防衛戦 中
普段あまり細かいことは気にしないのがリゼという少女だ。
しかし、その彼女をして眼前の敵は驚愕を禁じ得なかった。
「……オーク?」
くすんだ緑の肌。巌のような筋肉。豚鼻、天に向かい伸びる牙。
この特徴だけならば以前、戦ったオークのそれだ。
だがそれ以外の要素がオークかどうかを分からなくしている。
長い灰色の頭髪、“人間に似た顔立ち”、女性のような体つき。
胸と下半身には粗末な布が巻かれており、両手には二本の斧が握られている。
「なるホド。読まれていたカ」
「!」
極めつけは人語まで話すときた。
女の声。見た目通りの性別らしいが本当にどうなっているのか。
これで驚くなという方が無理だろう。
「あんた何者? 何でこんな回りくどいやり方で村を襲ったわけ?」
しかしそこはリゼ。
話せるんじゃん。なら聞いてみようと即座に意識を切り替えた。
聞くだけならタダだし答えてくれなくても問題はないと。
「知らヌ。気付けバ、こうだっタ。だがやるコとは分かル」
人間を殺す。シンプルな答えだった。
知性はあるが行動指針はモンスターのそれと変わらないらしい。
だが知性を持つがゆえにやり方は違った。
「何故、と言ったナ。より良く殺すたメだ」
自分がどうして知恵を持って生まれたのか。
より確実に、より犠牲を少なく、効率的に人を殺すためだと女オークは言う。
つまるところこの村は手ごろな練習台だったわけだ。
「私は、答えタ。次はお前ダ」
「何?」
「何故、気付いタ」
向学心があるらしい。
真がここに居れば危険だと更に警戒を高めただろう。
リゼもまた理屈ではなく直感でそうと判断し剣を抜いた。
「知りたきゃ私に勝つことね。死ぬ間際に答えてあげる」
「そウか」
特に気分を害した様子もなく流れるように戦闘が始まった。
(速さと技は私、硬さと膂力はあっちね。つってもアイツも十分速いんだけど)
何合か切り結び戦力を分析。
リゼは自身の戦闘スタイルをより曲芸染みたものに切り替えた。
理由は女オークに技を学ばせないため。
技術よりもセンスに特化した立ち回りならば学べるところは少ない。
そう直感で判断したがゆえのスタイルチェンジである。
「シッ……!!」
ふっと力を抜き横に倒れ込みながら地面スレスレで踏ん張り足目掛けて刃を振るう。
女オークは大きく飛びずさって回避するが完全には避けられず血が滲む。
「お前とやるのが私で良かッた」
「奇遇ね。私もよ」
現状、戦いは拮抗しているが体力ではどう考えても女オークに分がある。
かと言って勝負を急げばあちらは持久戦に持ち込むだろう。
やり難いというのがリゼの正直な感想だった。
(真の強化があれば話は変わるけど、あっちから動かすわけにはいかないしね)
さてどうしたものかと思案していると、
「……何故、笑ッていル?」
「え」
怪訝そうな顔でそう聞かれリゼは口元に手をやる。
確かに口が笑顔の形になっていた。
「ああ、そっか」
リゼはこれまで戦いにおいて苦戦した経験が一度もなかった。
思うがままに刃を振るっていれば全て片付いてしまったから。
だが今、思うがままに刃を振るっても思うようにはいかない。
「何で笑ってるかって? 決まってるわ」
勝利しか知らぬ者は危うい。一度も負けたことがない者は脆い。
こんな文句を偶に聞くが事、リゼに限っては当て嵌まらない。
「――――楽しいから」
「……おカしな人間ダ」
だってタフだから。
互いにギアを上げ戦いは更に激しさを増す。
一進一退の攻防。だがそこに戦況を大きく変える要因が投入される。
「……慌てて駆けつけて見れば、何これ?」
少し息を荒げながら街道からやって来たのはレティスだった。
「新手ダト……!?」
「喋った!?」
リゼが目を丸くする。
真と居る時に何度か挨拶をしたことがあるぐらいでさして関わりはない。
何故ここにレティスがと考え、思い出す。
夕飯前の空き時間。リゼは真にもう一人の推薦者について聞いてみたのだ。
そこでレティスであろうことを教えてもらった。
(あ、偶然を装って様子を見に来たのかしら?)
その読みは当たっている。
用事で近くに来たついでにギルドで小耳に挟んだ話を思い出したという体で様子を見に来たのだ。
こういう時、僧侶というのは都合が良い。
教会の用事と言えば大体は誤魔化せるから。
「……お嬢さん、これどういう状況?」
レティスとしてはもう昇格依頼は達成していると思っていた。
だが蓋を開けて見ればどうだ?
街道を歩いていると何やら不穏な気配。
急いで駆けつけてみれば村では激しい戦いが行われ眼前には喋るモンスター。
それでも即座に落ち着きを取り戻し成り行きを問えるのは流石だ。
「細かいことは後。あんたは真を助けに行ってあげて」
「いやだが」
レティスとして分かっている。向こうでも激しい戦いが繰り広げられているのは。
だが目の前の女オークを捨て置くわけにもいかないと。
「大丈夫。私は強いわ」
「……分かった。無理そうなら時間稼ぎに徹すること。良いね?」
リゼの楽し気な気迫に圧され気持ちを切り替える。
「させン!!」
「残念」
脇を抜けるレティスを止めようとするがリゼに阻まれる。
その隙にレティスは村の中に入ってしまった。
「……立場ガ、逆転したカ」
「逆転? 違うわ」
最大戦力の誘引と足止め。
確かに状況は入れ替わったように見えるがそれは違う。
「だって私には真が居るもの」
背中の憂いは一切ない。




