防衛戦 後
(……すごいとしか言いようがないな)
戦いが始まり一時間あまり。
死者は未だゼロ。怪我を負っている者は居るが戦線は離脱していない。
事前の仕込みも含めて二人の出す指示はあまりにも的確だった。
未来でも見えているのかと怖気が走るほどに。
>@Six-Tenmaou
“戦争”を学び始めたばかりのひよっこに遅れを取るわけがなかろうが。
単なる殺し合いの枠を出ておらぬ相手を嵌めるのは容易いわ。
だとしてもだ。
兵士を率いているならまだしも彼らはただの村人。
ある程度の自衛能力を備えていることを差し引いても
>@Six-Tenmaou
フン、弱卒を率いるのは慣れておる。
弱さを補う方策を年がら年中考えておったのだからこれぐらいは当然よ。
>@Super_monkey
まあ、うちは兵が他より劣っておりましたからのう。
それよりじゃ真。儂らのお陰でもあるが……。
分かってる。
(村の皆の頑張りがあればこそだ)
だからこそ、ここらが機だと思う。
>@Super_monkey
恐らくこのままでも勝てる。おみゃがあスキルを使わんでもな。
かもしれない。俺もそう思う。
でもそれは幾らかの死者が出るかもしれないし、何より確実ではない。
(勝てるところで確実に勝ち切る。そうだろ?)
欲しいのは揺るぎない勝利。
そのためなら個人的なリスクは飲み込もう。
あとはまあ、この乱戦下なら気付かれないかもという下心もある。
>@Six-Tenmaou
楽観よ。
……そっすね。
でもまあ、そういうことなんでスキルを使うタイミングはよろしく。
そう告げると二人から了承の意が返って来る。
>@Super_monkey
そろそろ心の準備をせい。一気に流れを引き寄せられる機が迫っとる。
頷き心の中で数を数える。
そうしてその時が来た瞬間、
「――――少年、助けに来たよ!!」
「は?」
レティスさんが戦場に乱入し手当たり次第にモンスターを殴殺し始めた。
一瞬、呆気に取られるが考えるのは後だ。
「俺の指揮下に!!」
「りょ~かい!!」
降って湧いた大駒を考慮に入れ指示を組み直す。
>@Six-Tenmaou
地の利、人の和のみならず天まで引き寄せたか。
>@Super_monkey
真はここまでよう頑張りましたからのう! 当然ですわ!!
そこからはもう半ば消化試合のようなものだった。
ただでさえモンキーさんとシックスさんという特級の指揮官が居たのだ。
そこに高い戦闘力に加えて回復手段まで持つレティスさんが加わったんだぞ?
そりゃもう普通に勝つわ。逆に勝てない方がおかしい。
>@Super_monkey
おみゃあがここまで踏ん張ったがゆえよ。胸を張れい!!
……そうだな。少しは誇っても良いだろう。
「やった……やった! 勝った! 勝ったぞー!!」
「冒険者殿! 冒険者殿ォ!!」
「ワハハハハハ!!」
あちこちで安堵の声が上がる。
モンキーさんもシックスさんも何も言わないあたり増援とかもなさそうだ。
「もう大丈夫だとは思うが警戒は怠るな! 俺はリゼの救援に向かう!!」
スキルを温存出来たのなら今が使い時だろう。
念のためティアをこの場に残しレティスさんと共にリゼの下へ駆けつける。
「ッ……不味い!!」
駒のように回りながら地面を滑り勢い良く刃を振るうリゼ。
その切っ先が首を断つより早く奇妙なオークは上体を逸らした。
刃は薄皮を切るに留まり、攻撃をすかされたリゼは背中を向けてしまう。
レティスさんが焦ったように叫ぶが、
「大丈夫」
リボンで括られた長い髪が盛大に宙を舞い無防備な首が晒される。
その光景を見て俺は何時かのやり取りを思い出していた。
『首を晒すため。そっちのが良い感じになると思うの』
オークの斧がリゼの首を刎ねんと振るわれるが空を切った。
リゼは跳んでいた。胸を反らしオークを乗り越えるように。
敵の攻撃は当たらない。だがリゼも敵を仕留めるには一つ足りない。
だから、
「“導きの星よ”!!!!」
そこを俺が埋める。
上下逆さになったリゼが光を帯びた刃を振るいオークの首が飛んだ。
「よっと……ナイスアシスト♪」
「だろ?」
着地したリゼがこちらにやって来たのでハイタッチ。
安堵しているレティスさんが話を聞きたそうにしているが少し待って欲しい。
後一つ、やることが残っている。
「敵将、討ち取ったり! この戦、俺たちの勝ちだァ!!」
村のどこに居ても届くように腹の底から叫ぶ。
すると少し遅れて割れんばかりの歓声が村のあちこちから上がった。
>@Super_monkey
うむ。それが大将の振る舞いぞ。
ありがとう。ところでシックスさんは何かないのかな?
>@Super_monkey
あー、まあ……あの御方はのう。素直じゃにゃあで。照れとるんじゃろ。
しばらくは顔を出さんじゃろうが気にすることはあるまいよ。
可愛い人だな。
「すいません。お待たせして」
「……いや話は後日にしよう。あたしも怪我人の治療をしたいしね」
ああ、それもそうか。
「ただ」
「分かってます。オークの死体は寄り合い所に運びましょう。すいませんが」
「ああ。あのオークの死体は私が運ぶよ。お嬢さんは首を頼んで良いかい?」
「え、どうすんの? 食べたりするわけ?」
「しないしない。とりあえずお願いね」
寄り合い所に死体を運び込み村の広場に戻る。
レティスさんは怪我人の治療に、俺は村長にこれからの話をしに向かう。
「……先の無礼も含めて何と詫び、何とお礼を申せば良いか」
「皆、助かったんだからそれで良いさ」
それよりも、だ。
「もう大丈夫だとは思うがこのまま皆で寝入るのもマズイだろう」
「ええ。こちらで警邏を組ませましょうぞ。冒険者殿はどうかお休みになってくだされ」
「ありがとう。でも何かあったら遠慮なく言ってくれて良いから」
寄り合い所に戻ろうとしたところで人影が立ち塞がる。リックだ。
傷だらけの彼は俺を見つめ深呼吸を一つ。
「……ありがとう」
感謝の言葉と共に深々と頭を下げられた。
「どういたしまして」
満足感を胸に今度こそ寄り合い所へ。
「!」
「おっと」
中に入り扉を閉めたところで気が抜けたのだろう。
ふらつく体をリゼが抱き留めてくれた。
「……お疲れ様。今日はゆっくり休みなさいな」
「……うん」
多大な疲労とそれ以上の充足を胸に俺は泥のように眠った。




