下心ボランティア
リゼとパーティを組んでから一ヵ月と少しが経過した。
七月中旬。季節は夏真っ盛り。
これまでの停滞が嘘であるかのようにトントン拍子で事が進んでいた。
中でも一番大きいのは読み書きが出来るようになったのと昇格だろう。
スキルの話をしたからか一週間ぐらいで話がやって来て無事合格。
稼ぎが増えたのに加え読み書きも出来るようになって生活は随分楽になった。
(……本当にありがたいことだ。先生とリゼには足向けて寝られねえよ)
生活に余裕が出れば行動の幅は更に増える。
今やってる教会での奉仕活動もその一つだ。
当然、純粋な善意というわけではない。
>@Super_monkey
真っ当な宗教勢力とは仲良くしといて損はねえ。
たかだか労働程度で他人の評価をある程度、買えるんじゃからな。
為政者に目ぇつけられとるなら話は別じゃが少なくともここの領主との関係は問題なさそうじゃし。
というモンキーさんからの助言があったからだ。
世間様の評価を良くする活動の一環ということで教会だけでなく酒場でも活動している。
まあ、アレックスさんの時と同じだ。あの時と違うのはリターンは気にしてないこと。
なので俺としても気楽なもの。人助けが出来て気分転換にもなるし良いこと尽くめだ。
(本当に万事順調……だけど)
視界の隅に表示された視聴者数2。
未だ増えた誰かさんはチャット欄に現れない。
モンキーさんも最初はコメントしてなかったんだけどやっぱり気になる。
(まあでも視聴者が全員、コメントするかって言うとそんなこともないか)
俺も日本に居た頃は見る専だったし。
そんなことを考えながら掃き掃除を終え一息吐くと、
「やっほ少年。お疲れぇ」
とゆる~い声が聞こえる。
振り向けば教会の中から眼鏡をかけたシャギーショートのお姉さんが姿を現した。
薄い水色とエメラルドグリーンのグラデーションカラーの髪が特徴的な彼女の名はレティスさん。
リゼとパーティを組んで少しぐらいの時にこの教会にやって来た僧侶だ。
冒険者でもあってランクはシルバー。神魔法と体術を武器に戦う手練れである。
>@Super_monkey
う~む。やっぱ色っぽい姉ちゃんじゃのう。
ホントもう女性を見ればこれなんだから。いや美人なのは同意するけどさ。
大きくスリットの入ったロングスカートからすらりと伸びる手足。
黒衣の上からでも分かる出るところは出て引っ込むところは引っ込んだ体型。
身長の高さも相まって本当にモデルさんみたいだもん。
>@Super_monkey
やっぱ一度は口説くべきじゃろ男として。
そういうのは良いから。
モンキーさんをスルーしてレティスさんに声をかける。
「お疲れ様です。そっちも終わりましたか」
「終わったよ~。ホントもう今時感心な若者だね君は」
お茶淹れたから休憩しようと誘われたので喜んで応じる。
教会の中庭に向かうとティーテーブルが既に用意されていた。
「はい頑張ってる君にご褒美。ケーキを進呈しよう。三つあるから二つどーぞ」
「あ、ありがとうございます!」
寄付で差し入れられたものだろう。お高そうな気配がする。
これは嬉しい。甘味って自分で買おうとすれば値段が気になって腰が引けるんだよな。
臨時収入とかめでたい何かがあってとかじゃなきゃ中々踏み切れない。
「それはさておき聞いてよ少年。昨日行った食堂でおかず一品オマケしてもらってさ」
「おお、それはラッキーですね」
「でしょでしょ? で、その後買い物行ったらこれまた野菜をちょっとオマケしてもらったの」
「これもう流れて来てるでしょ」
「でしょ? そう思って昨日は色々やったワケ」
日常のささやかな幸せを自慢される。
これだけだとちょっとうざいとか思うかもしれないがレティスさんは本当に楽しそうなのだ。
だから聞いてる俺も良い気分になって嬉しくなってしまう。
「ンフフ」
「何です?」
ひとしきり自慢し終えて茶で喉を潤していたレティスさんが含み笑いを漏らす。
「いやあ、君は本当に面白いなあって」
「は?」
「他人の良いことには自然と笑えるのに自分のだと変な顔になっちゃう。気付いてないの?」
リゼと似たようなことを言われてしまう。これで二人目だ。
嘘を吐いてるとは思わないけど、
(他の人には言われねえんだよな)
そこそこ色々な人と話すようになったが俺の笑い方に言及したのは二人だけ。
敢えて指摘しないだけって可能性もあるけどさ。
何となくモンキーさんあたりはそっちな気がする。
「誰かの幸せを喜べるってのは良いことだよ。君なら神魔法も使えるんじゃない?」
僧侶が使う神魔法を習得する条件の一つに愛情というものがある。
他者への深い慈愛がなければ他の適性を満たしていても決して使えない。
だから神魔法の使い手は社会的な信用も高いのだ。
「無理無理。そんな立派な人間じゃありませんて」
使えたら便利だとは思う。
ただ資質以外の面でも習得は不可能だ。単純にキャパオーバー。過労で倒れてしまう。
「あたしよりよっぽど資格あると思うけどねえ。ま、その気があるなら何時でも言ってよ」
教えてあげるからさとレティスさんは笑った。
ありがとうございますと俺が頭を下げると彼女は別の話題に移った。
「最近、冒険者としても順調みたいじゃない」
「はい。お陰様で」
「そろそろシルバ―昇格の話もあるんじゃないの?」
「ないない」
現代風に例えるならシルバーは平均的なサラリーマンより楽して稼げる美味い職だ。
美味い職なんてのはそう簡単にありつけるものではない。
「……ふぅん? あたしはそうでもないと思うけど、ね」
「ありませんて」




