海へ⑦
「あーあ、明日には帰らなきゃいけないのか」
「フフ、名残惜しいのは私も分かるわ」
ルミエラで過ごす最後の夜。俺たちはビーチでバーベキューをしていた。
結局、休みの間はずっとここに居たことになるな。
(……毎日見てたけどやっぱ慣れねえわ)
水着姿の三人に毎日ドキドキしてる。今もそう。
水着の上から上着を引っ掛けてるんだけどそれがまた何とも色っぽい。
「悪かったな折角の休みなのに付き合わせちまって」
「良いわよ。色々楽しめたもの」
特にあれ、波乗りが良かったとリゼは笑う。
元の世界から持って来れそうなマリンスポーツとして提案したものの一つだ。
リゼ的には滅茶苦茶ハマったらしい。
「そうよ。それに、フフ。家まで貰っちゃったものね?」
「あー……あれは流石に驚いたわ」
滞在二日目。
じゃあ今日もあれこれやろうぜというところでエマさんから待ったがかかった。
昨日だけでも値千金の助言を貰った。やはり正式にアドバイス料をとのことだ。
固辞したのだが、
『立派な仕事には正当な対価を。ここでケチるような輩に町長失格よ』
と一刀両断。
こういう考えだからこそ人が着いて来るし、ルミエラをここまで変えられたのだろう。
それでも金銭を貰うのは何だかなあと思ったので、
『じゃあ俺らがここを訪れた時、宿代を働きに応じた分だけ無料にしてください』
と提案した。
来年もまた来たいからな。その時の宿代が浮くのはありがたい。
エマさんは少し考え込んで、
『なら使ってない一軒家を譲渡するから別荘にしてはどうかしら?』
こう提案された。
幾ら何でもそれはと思ったが流石はやり手の町長。押し切られてしまった。
渡されたのはエマさんの祖父である先代の町長の自宅。
お祖父さんが亡くなってから手入れはしていたが誰も住んでおらず持て余していたらしい。
「んまあ、どう考えても少年のこと囲い込みに来てるよね」
レティスさんが俺の肩に手を回しニヤニヤと笑う。
胸がさ。でっけえ胸が当たってんだよぅ。ドキドキするじゃんね。
「……もうアイデアは出尽くしたんすけどね」
「町長さんは真の人の上に立つ、導く資質を評価したのだと思うわ」
「よねえ。あの村でも何度か引き止められたしさ」
村長も町長も買い被り過ぎなんだよ。
「そんなことはないでしょ。関わった町の人たちからも好感触だったし」
やるねえとますます密着が強くなる。
男は狼だって名言を知らねえのか?
まあ押し倒そうとしても秒で返り討ちにされるんすけどね。
「まあでも俺は冒険者辞める気はないですし」
「将来の選択肢ぐらいで良いと思うよ? 人生は長いんだしさ」
将来か。
まあずっと冒険者は続けられないしな。
(レティスさんの言うように選択肢の一つとして頭の隅に置くぐらいはしておくか)
バーベキューを楽しんだ後は片づけをして別荘に帰還。
風呂と帰り支度を済ませ後は寝るだけ。
だがどうにも寝付けずゴロゴロしている内に深夜になってしまった。
(少し散歩するか)
夜のルミエラは静かで聞こえるのは風と波の音だけ。
(ちょっと不審者感あるな)
詰所の前とか通った時、夜警の人にちょっと驚かれたし。
ただここ数日で顔パスになったので特に何も言われなかったのはありがたい。
「や」
ビーチに続く階段の前で座っていると声をかけられる。
驚き振り返るとそこにはレティスさんが居た。
「少年が外に出るのが見えてさ。……隣良い?」
「どうぞ」
ありがと、と笑いレティスさんは隣に腰を下ろす。
潮風に紛れて鼻を擽る甘い香りに少しドキっとした。
「楽しかったね」
「お陰様で」
海で遊ぶのは本当に楽しかった。
でもそれと同じぐらいどうやってルミエラを盛り立てるか考えるのが楽しかった。
最初は俺が提案する形だったが、翌日からはあっちも色々と提案して来たものだ。
それをああでもないこうでもないと詰めていくのが本当に楽しいんだ。
「来年、またここを訪れた時にはきっと凄いことになってますよ」
町長だけじゃない。
町が一丸となって意欲的に取り組んでいる。
集団が心を一つにして動くことの強さは、あの村で身を以って学んだことだ。
「そうだね。その時は少年もゴールドとかに昇格してたり」
「いやいやそれはないでしょ」
「リゼちゃんの剣才はかなりのものだしティアちゃんも魔法使いとしてかなり優秀」
それ以外の面でも、と付け加えるレティスさんだが俺はその言葉の裏を見抜いていた。
不和の種に繋がりかねないから誤魔化しただけで彼女も気付いているのだ。
ティアがまだ全然底を見せていないであろうことに。
「そして何より――――君が居る」
眼鏡の向こう灰色の瞳が俺を射抜く。
「直接的な戦闘能力はまあ、うん、並みだよね。でもそれ以外の部分。
あの村でもこの町でも君は人を束ね率いる能力を証明して見せた。
これは得ようと思って得られる資質じゃない。生来のもの、というより生き方かな」
普通の村人すらモンスターの軍勢と戦える兵士にしてしまえる。
ならば優れた個を率いれば更にだろうとレティスさんは言う。
「その上、人間も出来てる。あたしなんかよりずっとずっと……」
一瞬、その瞳が暗く淀んだように見えた。
「ねえ真くん。君にお願いがあるんだ」
「何でしょう?」
一つ息を吐きレティスさんは縋るように言った。
「あたしを君のパーティに入れてくれないかな?」




