↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現場監督が異世界転生してクリティカルパスで魔王軍を解体する  作者: もしものべりすと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/22

第十章 勇者様のご視察

王都からの急報の翌日。


 もう一人、王都から客が来た。


 神島翔太――勇者様、ご一行。


 黄金の鎧をまとい、白馬に跨り、護衛の騎士団を引き連れて、ヴェスタリア辺境伯領に堂々と入城してきた。


 彼の鎧は、王都で新調したものらしく、金細工が朝日にきらきらと光っていた。

 白馬の尻尾には、銀の鈴が編み込まれている。

 通り過ぎるたびに、ちりん、ちりんと、軽い音が鳴った。


 しかし、その騎士団の中で、彼の聖剣だけは、鞘から一度も抜けていなかった。


 召喚の日、最初の一回。

 あの時抜けたきり、神島の聖剣は、二度と光らなかった。


「やあ、田所くん」


 神島は馬上から俺を見下ろし、にやりと笑った。


「元気そうじゃないか。辺境の従者暮らしは、楽しいかい?」


 俺は黙って一礼した。


「聞いたよ、お前が城塞改修を手伝ったって。あれだろ? 石を積んだんだろ? 力仕事は得意だもんな、お前」


「……はい」


 神島は馬から降り、城塞を見上げた。


「ふん。まあ、悪くない出来だな」


 彼の目が、城塞の角度や、城門の配置を、追っていた。


 俺は、ふと、気付いた。


 神島は、軍事工学の本を、読んでいる。


 元の世界で。

 恐らく、こちらに来てから、王宮の書庫で、必死に勉強したのだろう。


 彼にとって「勇者」であり続けることは、生き残るための、必死の演技だった。


 彼は周りの王都使節団に向かって、声を張り上げた。


「皆さん、聞いてください! この城塞の完成は、実は、私が事前に田所に指示しておいた成果なのです!」


 使節団がざわめいた。


「私が王都を発つ前に、田所に概要を伝えておいたのですよ。『辺境の城塞を、お前のような無能でもできる程度に、立て直せ』とね」


 彼は笑いながら、肩を叩いてきた。


「な、田所、そうだろう?」


 俺は黙って頭を下げた。


 いつも通り。


 黙って、頷いて、現場が回ればそれでいい。


 でも――。


 その時。


 凛とした、しかし怒りに震えた声が、響き渡った。


「お止めくださいませ、勇者殿」


 リーンハルトだった。


 彼女は王都使節団の前に進み出て、毅然と神島を見据えた。


 彼女の銀髪が、朝の風に揺れた。

 青い目が、氷の刃のように、神島を射抜いていた。


「先ほどのお言葉は、事実と異なります」


 神島の笑みが、凍りついた。


「な、なんだと?」


「この城塞改修は、田所殿が、ただおひとりで段取りを立て、ガロン親方ら職人たちと共に、一から築き上げたものです。事前に勇者殿からの指示など、一切ございませんでした」


「お、お前――」


「貴族として、虚偽の発言を聞き流すことは、私の名誉が許しません」


 使節団が、ざわめき出した。


 神島の顔が、青ざめる。


 彼が反論しようと口を開いた瞬間――。


 ヴィルヘルム辺境伯が、悠然と前に出た。


 彼は王宮で長年外交を担ってきた老貴族の、磨き上げられた所作で、神島の正面に立った。


「勇者殿」


 辺境伯は、低い、しかし鋼のような声で告げた。


「我が領地において、貴族法では、虚偽の発言は厳罰の対象でございます」


「な、なに……」


「特に、他者の功績を簒奪する行為は、貴族の風上にも置けぬ振る舞いとして、貴族院に問題提起されることもございますな」


 辺境伯はちらりと使節団を見た。


 使節団の貴族たちが、慌てて目を逸らした。


「もちろん、勇者殿が王国の救世主であることに、我らは深く感謝しております。ですが、事実は、事実として、皆に共有させていただきます」


「……っ」


 神島は唇を噛み、何も言えなかった。


 その時、ガロン親方が、護衛の貴族たちの間を割って進み出た。


「勇者様、と仰せか」


 ガロンの目は、低く据わっていた。


「わしは石工頭のガロンと申す。この城塞は、田所殿の頭の中の図面と、わしらドワーフ五十名の腕で築いたものでござる」


「だ、誰だ、お前」


「もしも勇者様が事前に田所殿に指示を出したと言うなら、その『指示書』を、お見せ願いたい。羊皮紙でも、口頭の証人でも結構です」


 ガロンの目が、嗤った。


「ない、のでしょうな」


「ぐ……っ」


 使節団の貴族の一人が、咳払いをして口を挟んだ。


「勇者殿、これは確かに、誤解を招く発言でしたな。お疲れのところ、申し訳ありませんでした」


 その「誤解」という言葉に、神島は明らかに、傷ついた。


 彼は急に俺の方を見て、目で訴えた。


 「お前、フォローしろ」――そういう目だった。


 いつもの、本社の役員会議の時の、あの目。


 でも、俺の前には、リーンハルトが立っていた。


 彼女は、毅然と、神島の視線を遮るように、俺との間に立ち塞がった。


「勇者殿。田所殿は本日、城塞の最終確認で、お忙しいのです。お話の続きは、後ほど」


 代理の、塩対応。


 俺は、何もしていない。


 ただ、立っているだけだった。


 でも、隣のリーンハルトが、辺境伯が、ガロンが、俺の代わりに、神島を突き放してくれていた。


 その時、急使が広間に駆け込んできた。


「申し上げます! 魔王軍、王都へ進軍中! 王国軍主力、敗走中!」


 辺境伯は深い息を吐いた。


 そして、神島の方を見た。


「勇者殿。王国軍を救うには、いかがなさるおつもりですかな」


「お、俺は、勇者として、正面から決戦を……!」


「ほう、決戦」


 辺境伯は冷たく笑った。


「では、ぜひ、勇者殿の華々しいご勝利を、お聞かせいただきたい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。