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喫茶 停車場  作者: みそのKS


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外伝24 アイスコーヒー


七月の暑い日だった。


店の扉を開けると、いつものジャズが流れている。


「こんにちは。」


若い男はいつもの席へ向かう。


しかし。


今日はコーヒーが出てこない。


席に座っても何も起きない。


若い男は首をかしげた。


「マスター。」


「ああ。」


「コーヒー飲みたいです。」


マスターは少し考える。


「あぁ……。」


「あの? マスター?」


「ん?」


「どっちだ?」


「え?」


「ホットか。」


「アイスか。」


若い男は思わず笑った。


「あー!」


「ホットです。」


「そうか。」


マスターはコーヒーを淹れ始める。


「これからもホットでいいんだな?」


「多分。」


「暑くなったらアイスも飲みます。」


「分かった。」


コトッ。


いつものコーヒーが置かれる。


「ありがとうございます。」


カラン。


扉が開いた。


女子高生が入ってくる。


しかし席へは向かわず、入口の黒板の前で立ち止まった。


じっと黒板を見つめる。


そして小さくつぶやく。


「……マスター?」


「ああ。」


「アイスコーヒーあるなんて聞いてません!」


若い男が吹き出した。


「そこなんだ。」


「そこです!」


女子高生は少し頬を膨らませる。


「文化祭で教えてくれた時、ホットしか教えてくれなかったじゃないですか。」


「聞かれなかった。」


マスターは平然と答えた。


女子高生は一瞬黙る。


「……確かに。」


若い男は笑う。


「納得しちゃいましたね。」


女子高生は黒板を指差した。


「じゃあください。」


「アイスコーヒー。」


「ある。」


マスターはグラスを取り出した。


氷を入れる。


カラン。


静かな音が店に響く。


熱いコーヒーをゆっくり落としていく。


若い男は少し笑った。


「今日は見なくていいのか?」


「前回見ました。」


「そうか。」


やがてアイスコーヒーが出来上がる。


女子高生はグラスを受け取り、一口飲んだ。


少し目を丸くする。


「おいしい……。」


「ホットと全然違います。」


「違う。」


マスターは短く答える。


「これも文化祭で出したいです。」


マスターは少しだけ考えた。


「まだ早い。」


「えぇー。」


思わず大きな声が出る。


若い男が笑う。


「厳しいですね。」


マスターは静かに言った。


「ホットで喜んでもらってからだ。」


女子高生はアイスコーヒーを見つめる。


少し考えてから笑った。


「分かりました。」


「まずホットですね。」


「そうだ。」


女子高生は頷くと、カバンを開いた。


文庫本を一冊取り出す。


しおりを挟んでいたページを開き、静かに読み始めた。


若い男もホットコーヒーを口に運ぶ。


店の中にはジャズが流れている。


誰も話さない。


それでも、不思議と静かではなかった。


今日も停車場だった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


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