口は災いの元
「村での一件、本当に助かりました。改めて感謝を」
休日二日目。
予定通り俺はレティスさんの下を訪れていた。
「……いやホント、気にしなくて良いから。何なら謝らなきゃいけないぐらいだし」
大体楽しそうな笑みを浮かべているのがレティスさんだ。
しかし今日の彼女はかなり消沈しているように見える。
>@Super_monkey
そりゃまあ、善意からとはいえ……のう?
モンキーさんの言葉で理由に気付く。
言われてみれば確かにそうだ。
俺は気にしてないがレティスさんの性格なら気に病むだろう。
「俺をシルバーに推薦したことですか?」
「! 気付いてたの?」
「ええまあ」
頷くとレティスさんは深々と溜息を吐いた。
「……本当にごめん。結果的に君の命を無駄な危険に晒してしまった」
今、俺は多分これまで知らなかったレティスさんの顔を見ている。
普段の緩いお姉さんではない素顔だ。
>@Super_monkey
此度のことだけではない。何やら根深いものがありそうじゃのう。
同意する。
とはいえ一朝一夕で聞き出せるようなものでもあるまい。
ならば今はこの場でのことにだけ集中するべきだろう。
「冒険者家業ってのはそういうものでしょう?」
「それは自らの選択の範囲内で、だよ。じゃなきゃ何のためにランクが設定されてるのかって話」
今回俺が直面した事件は最低でもシルバー。
実際に動かすならその上澄みかゴールドを投入する案件だという。
「誰にも予想出来たことじゃない。なんて言い訳にもならない」
「いやなりますね」
「……少年?」
「レティスさんが自分を許せない気持ちも分かります」
だが、
「自分を許さないということは“他人にも”同じだけの責任を求めるということだ」
今回と似た事例があったとしよう。
悪意はなかった。深く悔やんでいる。
「それでも許されるべきではないと?」
「……自分と他人では」
「自分に厳しく他人に優しく。立派なことです」
素直にそう思う。
俺自身、そう在りたいと願えども自分を甘やかしてしまうから憧れる。
「でも過剰な厳しさはそれはもう形の違う甘えでしょう」
「――――」
自らに厳しくするということに甘えているだけだ。
そんな人間の謝罪は果たして謝罪と言えるのか。
「そこら辺、聖職者としてはどう思います?」
「……参ったね。一々ご尤も。返す言葉もないよ」
「それで?」
「分かった。もう気にしない」
ふぅー、と大きく息を吐き出しレティスさんは仮面を被り何時もの顔に戻った。
「君、あたしよりよっぽど聖職者に向いてるよ。将来の転職先候補にどう?」
「いやあ」
「前も言ったけどわりと本気で教えてあげるよ? 神魔法」
「覚えられれば便利でしょうけど」
やっぱり今は無理だ。キャパシティオーバーになる。
何もかも詰め込もうとすればま~たシックスさんに非ずされちゃうよ。
>@Super_monkey
んっふ……あら……非ずされちゃう……ひひひ。
何か妙なところでウケちゃったらしい。
あ、今入室メッセージが……。
>@Six-Tenmaou
猿。猿。猿!!
>@Super_monkey
うごぉ!?
二人の退室メッセージが流れた。
え、リア凸された感じ? こっわ。
「そっか。でも気が変わったら何時でも言ってね?」
「……ええ」
今、少しだけ仮面が外れた気がする。
神魔法が何か関係あるのだろうか?
「それはさておきレティスさん」
「何?」
「出鼻を挫かれた感じになっちゃったけど俺も謝罪したいことがあるんです」
「え、何かあったっけ?」
心底不思議そうな顔をしていたが、
「あ、ひょっとしてあれ? お姉さんの魅力にくらっちゃって疚しい気持ちを」
「いやレティスさんが魅力的な女性なのはそうですが違います」
「……魅力的とかさらっと言うじゃん。でも真剣に心当たりないんだけど?」
いやそんなことはない。聞けば分かる。
というわけで、
「帰りの道中でうちのリゼが大変ご迷惑を」
「あー……うん。はい。迷惑かけられたね。ごめん。そこは否定出来ないや」
謝罪の菓子折りを渡すと何とも言えない表情で受け取ってくれた。
「しっかしリゼちゃんも大変だねえ。シルバーとなれば馬車使う機会も結構あるし」
「そこは本人も気にしてるようで」
昨日話したことを言うとレティスさんは何やら思案顔に。
「ふむ。時に少年さ。今ひょっとしてお休み?」
「ええ。流石に少し休養が必要かなと。昇格にも時間かかるみたいですし」
「予定は?」
「今日レティスさんに会いに行くので事前に立ててた予定は消化しちゃいました」
休みだし先生に授業をと思ったんだけどな。
わざわざギルドに呼ばれるぐらいだ。
支部長が帰還したらまた忙しくなるとのことで授業はしばらくお休み。
まあその代わりに課題はあるんだけどな。
(……忙しいだろうにテキストまで作ってくれて本当に良い教師だよ)
しかしあれだな。
シチュエーションだけ見ると夏休みの宿題みたいだ。
季節は夏で、連休に入ってるわけだしな。
違うのはモチベーションぐらいだ。
(日本に居た頃は宿題を嬉しく思うことなんてなかっただろうな)
というのはさておきだ。
「そっか。じゃあ丁度良いかもね」
「丁度良い?」
うんと頷きレティスさんは笑った。
「折角だしちょっとお姉さんと遊びに行こうよ」




