答え合わせ
ひと悶着あったものの村は割と好意的に俺たちを迎え入れてくれた。
表面上だけでもそうしてくれると態度で示されたのはありがたいことだ。
「どうぞ。こちらご自由にお使いくだされ」
食事をご馳走になった後、案内されたのは村の寄り合い所。
そこそこ大きな建物で部屋も複数あるから滞在する間、宿として使ってくれとのこと。
「ありがとうございます。明日から早速、依頼に取り掛からせて頂きますね」
「よろしくお願いします。つきましては案内の者をつけますので」
漁師や自警団で作った巣がある場所の地図は既に渡されている。
だが初見の山だ。地元の人間がついてくれるのはありがたい。
案内につける以上、最低限自分の身は守れるだろうしな。
「では明日、村を出る前に村長さんのお宅へ顔を出しますので」
「はい。ではその際に」
村長が家を出て行き俺たちもそれぞれ目をつけた部屋に向かう。
このまま寝ても良いが……その前に一つだけ。
「真? どうしたのよ」
「ちょっと良いか?」
「良いけど……まあ、入りなさいな」
部屋に入り小さな椅子に腰を下ろすと早速、切り出す。
「やっぱティアは信用ならないか?」
「……気付いてたの?」
「ああ」
馬車でだんまりだったのは酔いが一番だがティアを警戒していたのもある。
時折彼女を見つめるリゼの視線にはそんな色が滲んでいたからな。
「一時戦力をってあんたの方針に異を唱えるつもりはないわよ?」
「リゼが俺の判断を尊重してくれてるのは分かってるよ」
その上でお互い何を考えているか共有しておくべきだと判断したのだ。
俺がそう説明して先ずはリゼの話をと促すと小さく頷き口を開いた。
「つっても明確に理屈があるわけじゃないのよ? 何か色々嘘臭いって感じるだけだし」
「だろうな。偶然を装って接触して来たみたいだし、そりゃ胡散臭いわ」
「ど、どゆこと?」
「ギルドで昇格の話が出た時に支部長が何て言ったか覚えてる?」
「忘れた」
「“シルバ―昇格の推薦が出ている”って言ったんだよ」
最初はレナさんかとも思った。だがよくよく考えたらおかしい。
あの支部長がそれで受け入れるだろうか?
だってレナさんは受付嬢であって冒険者の実力を判断するのが本業ではないのだから。
「じゃあ昇格担当の職員かとも思ったがそれも多分、違う」
「何で?」
「アイアン昇格からまだ日が経ってない」
一ヵ月ぐらいで次というのは考え難い。迂闊な判断をすれば査定に響くからな。
となれば消去法で考えられるのは冒険者からの推薦。
ギルドから一定の信用を得ている冒険者の中には昇格の相談をされたりすることもある。
逆にこの子らは良いなと持ち掛けることも。
「俺たちを推薦したのは多分、二人。一人は今は良い」
レティスさんでこっちは純粋な善意だろうからな。
無論、帰ったら礼に行くつもりだが。
「……もう一人がティアだって?」
「ああ」
昇格の話を聞いて宿に帰ってからふと思ったのだ。
浮かれた気分が落ち着いたからだろう。何か都合良過ぎね? って。
「支部長がティアを連れて来たのも彼女が推薦者だからってんなら納得がいく」
お前が推薦したんだから能力の検証ぐらい付き合えってな。
ただ宿の段階ではここまでは考えてなかった。何かおかしいぐらいだ。
疑惑が生じたのは馬車の中。ティアとお喋りをしている内に思ったのだ。
「あまりにも“自然だな”って」
「自然?」
「ああ。普通いきなり知らない人間と行動を共にしろって言われたらぎこちなくなるもんだ」
対人能力が高い人間でもそう。気を遣ってまずはラインの見極めから入る。
内心はどうあれ表面上友好的に振舞うなら見極めている振りぐらいするだろう。
しかしティアにはそれがない。会話をしてて思ったんだが俺との距離感が完璧。
リゼ相手でもそうなら対人関係の天才という線もなくはないがそうじゃない。
つまり、
「……真のことを知ってた?」
「そう考えるのが自然だな。ただ一応言っておくと心当たりはないぞ」
あんな目を引く容姿の子とどこかで知り合ってたら流石に覚えてる。
日々の暮らしに精一杯で周りが見えてなかった頃でもそう。
むしろその時にティアと出会ってたなら余計記憶に残ってるわ。
「その前提を踏まえてティアを観察してみると気付かなかったことにも気付く」
基本的に人当たりの良い上品なお嬢様といった感じだ。
しかしふとした瞬間、こちらを見つめる目が変わる。
感情が抜け落ちた無機質な瞳が垣間見えるのだ。
蟻の行列を無表情で眺めている子供のようなそんな目。
「それで思ったんだ。ティアは俺と接触するために推薦の話を出したんじゃないかって」
レナさんに教えたスキルの情報。
それをティアも知ってたという前提があれば色々と綺麗に嵌まるのだ。
今言った前提に支部長の性格を考慮すれば、あの夜の状況は整えられる。
この推理はモンキーさんとも話し合った上でのもの。かなり確度は高い気がする。
「……仮に、仮にあんたの推理が正しいとしてよ」
「ああ」
「何でそんな平然としてるの?」
全てが得体の知れない女の目論見通りに進んでいる。
それで平気なのかというリゼの指摘は尤もだ。
「二つ理由がある。今考えても仕方ないってのが一つ」
「もう一つは?」
「こっちは理屈じゃなくて感覚の話なんだが……そんな悪い人間に思えないんだよな」
俺がそう答えるとリゼは呆れたように溜息を吐き、仕方なさそうに笑った。
「しょうがないわね。ま、何かあっても荒事絡みなら私が何とかしてあげるわよ」
「ああ、頼りにしてる」




