第十六章 連合軍編成、プロジェクトキックオフ
連合軍は、五つの工程班に分割された。
第一班:エルフ偵察隊。任務は敵主力の動向把握。
第二班:ドワーフ重装歩兵団。任務は西戦線での敵主力釘付け。
第三班:獣人騎兵団。任務は補給線の遮断と機動防御。
第四班:人族(王国軍)。任務は本陣防衛と、各班への増援。
第五班:特殊強襲部隊。任務は、祭壇破壊。
俺は第五班の指揮を執ることにした。
最も重要な、クリティカルパス上の作業。俺自身が現場に立つ。
毎朝、全種族合同で、朝礼を行った。
「皆さん、おはようございます。本日の作業内容を共有します」
俺は工程表を読み上げる。
「第一班、敵主力は現在こちらに移動中。明朝までに敵主力の右翼に観測所を設置してください」
「第二班、こちらの丘陵で防御陣を構築。クリティカルパスは胸壁の完成です。職人を集中投入してください」
「第三班、敵補給隊が南東街道を通過予定。明後日の早朝、ここで奇襲」
指示は、明確で、簡潔で、誰にでも分かる言葉で。
各班長は、その日のうちに自班に伝達し、夕方には進捗を報告に来る。
建設現場と、まったく同じ流れだ。
朝礼の後、必ず一つ、確認する。
「今日の作業で、危険な点は何ですか。それを、どう防ぎますか」
最初、種族長たちは戸惑った。
戦に「危険を避ける」という発想がなかったらしい。
獣人の隊長ベルクが、最初に立ち上がって答えた。彼は爪のある手で地図を指した。
「第三班、今日の補給線奇襲。一番危険なのは、退路です。襲撃後、敵の本隊が応援に来ます。撤退路を二系統用意し、各兵に経路を周知します」
「素晴らしい」
俺は頷いた。
「これを『危険予知活動』、略してKY活動と呼びます。毎朝、必ず行いましょう」
「KY、ですか」
「皆さんの世界の言葉で何と訳すか分かりませんが、要は『危険を、口に出して、共有する』ということです。一人の頭の中だけにある危険は、全員で防げません」
その日から、連合軍の朝礼は、新しい儀式になった。
各班の隊長が、その日の危険を申告し、対策を共有する。
不思議なことに、それだけで、無謀な突撃で死ぬ兵士が、激減した。
負傷者は、後方で速やかに治療を受けた。
士気が、上がっていった。
エルフ長老が、ある夜、俺の元を訪れた。
「我ら千年、種族同士の調整に失敗し続けてきた。それを、貴公は、たった七日で成し遂げた」
「調整、ではありません」
「では、何か」
「現場の朝礼です」
長老は、長い沈黙の後、深く笑った。
「貴公は、本当に、不思議な御方だ」
俺は工程表の余白に、赤いペンで、新しい丸を一つ描いた。
第五班の出撃日、十日後。
その日が、クリティカルパスだ。




