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喫茶 停車場  作者: みそのKS


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外伝7 女子会


午後二時だった。


カラン。


ドアベルが鳴る。


若い男が店に入る。


そして立ち止まった。


うるさい。


いや。


賑やかだった。


停車場らしくない。


いつもはジャズが流れている。


コーヒーの香りがする。


静かな店だ。


だが今日は違う。


店内のあちこちから話し声が聞こえる。


笑い声も聞こえる。


誰かが大きな声で何かを話し。


別の誰かがさらに大きな声で返している。


完全に負けていた。


ジャズが。


若い男は店内を見回した。


空席がない。


いや。


一席だけあった。


カウンターの隅。


高橋の隣だった。


「よう」


「おう」


若い男は座る。


そして聞いた。


「何があったんですか」


高橋はコーヒーを飲む。


「知らん」


予想通りだった。



若い男は改めて店内を見る。


客はほぼ全員女性。


しかも年齢層が高い。


かなり高い。


見渡す限り婆さんだった。


五人。


いや六人。


七人か。


分からない。


増えている気がする。


若い男が聞く。


「なんですかこれ」


高橋は窓の外を見る。


「知らん」


「本当に知らないんですか」


「俺が来た時にはこうなってた」


それはそれで怖かった。



その時。


店の向かいに住む山田さんが大声で笑った。


包丁研ぎを頼んだあの婆さんである。


「あっはっはっ!」


店中に響く。


隣の婆さんも笑う。


向かいの婆さんも笑う。


連鎖する。


完全に女子会だった。


女子という年齢ではないが。


女子会だった。



マスターがコーヒーを持ってくる。


若い男が聞いた。


「何なんですか」


「女子会らしい」


「らしい?」


「俺もさっき知った」


マスターは本当に疲れた顔をしていた。


珍しい。



山田さんが手を振る。


「マスター!」


嫌な予感がした。


マスターもしたらしい。


「なんだ」


「おかわり!」


「さっき飲んだろ」


「もう無いのよ」


確かに無かった。


飲むのが早い。


マスターがため息をつく。


「はいはい」


「あとケーキ」


「無い」


「作ったらいいじゃない」


「無理だ」


会話が雑だった。



若い男が笑う。


高橋も笑う。


マスターだけが笑っていない。



しばらくして。


山田さんの隣の婆さんが言った。


「そういえば」


全員が聞く。


嫌な流れだった。


「マスター独身だったよね」


若い男がむせた。


高橋がコーヒーを吹きそうになる。


マスターだけが固まった。


「紹介しようか?」


店内が静かになる。


若い男は腹を抱えている。


高橋は顔を伏せている。


肩が震えている。


笑っているのだろう。


マスターは真顔だった。


「いらん」


「なんで」


「いらんからだ」


「いい人いるよ」


「いらん」


「料理上手だよ」


「いらん」


「畑持ってるよ」


「いらん」


「旦那に先立たれて私も独身よ」


………

……


完全に前回の女子高生と同じ流れだった。


若い男が気付く。


この店でマスターが押される時は。


相手が女性の時だ。


しかも年齢が高いほど強い。


高橋も気付いたらしい。


小声で言う。


「勝てないな」


「勝てませんね」


二人は頷いた。



夕方近くになり。


ようやく婆さんたちは帰り始めた。


会計を済ませる。


店を出る。


また来るね。


絶対来る。


そんな勢いだった。



最後の一人が帰った。


店内が静かになる。


ジャズが聞こえる。


ようやくいつもの停車場だった。


マスターはカウンターに手をつく。


疲れた顔をしている。


若い男が聞く。


「大変でしたね」


「そうだな」


「断れば良かったのに」


マスターは首を振った。


「無理だ」


「なんでです?」


マスターは窓の外を見る。


向かいの家。


山田さんの家が見える。


そして言った。


「包丁研いだからな」


若い男は吹き出した。


高橋も吹き出した。



どうやら。


一本の包丁から始まった縁は。


思ったより根深かったらしい。


その日の停車場は。


過去最高齢の女子会会場になった。


そしてマスターはきっと。


次も断れない。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


続きが気になりましたら、ブックマークや評価をいただけると筆者がとても喜びます。

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