた。
「そうだ。」
高橋がコーヒーを飲みながら笑う。
「昔から変わらんな。」
「掃除が増えるのが一番嫌いなんだ。」
マスターは高橋を見る。
「違う。」
「え?」
「コーヒーが一番。」
高橋は少し黙る。
それから笑った。
「そうだった。」
若い男もつられて笑う。
店の中にはジャズが流れている。
アイスコーヒーは今日もうまかった。
今日も停車場だった。
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