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現場監督が異世界転生してクリティカルパスで魔王軍を解体する  作者: もしものべりすと


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第十四章 闇夜をさまよう魂

俺は森の中を、たった一人で歩いていた。


 脱出は、辛うじて成功した。


 ガロンやエルフの兵長たちが、命がけで殿を務めてくれた。


 しかし、グレンは死に、リーンハルトは囚われ、部隊の半数は戻ってこなかった。


 森の中は、湿っていた。

 葉の上に、雨が落ちる音がする。

 俺の靴は、泥と、誰かの血で、汚れていた。


 誰の血かは、覚えていなかった。


 戦場では、敵の血も、味方の血も、自分の血も、同じ色で、同じ匂いがする。


 夜が明けても、俺は森を抜けられなかった。


 膝が震えて、立てなかった。


 俺は朽ちた倒木に背を預け、空を見上げた。


 星が、瞬いていた。


 ……俺は、何をしてきたんだ。


 日本でも。

 ここでも。


 いつも、黙って、頷いて、「現場が回ればそれでいい」と。


 それで、誰かが楽になったのか?


 神島は、増長した。

 桐谷は、悲しい目をしていた。

 グレンは、死んだ。

 リーンハルトは、囚われた。


 俺の沈黙が、すべての元凶だった。


 現場では「沈黙は、不作為と同じ罪」だ、と先輩に教わった。


 危険があるのに、何も言わなければ、それは、危険を見て見ぬふりをしたのと、同じ。


 誰かが怪我をすれば、その責任は、見て見ぬふりをした全員にある。


 俺は、それを知っていた。


 知っていたのに、自分の人生では、ずっと、その「沈黙の不作為」を、繰り返してきた。


 ぽろり、と、頬を、何かが伝った。


 涙だった。


 俺は、三十五年、本気で泣いたことが、なかった。


 子供の頃も、社会人になってからも、いつも、感情を、表面に出さないようにしてきた。


 でも、今夜、俺は、声を出して泣いた。


 森の中で、誰も聞いていない場所で、肺の底から、絞り出すように。


 グレンのために。

 神島が殺した、何百人もの王国兵のために。

 四十年、辺境を守ってきた、ヴィルヘルム辺境伯のために。

 囚われた、リーンハルトのために。

 俺の沈黙が、傷つけてきた、すべての人のために。


 俺はずっと、自分の人生のクリティカルパスを、見間違えていた。


 工程表の中で、一番大事な経路。それは、現代知識でも、技術でもなかった。


 「自分の価値を、自分の口で、ちゃんと言うこと」


 たったそれだけの、最も基本的な工程を、俺は三十五年、ずっと先送りにしてきた。


 だから人生が、ずっと遅延していた。


 ようやく、それに気づいた今。


 俺は、もう、引き返せないところまで、来ていた。


 空が、白み始めた。


 俺は懐から、汚れた羊皮紙を取り出した。


 辺境で工程表を組んだ時の、写し。


 赤いインクの丸が、北東角に描かれている。


 その下に、俺は新しい丸を描いた。


 地図の中央。死霊回廊の中央祭壇。


 魔王軍のクリティカルパス。


 そこを潰せば、すべてが終わる。


 神島も、魔王も、不死兵も。


 そして、リーンハルトを助けて、グレンの分まで、生きる。


 俺は、立ち上がった。


 立ち上がる前、俺は、もう一度、グレンの最後の言葉を、心の中で繰り返した。


 「最後まで、あなたの副官で居られて、よかったです」


 その言葉が、俺を、立ち上がらせた。


 膝の震えは、もう止まっていた。


 北の方角に、ヴェスタリア辺境伯城の旗が見えた。


 遠くで、夜明けの鴉が、一声、鳴いた。


 その声は、日本で、毎朝、現場に向かう時に聞いていた、あの鴉と、同じ声だった。


 俺は歩き出した。


 今度こそ。自分の口で、ちゃんと、言葉にして。

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