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せいぜい感謝しておけ。貴様らがいま生きてこやつをさげすむことができるのは雑魚と見下しているこやつのおかげなのだからな。

「戦争が、終わる?」


顔を見合わせる隊員たち。

さわさわと会話が聞こえるが、その視線はまたも僕へと集まっている。


「貴様らがここまで生き延びるために、こやつがやってきた言葉の殺戮は現時点でも…千人はくだるまい。隊員全二十三人の延命のために流された血、消費された金、欺かれた心、失われた時、そしてそれにまつわる流言飛語の犠牲まで上げ始めるときりがないほどにな」


「その残虐性、華麗さ、与えた被害は敵だけではなく味方にまで及んでいるのだ。貴様らの観点からすれば、良くも悪くも多大なる功労者、英雄といっても過言ではないだろうな」


ショックを受けた。

でも、実はわかってはいた。

自分のしでかしてきたことの途方のなさついては。


が、こういう形で言われると改めて実感せずにはいられない。

他人が僕をあざける目的で言う程度の不確かな情報などではなく、それら人類を超越した者の視点からの言葉ともなれば、そこに間違いなどないだろうから。


しかし、隊長は反論した。

虚勢を張らずにはいられない立場であるのだから、言われっぱなしでは示しがつかないためかもしれない。


「なにを馬鹿なことを。人間にとっては目に映るもの、聞こえる音がすべてなのだ。こやつの行為に勇気は伴っていない。多くの敵を倒したかもしれんが英雄としての実績、長としての資格などはない」


「ふふ。目に見えたもの、聞こえたことでしか反応できない貴様らの狭い見識と視野では把握しきれぬのもまぁ無理はない。しかし、貴様は子供のころ蟻を踏み殺したことがあるようだが、その時の蟻の状況やおおよその殺した数は把握できていただろう」


「だが、それを当の蟻たちが理解できているのか、というとどう思うのだ? それと同じことで貴様らの目が行き届かないところにも私の目はきちんと捉えている」


「……」


「付け加えるなれば、私には当然貴様らの考えていることなどすべて分かっておるのだ。こやつは知っていたぞ? 自分が行ってきたことの残虐性、それによる我が身が潰されそうなほどの圧力、言葉を理解できることによる嘆きや呪詛の数々をな」


「私の見立てでは、その重圧に耐えられるほどの精神力を持っているものはこの場ではほかにはおらん。もちろん貴様も含めてな。貴様の言葉に当てはめても、こやつには英雄たる資格は十分すぎるほどにあるだろうよ」


「せいぜい感謝しておけ。貴様らがいま生きてこやつをさげすむことができるのは、なんのことはない雑魚と見下しているこやつのおかげなのだからな。そしてせいぜい媚を売るがよい。貴様らの内の幾人かは生贄となるのは決定済みのこと。こやつの胸一つでどう転ぶかもわからんのだぞ? ふふふ」


さすがに隊長も黙り込んでしまった。

しかし、変な話ではあるけれど、僕はもっと隊長には反論してほしかった。

そうでなければこの不思議な存在が言うように、僕の所業が肯定されてしまうことになるからだ。

幾千幾万のみならず、末代までに轟く名もなき殺戮者。

すなわち僕の下してきた悪行の数々を。


「蟻が貴様らの存在について把握し切れていないように、貴様らも私の存在について把握し切れてはいない。そしてそんな私もその上を行く存在について、否定もしないし同様に把握もできていない。案外そんな私を見ているのは、貴様らが何の気なしに踏みつけて殺している虫けらなのかもな。くくく。ありうることだ。大いにな」


話がひと段落したところで、またも隊員たちが会話をはじめ出した。


「けっ、何が隊長だよ」


というような、露骨なまでに反旗をひるがえす声も少なくはない。

状況が一転してしまったのだ。

この不思議な存在のリードによって。

高みにいた隊長の権威は崩れ落ちた。

それを崇めていた者ほどわかりやすいぐらいに憎悪をあらわにしている。


「おい」


「ああ」


以心伝心。


「いい機会だぜ。いままでのお礼をさせてもらおうか?」


だれともなく目配せして、隊長を包囲した。

しかし一部いまだ隊長の威光を信じている者たちがそこに対峙する。


「おい、いままでずいぶん好き放題にやってくれたな? あっ?」


「貴様ら! 隊長の恩義を忘れたのか!」


「こんな状況になってまで隊長もクソもあるかい、この腰ぎんちゃくどもが! お前ら含めてぶっ殺してやろうか?」


「この恩知らずどもが!」


過熱した隊員たちの怒りは雪崩をうって口から弾け出た。

しかし、隊長は臆することなくそんな連中を睨みつけている。


「謀反とは馬鹿な連中よ! 上等だ! 叩き斬ってくれる!」


隊長の怒声を合図に四方八方から取り囲んでいた隊員たちが襲いかかった。

が、しかし、


「あ? あれ? どうなっているんだ?」


「なぜだ? なぜ斬れないんだ?」


眼前には不思議な光景が繰り広げられている。

刀は切りつけた相手の体に届いているはずなのに、なぜか斬られていない。

その後ピストルを発砲した者もいたが、弾丸は飛び出さなかった。

何かが起きているのはわかるが、何が起きているのかは理解できない。


たぶん、これも不思議な存在の力によるものなのだろう。

そうとしか言えないような事態。

すべての暴力的行動が空回りしている。

それに気がついた一堂は隊長の襲撃を諦めて、唾を吐いて口々に罵るだけに終わってしまった。


が、しかしまた始まりでもある。

少なくとも僕にとっては。


「生贄を三十人以上、お前が決めるのだ」


不思議な存在が言った。


「その時まで待つ。到来したときにはまた話し合うことになるだろう」


そう言い残すと、不思議な存在は沈黙してしまった。

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