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現場監督が異世界転生してクリティカルパスで魔王軍を解体する  作者: もしものべりすと


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9/22

第九章 完成した城塞

二月後、城塞は完成した。


 予定より四ヶ月早く、予算は三割減で。


 高さ十五メートル、長さ三百メートルの、立派な防御要塞。


 石垣の表面は、夏の太陽を反射して、白く光っていた。


 胸壁の上を、見張りの兵士が、ゆっくりと歩いている。

 その足元の石組みは、千年は持つだろう、と、ガロンが太鼓判を押した。


 しかも、ただ積み上げただけではない。


 俺はヴィルヘルム辺境伯に進言し、現代建築の知識を応用した。


 胸壁の角度は、弓の射線が交差するように設計。

 いわゆる、十字砲火の幾何学。

 二つの胸壁から放たれる矢が、城壁前の地面で必ず交差する角度を、緻密に計算した。


 城門は、二重構造で、内側に枡形――侵入してきた敵を上下左右から攻撃できる空間――を配置。


 壁面には、雨水を排水するための、目立たない小さな穴を等間隔で。

 現代でいう「排水勾配」と「水抜き孔」だ。

 これがあれば、石垣の内部に水が溜まらず、凍結融解による剥離も防げる。


 非常時の避難経路も、城内に三系統。

 火災や、敵の侵入や、地震――いや、この世界に地震があるかは分からないが――に備えて、領民が避難する経路を三本用意した。


 すべてが、計算され尽くされていた。


 完成式典の日、王都から検分使が派遣されてきた。


 検分使は、王宮魔術師長だった。


 白い髭の老人。あの召喚陣にいた、神官長と並ぶ重鎮。


 名はオーレウス。

 王宮魔術師として五十年、王国の軍事工学と魔法防衛を一手に担ってきた、生ける伝説。


 彼は馬車から降りた瞬間、城塞を見上げて、立ち尽くした。


 しばらく、動かなかった。


 随行の若い書記官が、心配そうに声をかけた。


「魔術師長殿、お疲れでは」


「黙れ」


 オーレウスは短く答えた。


「儂は今、目で見ている景色が、信じられぬのだ」


 彼は城塞を一周した。


 胸壁の高さを、自前の魔法で測った。

 石垣の組み方を、長い指で何度もなぞった。

 城門の枡形に入って、上を見上げ、左右を見渡し、何度も何度も、頷いた。


 最後に、彼は城門の枡形の中央に立った。


 そこは、もし敵が侵入してきたら、上から熱湯と岩と矢が降り注ぐように設計されている空間。


 オーレウスは、その天井を見上げた。


 彼の手が、震えていた。


 手だけではない。


 膝も、震えていた。


 彼は、五十年、王宮魔術師として、誰の前でも背筋を伸ばしてきた老人だった。


 その彼が、今、たった一つの城門の前で、年若い少年のように、震えていた。


「……これは……」


 彼は呟いた。


「これは、軍事工学の、究極だ」


 彼は俺の方を振り返った。


 目を、思い切り見開いて。


「田所殿、と言ったかな」


「はい」


「貴殿、本当に旅人か」


「ただの、現場のオッサンです」


「ただの現場の人間が、こんなものを設計できるはずがない」


 彼は唇を噛んだ。


「儂は王宮魔術師として五十年、軍事工学を研究してきた。しかし、この城塞の前では、儂は赤子も同然だ」


 彼は深々と頭を下げた。


「貴殿の知識を、ぜひ王都に持ち帰らせていただきたい。王国軍の防衛工事に、活かしたい」


「私の知識ではなく、共に働いてくれたガロン親方たちの腕です」


「いや、違う。これは、貴殿の頭の中の何かだ」


 魔術師長は、深く息を吐いた。


「王宮に戻ったら、儂は王に申し上げる。『勇者よりも、その従者を呼び戻すべきだ』と」


 彼が王都に戻った数日後――。


 王都から、急使が辺境伯城に駆け込んできた。


 その急使は、馬から降りた瞬間に倒れ込んだ。


「魔王軍が……南東国境を、突破……。勇者様……勇者様が、無謀な突撃を命じ……王国軍主力、壊滅、寸前……!」


 ヴィルヘルム辺境伯は、椅子から立ち上がった。


 彼は俺を見た。


 その目に、覚悟と、苦悩と、そして信頼があった。


「田所殿」


「はい」


「王国を、お救いいただけるか」


 俺は、深く息を吸った。


 窓の外で、北風が吹いていた。


 完成したばかりの城塞の旗が、はためいている。

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