↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現場監督が異世界転生してクリティカルパスで魔王軍を解体する  作者: もしものべりすと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/22

第十五章 クリティカルパス、ここに在り

俺は辺境伯城に戻り、緊急評議会を招集した。


 集まったのは、ヴィルヘルム辺境伯、王宮魔術師長、エルフ族長代理、ドワーフ王の使者、獣人族長。


 全種族の指導者が、一堂に会するのは、五百年ぶりだという。


 俺は地図を広げ、それを全員の前に置いた。


 評議室に集まった全員が、息を呑んで、俺を見ていた。


 ヴィルヘルム辺境伯。

 王宮魔術師長。

 エルフ族長代理。

 ドワーフ王の使者。

 獣人族長。


 全種族の指導者が、同じ部屋にいる。

 しかも、全員が、人族の俺を、見ている。


 以前の俺なら、この場面で、足が震えただろう。


 頭を下げて、「皆さんの方が、私より、よくご存知でしょう」、と。

 神島が居た会議室で、いつも俺がしていたように。


 でも、今は、違う。


 俺の沈黙は、グレンを、殺した。


 もう、二度と、繰り返さない。


 そして、深呼吸をして、口を開いた。


「皆さん」


 俺は、自分の声が、震えていないか確かめた。


 大丈夫。震えていない。


「魔王軍を倒します。明確な計画があります。私の話を、聞いてください」


 驚いたのは、自分自身だった。


 今まで、誰かに「私の話を聞いてください」と、こんなにはっきりと言ったことが、あっただろうか。


 会社の朝礼で、職人さんたちに「今日の作業を説明します」とは、言ってきた。


 でも、それは、職人さんが俺の上司ではなかったから、言えただけだ。


 今、目の前にいるのは、王国の各種族の頂点に立つ、強者たち。

 俺より、ずっと、社会的地位が上の人々。


 彼らに、「私の話を聞いてください」と、言った。


 不思議なほど、声は震えなかった。


 全員が、息を呑んで俺の言葉を待った。


「魔王軍の侵攻には、クリティカルパス――最重要経路があります。それは、彼らの魔力供給拠点。死霊回廊の中央祭壇です」


 俺は地図の中央を指差した。


「ここを破壊すれば、不死兵は全員、ただの屍となります。魔王軍は、即座に瓦解します」


「しかし、そこに辿り着くには、敵主力を突破せねばならぬ」


 獣人族長が、低く唸った。


「敵主力は、無視します」


「無視……?」


「正面から戦う必要はありません。各種族の最精鋭で、特殊部隊を編成します。私たちが敵主力を西の戦線で釘付けにしている間に、特殊部隊が東から迂回し、祭壇を破壊する」


 俺は工程表(戦略表)を広げた。


「各種族の役割と、必要な戦力、移動経路、そして時間配分を、ここに書きました。すべて、秒単位で計算してあります」


 指導者たちは、地図と工程表を見比べた。


「これは……」


 エルフ族長代理が呟いた。


「人族の戦術ではない。これは、もっと、別の、何か……」


「これは『プロジェクト・マネジメント』です」


 俺は静かに告げた。


「目的を達成するために、複数のチームを、最適な順序で、最適な場所に配置する技術。私の世界で、巨大な建物を造る時に使うものです」


「それを、戦に応用すると」


「魔王軍を、解体できます」


 全員が、しばらく沈黙した。


 そして、ドワーフ王の使者が、最初に拳を突き上げた。


 太い、節くれだった拳。

 長い髭を持つ、ドワーフ王自らが派遣した使者だった。


「ドワーフ族、参加する!」


 使者は、低い、しかし腹に響く声で告げた。


「我らが王、田所殿の名を聞いて、自ら剣を取りたいと申された。だが、貴方の指揮の下なら、王ご自身が出るまでもない、と。我らドワーフ五百名、貴方の駒として、使ってくだされ」


 次に、エルフ族長代理が、優雅に立ち上がった。


 千年の生を持つ長身の麗人。

 絹のような銀の髪を、肩に流していた。


「エルフ族も、参加致します」


 彼女の声は、森の風のように、静かだった。


「我らは千年、人族の戦を、遠くから眺めるだけでした。それは、人族が、勇気のために若者の命を消費する種族だったから。けれども、田所殿の戦は、違います」


 彼女は、深く一礼した。


「我らの最強の弓手、アリエルを、貴方に預けます」


 獣人族長は、咆哮するように、拳を天井に突き上げた。


「獣人もだ!」


 肉食の獅子のような、鋭い目。

 額に古い戦傷を持つ、歴戦の戦士。


「我らは長らく、人族から差別を受けてきた。だが田所殿は、我らを一度も『獣』と呼ばなかった。我らの最速、ラフィカも、最強の戦士ベルクも、全員、貴方の指揮下に!」


 次々と、種族長たちが立ち上がった。


 歴史的に犬猿の仲だった彼らが、同時に、俺の指示の下に集まる。


 誰一人として、損得勘定で参加した者はいなかった。


 全員が、ただ、俺の――現場のオッサンの――指揮を、心底、信頼していた。


 評議室の隅で、リーンハルトが、両手を胸に当てて、目に涙を浮かべていた。


 彼女が、何度も俺の傍で言ってくれた言葉。


「あなたは、何者ですか」


 その問いに、今、世界中が、答えを出していた。


 あなたは、世界を救う、ひとりの現場監督だ、と。


 ヴィルヘルム辺境伯が、深く笑った。


「田所殿。貴公は、いつの間に、こんな男になられた」


「私は、何も変わってません」


 俺は答えた。


「ただ、今までずっと、言わなかったことを、ようやく口にしただけです」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。