「未來のおっぱいちいせぇ~!」「うるせーぞ! そういうことはチンチン硬くなる年齢になってから言え!」
土手から見える景色。
そこには未來の姿があった。
おじいちゃんと語りあったあのベンチに腰掛けながら、あのときと同じくタバコをふかして眺めている。
なんとなく、マッチの火でつけたのだが、この味はやはり好きになれない。
あの後、どうしても気になったので三角山に行ってみた。
しかし、あの時に登った道はどこにもなく、もちろん洞穴も見つからなかったし、登頂するまでの時間もやはりあの時のようにはかからなかった(とはいえ私にとっては死ぬほどつらかったけど)。
かつて図書館で見た新聞記事の三角山に関する異常現象との関連性ももはや不明。おじいちゃんがいなくなった今、その真相を究明することももうできない。
どの時点から紛れ込んでしまったのだろう?
それすらわからずじまい。
やはり、事前に仕組まれていたことなのだろうか。
そのすべてが。
いや、それは考えまい。
土手に目をやる。
「おっしゃ! 行くぞ~」
未來が掛け声をあげた。
「おー! 行け行け~!」
子供たちも叫ぶ。
「ちゃんとつかまっているか! って、お前どこ触ってんだ!」
「未來のおっぱいちいせぇ~!」
「うるせーぞ! そういうことはチンチン硬くなる年齢になってから言え!」
未來が子供たちを自転車の後部座席やカゴに満載して土手から駆けおり、そのまま川の中へ突入するという謎の遊びに夢中になっていた。
速度を緩めない自転車は勢いよく突っ込むとものすごい水しぶきをあげて、同時に子供たちの声も高らかに響く。
「お~し! そろそろ終わりだぞ~!」
子供たちは何とも楽しそうな顔をしている。
まぁ、一番うれしそうにしているのは未來なんだけど。
『この先数年後には、許されない遊びになるんだろうな』
誰かの未来を見たときに知ったのだが、そう遠くない未来では自己責任のはずの公園の遊具を利用して怪我をした子供の親が平気で管理者を相手取り、損害賠償を訴えるようなことも起こる世の中になるらしい。
そういう点からすれば、いま未來がやっているような遊びはまっさきに注意されるだろうな。
未成年の喫煙についても、いまはそこまでうるさくないし。
とはいえ、もちろんダメなことなんだけど。
でも、そう考えると、今はまだおおらかな時代なのかもしれないな。
未來たちのほうから賑やかな声が響いている。
なんとも楽しそうそうだ。
そういえばおじいちゃんが言っていたっけ。
未來には人を喜ばせる力があるってことを。
少なくとも、子どもたちの表情からはそんなことが窺い知れる。
などと思っていたところで、子供を満載した自転車は着水前に豪快に転倒。
自転車から地面へ投げ出された子どもたちが悲鳴や泣き声を上げている。
「痛たた……お前ら、大丈夫か?」
さすがの未來も子どもたちに気を使うセリフを口にしている。
が、そんな気遣いもほんの間もないこと。
いつまでも泣きやまない子どもたちにしびれを切らして、あろうことか恫喝。
「泣くなクソガキ! 痛いのはお前らだけじゃないんだよ! あたしだって痛いんだ! 大体にして男なら我慢しろ!」
そうかもしれないけれど、それなら最初からやるやよ……。
というか、全部お前のせいだろ。
「男ならピーピー泣くな! いい加減にしないとチンチンもぎ取るぞ! いいのか? こら!」
いや、ダメだろ、それは。
にしても相変わらず、無茶苦茶である。
けど、まもなくすると子どもたちはさっきまで痛がり、泣いていたのもウソのようにまたも危険な遊びに夢中になっている。
確かに一見滅茶苦茶なことでも丸く収まるというか、ハッピーにする何かを持っているのかもしれないな。
まぁ、子どもたちがタフなだけかもしれないけれど。
「今日はこれまでな! お前らさっさと帰れ! 寄り道すんなよ!」
「うるせ~バカ! じゃ~な!」
「おらっ! このクソガキがぁ!」
「逃げろ~!」
「ふん、まったく」
私が後ろから近づいていることにまるで気がついていないらしい。
「未來」
声をかけた。
「おっ、華子?」
振り向く未來。
その笑顔が眩しいのは、今しがた登り始めた夕日を背にしていることだけが理由ではないのだろう。
「一緒に帰ろうか?」
「ああ。あともう少しだけ待ってよ」
そう言うと、子供たちが帰っていく姿をじっと見つめている。
「なにしているの? さっさと行こうよ」
以前なら、即こういう言葉が出ていたはず。
けど、今は違う見方をしている。
未來は子供たちが無断で川遊びを始めたりしないように見守っているのではないだろうか?
いや、たぶんそうだろう。
こんな目で未來を見ることができるなんて、ちょっと意外。
いや、もしかしたら今までの私はそういう未來の行動を理解する気がなかっただけなのかもしれない。
あの不思議な存在と出会った時の勇気、行動もそうだし。
おじいちゃんが言っていたように、実はそういう優しさを振りまいていたのだろうな。
それも、たくさん。
このことに限らず、おじいちゃんの一件以前以降とでは、私たち姉妹の関係に変化が現れたような気もしている。
変化といっても未來は変わっていない。
変わったのは私だろう。
そう思いたいだけなのだろうか?
なんとも言えないけれど、変わった、はず。
「まっ、あんなガキ共でもあたしの大事なかわいい子分たちだからな」
『やっぱりね。そう言うと思った』
いや、変わったのだ。
それもプラスの面を汲み取れる視線で。
あんたって、やっぱりそういうところがあるんだよね。
「あいつらいがいないと天狗の葉の集まりが悪くなるからな! せいぜい大事にしてやらないと」
「そっちの意味で大事なのかよ……」
とはいっても、マイナス面での評価も同じぐらいあるのだ。いや、そっちの比重のほうが高いかも……。
と、その時、おじいちゃんが言っていた、未來が内包する光と闇の関係についての話を思い出した。
『この子はあまり優しくなり過ぎないほうがいいのだろうか? その分の辛さ、闇を深めないためにも……』
でももちろん、そんなことは未來には言えないけれど。
「でもよ、知ってるか? ああいう宝探しってガキであるほどうまいんだよな」
「アホウ! あれは宝じゃないだろがっ!」
とりあえず、ツッコミを入れておく。
「まぁ、探すものはさておき、ワクワクやドキドキに関する嗅覚って、幼いほど敏感なのかもな」
確かに。
そしてふと思った。
「でもさ、葉っぱ探しが一番得意なのはあんたでしょ?」
「おっ? なんでわかったんだ?」
『やっぱりか』
それというのも未來の集まりにおいて一番精神年齢が低いのは、ダントツでお前だろうから、と思ったけど黙っておく。
その間を借りてタバコを取り出し火をつけた。
今度はいつものライターで。
「おい! ウマそうに吸ってんな! あたしも吸わせろ!」
そういうと私の手からタバコをひったくって口に加えて一気に吸った。
そして、
「げほ、げほ、うげ~!」
むせる。
「まずぅ~! お前良くこんなもの吸えるよな!」
そういうと、ぺっぺとつばを吐き、タバコも私に返さずその場に投げ捨てた。
「あのさ、それ、まだ一口しか吸っていないんだけど……」
てか、お前のほうがもっとやばいの吸ってるだろうが、あの掘っ立て小屋の中で。




