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おじいちゃんは惨殺ともいえる状態でありながら、その表情は不思議なほど安らかだったという。

意を決したタイミングで、突然電話のベルが鳴った。


「あら? 電話? こんな時間に……」


ママが席を立ち、電話を受けに行った。


朝七時に鳴る電話。


深夜の電話と同様に、早朝の電話にも何らかの意味を含む場合が多い。

それも平日なら学校関連の連絡とも考えられるが、日曜ともなると……もしかして……。


「はい、ええ」


相槌を打つママの顔から次第に元気がなくなっていくのがわかる。


予感が走る。


受話器を置いて、ママが言った。


「隼人君のおじいちゃん、亡くなったって」


『やっぱり……』


予想はしていたけれど、やはりそういう結末になったのか。


その後パパとママが近所の寄り合いで知った話によると、おじいちゃんは昨晩遅くに家に戻って、みんなでご飯を食べたあとにまた外出したらしい。


そしてその出先で死体となって見つかった。


なんでわざわざいったん家に戻ったのか?


自宅に戻っても特別な話題もなく、いつもどおりの感じだったのだとか。

家族全員と食卓を囲みつつ、世間話をしてからすぐに出て行ったのだという。


私たちのこともそれとくなく会話に含ませたようで、夕方に土手で会って軽く会話をした後に別れたと言っていたらしい。

その際に私たちが山登りに行くという嘘までついてくれて。

帰宅が遅くなるのを配慮くれたことなのかもしれない。


でも、家を出た後の結末は、おじいちゃん本人が一番知っているのだから、本当は家族一人一人にお別れの言葉の一つもかけたかったはずだ。

しかし、その後の不要な憶測をさせず、事故を装うためにそれをしなかったのかもしれない。


そしてこれは勝手な予想でしかないのだけれど、おじいちゃんがお膳立てをしないまま死んでしまっては苦しい立場におかれるであろう私たち姉妹を気遣ってくれたのではないか?という考え方もできる。


私たちに会ったことを言わずに死んでしまっては、最後にコンタクトをとった知り合いとしての目撃証言が上がると、まっさきに疑われるのは自明の理。

そうすることで、能力のことやあの不思議な存在のことなど、おおよそ誰も信じてくれないような話をしなければならず、完全に立場を失うことになるのを危惧したのではなかろうか?


なんにせよ、おじいちゃんの行動のおかげ(というのは気が引けるけれど)で、私たち姉妹には何の類も及ばなかった。


そしておじいちゃんの死体の第一発見者であるおしゃべりおばさんの話によると、体はズタズタに引き裂かれてとても直視できる状態ではなかったらしい。

とはいっても見たからこそ、そんな詳細が分かっているだろうけど。


しかし、そんな惨殺ともいえる状態でありながら、その表情は不思議なほど安らかだったという。


なお、この事件は新聞にも大きく掲載されていて、ニュースとしても取り上げられた

そしてあの日の出来事も。


「夜の三角山に闇が覆う云々」


ということが、地方紙の片隅に数行程度の内容で報じられていたが、こちらはわが町によく起きる「またか」な、たわいなき超常現象の一つとして片付けられており、町民の記憶からは速やかに忘れ去られていった。


私たち姉妹を除いては。


お通夜。


小さな町なだけに、近所の人たちはほとんど集まっていた。


そして故人に思いをはせ、あちこちから嗚咽や鼻をすする音が聞こえてきた。


隼人、そしてその両親も。


私はその姿を直視できなかった。


それは私が……やはりというかなんというか、悲しいのだけれど涙を流すこともなく無表情のままだからにほかならない。


大好きな人との思いを共有できない。


疎外感。


小さいときの思い出から、つい先ほど体験した超常現象まで脳裏に去来する。

おじいちゃんとは、いろいろな思い出があったことがよくわかる。

なのに……


『やっぱり私はおかしいのだろうか?』


おじいちゃんのことが好きだったのに、涙の一滴もこぼれないなんて。

未來はというと、真横で顔を上げられないぐらい号泣しているのに。


そう思うと、なんだか悲しくなってきた。


おじいちゃんにではない。

他でもない自分自身が。

いろんな意味を含め、自分に対してだけはいくらでも悲しめるのに、他人にはまるでなんにもなし……本当に最低だ。


しかし、そんなことを思った時に、目の奥からにじみ出る暖かな感触を覚えた。


『えっ?』


涙。


私泣いているの?


たった一粒とはいえ、ちょっとした驚き。


やっぱり悲しいんだよね?

そうだよね?

正しく、悲しんでいるんだよ、私。


そして思った。

なんで涙って温かいんだろう?って。

喜びの涙も悲しみの涙も温かさは一緒(だと思う)。

それが、ちょっと不思議。


でも、この涙は理屈じゃない。


そう、理屈ではないのだ。

未來の言う通りかもしれない。

理屈ではない。

が、それなら一体なんなのか?


となりで大泣きしている未來を見ながら思った。


『今はわからないけど』


わからないけど、私にもいつかはわかる時がくるのかも。

それこそ、未來みたいに泣くことができれば……。


「バナゴ~!!」


そういって私を見上げた未來の顔は、涙と鼻水とよだれでぐちゃぐちゃだった。


『うっ、汚っ!』


無言のままハンカチを渡す。

私のハンカチなのも構わずに、ブシブシと鼻をかみ、涙を拭っている。

これは……もういらないな。


それはさてお、やっぱり、私はこのままでいいや……。

そう、無理する必要なんてない。


どうしたところで未来は決まっている……からではない。

未来は変えられる、かもしれないから。


泣こうが泣くまいが未来は訪れる。


それなら……。


泣くことで、今を認識することで未来が変わるかもしれない。

それならどちらを信じたいのかは言うまでもないこと。

だからこそ今を大事にしながら進んでいけばいいのだ。

そう、無理をせずに一歩一歩。


今は、一滴の涙を信じていればそれでいい、はずだ。

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