鏡に映るのは①
九月に入った。
シルバー昇格から一ヵ月と少し。私たちのパーティは順風満帆だった。
彼がリーダーとして立てた貯蓄目標。これも十月半ばぐらいには達成出来るだろう。
今回受けた遠出の依頼も実入りが良くますます目標に近づくかと思われたのだが、
「はぁ!? 何それ何で勝手に倒されてんの!?」
「も、申し訳ありません!」
ぺこぺこと必死に頭を下げる町長。
リゼも驚いているだけで怒っているわけではないのだ。
けれど見た目があまりにも鋭いから意図せず威圧的になってしまっている。
見かねた彼が割って入り穏やかな語り口で町長から事情を聞き出す。
「あー……こりゃギルド側の不手際だねえ。偶にあるんだよ、依頼が重複しちゃうの」
レティスが仕方ないと肩を竦めた。
ああ、と彼も思い出したように言う。
「確かそういう時は申請すれば交通費と宿泊費にプラスして幾らか迷惑料も貰えるんでしたっけ?」
「そ。よく勉強してるねえ。ギルドの信用問題に関わるからそこらはキッチリしてるよ」
「ですよね。ま、そういうわけだリゼ。偶にはこういうこともあるわな」
と軽い調子で笑いながら彼は言う。
町長が気に病まないようにと意図して振舞っているのだろう。
彼はそういう人だから。
「そうね。……馬車はもうないんだっけ?」
時刻は昼過ぎだが巡回馬車はもうない。
当初の予定でも依頼を済ませたら一泊するつもりだったのだ。
彼が問いに頷くとリゼは深々と溜息を吐いた。
そこでまた町長の顔色が悪くなる。彼女にも悪気があるわけではないのだけれど……。
「あ、あの……宿はこちらでご用意致しますので。無論、お代は」
「いやいや。お気になさらず。後でギルドに申請しますんで」
そう言ってこの場を去り宿に向かう。
「不完全燃焼だわ」
「じゃあちょっと山にでも入るか?」
町に居ても町長の性格を鑑みるにあれこれ気を遣わせてしまいそうだ。
ならば町の外に出かけるのも一つの手だと彼が提案すると、
「やった! あ、でも」
「あたしも良いよ。馬車の移動で体硬くなってるからちょっと動かしたいし」
「なら私も付き合うわ。一人で居ても暇だもの」
というわけで全員揃って山に入ることとなった。
彼のことだからリゼの気分転換以外に小遣い稼ぎも兼ねているのだろう。
出来れば素材が採集出来るタイプのモンスターに出会えれば良いな、と。
「トレントでも出ねえかなあ」
「何それ?」
「木に擬態したモンスターでな。樹液が良い金になるんだ。グラム単価がかなりのもんらしい」
うへへと笑う彼だけど、
「少年少年。何かいけないブツを取引する輩みたいになってるよ」
一言一句同意だ。
金に汚いというわけではないのだけど……。
辛い生活をしていたからその辺、シビアになっているのだろう。
「おっと。こりゃ失敬。まあでも出なきゃ出ないで山歩きも悪くないよな」
ここらは涼しいし、と笑ったところで彼以外の全員が動きを止めた。
何? 何々? と困惑する彼を他所に三人、顔を見合わせ頷く。
どうやら私だけではなかったらしい。
「な~んか妙な気配を感じたんだよね」
とレティスが言えば途端に彼の表情が冒険者のそれに切り替わった。
気持ちの切り替えが上手いのは紛れもない長所だろう。
「……どうする真?」
「調査する。無理そうなら速攻で引く。場合によってはスキルも使うから」
「その時はあたしが少年とティアちゃんを抱えて走るよ」
「よろしくお願いします」
一番前にリゼを置き真ん中に彼と私、一番後ろをレティスが守る形に陣形変更。
リゼの先導に従って妙な気配を感じた方向へと進み――発見する。
「……おっどろいた。あたしも初めてだよ。出来たてのダンジョンを見つけるなんて」
一見すればただの洞窟の入り口。
しかし注視すれば空間が歪み魔力の燐光が漂っているのが見える。
「ダンジョン……大地の自浄作用だっけ?」
「ええ。大地に染みついた人の欲望を体外に排出した結果だと言われているわ」
だからこそダンジョンの中には必ず価値あるお宝が眠っている。
人の欲望が形になったものだから当然だろう。
まあその分、リスクもあるのだが。
「真、どうすんの?」
「踏破は目指さない」
彼はキッパリ言い切った。
遠方の依頼のためアイテムの類は充実してはいる。
だがダンジョンの難度によっては心許ないものとなるだろう。
「だから報告とある程度のマッピングだけに留める」
「ギルドに報告して情報提供料を貰うわけね?」
「ああ。後で町長さんに一筆書いてもらおう。第一発見者は俺らだってな」
そうすることで他の冒険者が発見した後でも権利を主張出来る。
抜け目のないリーダーで何よりだと思う。
「リゼ。先ずはお前が中に入って様子を確かめてくれ」
「……良いわね。ワクワクして来たじゃない」
「ただ」
「分かってる。何かあったら直ぐに撤退、でしょ? まっかせなさい」
意気揚々と突っ込んで行き五分後。
しょんぼりと肩を落としたリゼが帰還した。
「……何もなかったわ」
「ま、まあ表層部分だろうし仕方ねえよ。とりあえず大丈夫そうなら俺らも入ろう」
「マッピングはどっちがやる?」
「ティアは魔法を使う機会もあるだろうし俺がやるよ。俺のスキルは何も準備要らんしな」
軽く打ち合わせをして全員でダンジョンに入った瞬間、
「「「「……ッ!?」」」」
眩い光に包まれた。
やがて光が晴れ視界が開けるとそこは石造りの壁ではなく全面鏡面の妙な空間に変わっていた。
しかも、
「……マジかよ」
居るのは私と彼だけ。




