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喫茶 停車場  作者: みそのKS


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外伝14 俺には無理だ


翌週。


午後の停車場。


カラン。


ドアベルが鳴る。


若い男が入ってきた。


両手には袋を抱えている。


高橋が新聞から顔を上げた。


「来たな」


「来ました」


若い男は苦笑いする。


マスターは袋を見ると、小さく頷いた。


「持ってきたか」


「はい」


「あれからさらに悪化してません」


「そうか」


「……たぶん」


「たぶんな」


マスターは袋を受け取った。


中から出てきたのは、先週話していたパソコン型のおもちゃだった。


マスターはカウンターに置く。


そして若い男を見る。


「最初どう壊れた」


若い男は思い出しながら話し始めた。


ボタンを押しても反応しなくなったこと。


途中までは音だけは鳴っていたこと。


画面は映っていたこと。


マスターは何も言わず聞いていた。


途中で口を挟むこともない。


ただ聞く。


話が終わると、今度は静かに聞いた。


「お前は?」


若い男は目を逸らした。


「分解しました」


「うん」


「配線を触りました」


「うん」


「たぶん引っ張りました」


「うん」


「たぶん余計なところも触りました」


「うん」


高橋が新聞で口元を隠した。


笑っている。


マスターは小さく頷いた。


「なるほど」


それだけだった。


ネジを外す。


ケースを開く。


基板が現れる。


マスターは配線を一本ずつ目で追っていく。


スピーカー。


電池ボックス。


スイッチ。


若い男が触ったという配線。


一つずつ確認していく。


店内にはジャズだけが流れていた。


十分ほど経った。


マスターがスピーカー付近の配線を軽く押さえる。


少しだけ位置を変える。


電源を入れる。


「ピッ」


音が鳴った。


若い男が思わず立ち上がる。


「おお!」


マスターは表情を変えない。


「スピーカーは生きてるな」


若い男の表情が明るくなる。


「じゃあ直るんですか?」


マスターは返事をしない。


キーボードを押す。


反応しない。


別のキー。


やはり反応しない。


もう一つ押す。


無音。


マスターは基板を裏返す。


表を見る。


配線を追う。


基板のパターンをじっと見つめる。


さらに数分。


店内は静かだった。


やがてマスターは目を閉じる。


「配線なら追える」


静かな声だった。


「モーターも分かる」


「スイッチも分かる」


少し間を置く。


「でも基板の仕組みは経験がない」


若い男は黙って聞いていた。


「部品の役割も」


「回路の流れも」


「分からないものは分からん」


マスターはゆっくりおもちゃを閉じた。


「俺には無理だ」


若い男は固まった。


その言葉を聞くのは初めてだった。


「直せない」


マスターは袋へおもちゃを戻す。


「たぶん基板だ」


「もしくは見えないどこかだな」


「ここから先は経験がない」


「だから無理だ」


言い訳ではなかった。


観察した結果だった。


マスターは袋を若い男へ返した。


「期待させて悪かったな」


若い男は首を振る。


「いや……」


少し考えてから笑った。


「観察した結果ですもんね」


マスターが少しだけ笑う。


「そうだ」


「観察した」


「理解しようとした」


「その結果だ」


高橋がコーヒーを飲む。


「それも答えだな」


「答えだ」


マスターは短く返した。


若い男は袋を抱える。


不思議と悔しくなかった。


先週聞いた言葉を思い出す。


『最初に考えるな』


『観察しろ』


『理解しろ』


『それから考えるんだ』


今日、マスターはその通りにやった。


最後まで観察して。


最後まで理解しようとして。


そして、


「俺には無理だ」


と言った。


それもまた、一つの答えだった。


帰り際。


若い男が振り返る。


「マスター」


「なんだ」


「悔しいですか」


マスターは少しだけ考えた。


そして小さく笑った。


「少しな」


若い男も笑った。


完璧じゃない。


何でも直せるわけじゃない。


だからこそ。


この人の言葉は信用できる気がした。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


続きが気になりましたら、ブックマークや評価をいただけると筆者がとても喜びます。

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