高橋②
木曜日だった。
午後の停車場。
いつもの席では、高橋が新聞を広げている。
若い男はコーヒーを飲みながら、店の壁に掛かった古い写真を見上げた。
トレーラーの前で撮られた集合写真。
何度も見ている写真だった。
以前マスターから聞いた話を思い出す。
「いろいろやっていた。」
その「いろいろ」の一つが、きっとこの写真なんだろう。
若い男は写真を眺めたまま、高橋に聞いた。
「高橋さん。」
「なんだ。」
「この写真、高橋さんも写ってますよね?」
高橋は新聞を畳み、立ち上がった。
写真の前まで歩いていく。
「ああ。」
そう言って、自分を指差す。
「これが俺。」
若い男も立ち上がった。
「じゃあ真ん中がマスター。」
「そうだ。」
「この隣の細身の人は?」
「磯山。」
「後ろで腕組みしてる人は?」
「佐伯。」
若い男は少し笑った。
「あ、この前来ていた人ですね。」
「そう。」
若い男は写真を見回した。
「この前話していた柴田さんはどれです?」
高橋が少し笑う。
「撮ってた。」
一瞬だけ静かになる。
若い男も思わず笑った。
「ああ、なるほど。」
「写真撮るの好きだったからな。」
「柴田はそんな役回りも多かった。」
高橋は写真を見つめたまま続ける。
「あの頃はみんな同じ会社だった。」
「運送会社ですか?」
「ああ。」
若い男は写真を見上げた。
大きなトレーラー。
作業着姿のマスター。
「あぁ……だから大型もけん引も。」
「そういうことだ。」
高橋は懐かしそうに笑った。
「会社は小さかった。」
「隣には伊藤整備工場ってのがあってな。」
「仕事もよく回してもらった。」
「助けてもらったな。」
若い男は思わず笑う。
「あのおじいさんの整備工場ですか。」
「そう。」
高橋は頷いた。
「昔からの付き合いだ。」
写真を見つめながら、高橋がぽつりと言う。
「あの頃は若かった。」
「毎日忙しくてな。」
「でも、楽しかった。」
若い男も写真を見つめる。
みんな笑っている。
今と変わらない笑顔だった。
その中には、今も毎週ここで新聞を読む高橋がいて、
いつものようにカウンターに立つマスターがいる。
高橋は席へ戻り、コーヒーを一口飲んだ。
「その頃の話か。」
「まあ、少しずつだな。」
若い男も笑った。
「楽しみにしてます。」
高橋は何も言わず、また新聞を広げる。
若い男はもう一度、壁の写真を見上げた。
今まで何気なく見ていた一枚だった。
けれど今日からは、
少しだけ違って見えた。
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