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喫茶 停車場  作者: みそのKS


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外伝6 またお願い


昼を少し過ぎた頃だった。


店の外から声が聞こえた。


「お願い!」


若い女の子の声だった。


若い男は聞こえた気がした。


だが。


気のせいかもしれない。


そう思って扉を開けた。


カランカラン。


ドアベルが鳴る。


そして。


店内の視線が一斉に集まった。


マスター。


女子高生。


二人ともこちらを見ている。


若い男は立ち止まった。


妙な既視感があった。


前にも見た。


つい最近見た。


嫌な予感しかしない。


「こんにちは」


とりあえず言う。


マスターが言う。


「おう」


女子高生も言う。


「こんにちは」


見覚えがあった。


文化祭の女子高生だった。


コーヒーを教わりに来たあの子である。


若い男は席に座った。


そして聞いた。


「今度は何です?」


マスターが即答した。


「知らん」


女子高生が即答した。


「バイトです」


若い男はコーヒーを吹きそうになった。



「バイト?」


「はい」


女子高生は真剣だった。


前回と同じ顔をしている。


面倒なことを言い出す時の顔だ。


「ここで働きたいんです」


マスターは腕を組む。


「駄目だ」


「なんでですか」


「高校生だから」


「放課後だけです」


「駄目だ」


「土日だけ」


「駄目だ」


「長期休みだけ」


「駄目だ」


話が進まない。


前回と同じだった。



若い男はコーヒーを飲む。


そして聞く。


「なんでここなんです?」


女子高生は即答した。


「好きだからです」


マスターが天井を見る。


若い男は笑った。


女子高生は続ける。


「文化祭の時も助けてもらったし」


「関係ない」


「コーヒー美味しいし」


「関係ない」


「落ち着くし」


「関係ない」


「マスター面白いし」


「それは嘘だ」


若い男が吹き出した。



女子高生は少し黙った。


そして。


少しだけ真面目な顔になる。


「私」


マスターも黙る。


「学校終わると寄る場所ないんです」


店内が静かになった。


女子高生は続ける。


「友達と遊ぶのも嫌いじゃないです」


「うん」


「でも毎日じゃ疲れるし」


「うん」


「家帰っても誰もいないし」


若い男は何も言わない。


マスターも言わない。


「だから」


女子高生は店内を見回した。


「こういう場所があるの、いいなって」



しばらく沈黙が続いた。


マスターはカウンターを拭いている。


女子高生は返事を待っている。


若い男は黙っている。


やがて。


マスターが言った。


「バイトは駄目だ」


女子高生の肩が落ちた。


「ですよね」


「高校生働かせるほど忙しくない」


若い男が頷く。


それは事実だった。


停車場は人気店だが、回転率が高い店ではない。


マスター一人で十分回る。



女子高生が席を立つ。


「分かりました」


少し残念そうだった。


だが納得はしている。


その時。


マスターが言った。


「ただし」


女子高生が振り向く。


「放課後なら勝手に来い」


「え?」


「客としてだ」


女子高生が首を傾げる。


マスターは続けた。


「勉強したけりゃ勉強しろ」


「はい」


「本読みたきゃ読め」


「はい」


「友達連れてきてもいい」


「はい」


「ただし騒ぐな」


「はい!」


女子高生の顔が明るくなる。


若い男は笑った。


結局。


断っていない。


高橋がいたらきっと言うだろう。


「甘いな」


と。


そしてマスターはこう返す。


「知らん」


と。



女子高生は帰り際に頭を下げた。


「ありがとうございました」


「何もしてない」


「してます」


「してない」


最後まで平行線だった。


カラン。


ドアベルが鳴る。


女子高生は帰っていく。



静かになった店内。


若い男が聞く。


「本当にバイト断るんですね」


「当たり前だ」


「でも来るのは許可する」


「そうだ」


「なんでです?」


マスターは少し考えた。


それから窓の外を見た。


昔。


自分にもそんな場所があった気がした。


名前は思い出せない。


誰がいたかも覚えていない。


だが。


確かにあった。


なんとなく行ける場所が。


だから。


ぽつりと言った。


「店ってのはな」


若い男が聞く。


「うん」


「コーヒー飲むだけの場所じゃない」


それだけだった。


若い男は何も言わない。


ただ。


少しだけ分かった気がした。


停車場という店が。


なぜ今も続いているのかを。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


続きが気になりましたら、ブックマークや評価をいただけると筆者がとても喜びます。

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