もし否定するのであれば、それはあたしらがあたしら自身の存在をも否定するのと同じこと。だからさ、これは全然ありなんだ。そう、信じなきゃいけないんだよ、このファンタジーを。ありのままに
現在、過去、未来、宇宙、深海、地底、天国、地獄……さまざまな「事」が血管を流れる血潮のように脳裏に去来した。
それは、とてもいやな感触。
『なんなの? この感じ? やっぱりここに来たのは間違いだった?』
気持ちが悪い。
頭がおかしくなりそう。
生命に害をなすバイブレーションが心に響きわたる。
『もう嫌だ……』
きつく目をつぶり、聞こえるわけでもないのに耳をふさぐ。
外敵から身を守る時の動物の生理。
だけど、本当は器官を解放したほうが身を守れるんだろうな。
目、耳、鼻、のみならず五官を、そのすべてを。
なんで、動物は本能的にさらに自身を危険に陥れる行動をとるようにプログラムされているのだろう?
本当の敵は外部なんかの要因ではなく、こういう行動をとる自分自身にあるのかもしれない。
『目を開けなきゃ! 耳を澄まさなきゃ! それでなければより危険に……いや、それ以上にいったい何のためにここに来たのかわからないじゃない! 知るために、何かを感じ取るためにここに訪れたんだから!』
でも、体は相変わらず言うことをきかない。
『動け、私! こんなことじゃまた未來に馬鹿にされるよ! 悔しくないの!』
そうは思うが、まるで体は言うことをきかない。
まるで恐怖に凍結したかのごとく微動だにしない。
しかし、その時まるでどうすることもできない凍てついた私を温かく包む感触がじんわりと伝わってきた。
『えっ? なに?』
ゆっくりと目を開けると、未來だった。
未來が私の体を抱きしめていたのだ。
懸命に私を守るように。
それも力強く。
「だ、大丈夫、任せておけって」
私の視線に気がついたのか、未來は舌の先で口の端を舐めながら言ったが、それが強がりなのはバレている。
未來の体は震えているから。
見ると歯の根もカチカチいっている。
恐怖しているのだろう。
それも正確に。
だから、その辺が麻痺してしまっている私以上に怖いはずなのだ。
本音としては。
でも、恐怖におののいている私の盾となって、ギュッと抱きしめて守っていてくれている。
「あ、あたしは、約束は守るぞ。華子を絶対に守ってみせる。何があってもね」
無理矢理な笑顔とウインク。少しでも安心感を与えようとしての気遣いなのだろう。
言われて思い出した。先程の土手での約束のことを。
『未來……』
何をやっているんだろ私?
あんなに小馬鹿にしている未來に守られている。甘んじている。
私はそんな未來の姉だよ?
普段姉貴風を吹かせているのに、こんなときは逃げ腰なわけ?
それも普段はデタラメで、間違いについては(バレバレだけれど)嘘をついたりごまかしたり、開き直ったりするようなやつだけれど、こんな土壇場においてはキチンと律儀に約束を守ってくれているのだ。
それも自分の生命を盾にまでして。
そこにきて私はどうなの?
ここ一番ではなんの役にもたっていないどころか、足まで引っ張っている事実。
本当は手本を見せなければいけない立場なのに。
そう、そうよ! こんなときにこそ奮起しないと!
「未來、怖いよ……私。こんなの信じられない」
しかし、口から出たのはそんな意気込みとは裏腹にさらなる助けを求め、未來をも不安にさせるセリフだった。
情けない。
情けないよ、とことん。
しかし、それを聞いた未來はより力を込めて私を抱きながら言った。
「怖いよな。けど、信じなきゃダメだよ、この現実を。受け止めなくちゃいけないんだ」
何を言っているの?
それはどういうこと?
「なぜ?」
すると未来は無理に笑って見せながら続けた。
「なぜって? だってさ、このあり得ない状況って、まんまあたらしら姉妹の能力にも言えることじゃん。だから、この事態を否定することはできないはず。そう、少なくともあたしらだけはね! もし否定するのであれば、それはあたしらがあたしら自身の存在をも否定するのと同じことなんだからさ」
「……」
「だからさ、これは全然ありなんだ。そう、信じなきゃいけないんだよ、このファンタジーを。ありのままに」
『確かに』
そうなのだ。
私たちの能力だって、他人から見ればこのレベルでの未知なる領域に踏み込んでいることのはず。
それを怖がるなんて。
否定するなんて、確かにもってのほかだよね。
でもさ未來。
あんたって、なんでそんなことを分かっているわけ?
全然勉強していないのに、物事の核心をズバリと言い当てられるのはなぜなの?
あれこれと学んであんたよりいろんなことを知っているはずの私が、まるで考えの及ばないことまでサラリと感じ取り、実行できるなんてさ。
そこにきて私はどう?
逃げるため、言い訳するための知識を学んできた私にはわからなくて当然のことなのかもしれないな。
未來はきちんと現実に真っ向対峙して、事態を正確に理解し、正しくおののいているのだ。
そして戦っているのだから。




