貴様らが腰に携えているピストルとやらでは、目の前の相手を倒すにとどまり、その場限りの出来事で終わることがほとんどだろう。しかし、言葉による殺傷はその限りではない。広がり、そして深まる
何の価値もないどころか、尊厳もなく、見下して、足を引っ張りあう。
祖国に帰ったところで結局、そんな考えしかできないのであれば害悪にしかならないだろう。
そんな喧騒も物ともせずに、隊長が発言でもって場を収めた。
「まぁ、待て。騒ぐな。とりあえずあやつと話してみることにしよう」
自分の命の安全が確定したことによる余裕もあるのだろう。
いつもに増した尊大な表情で一堂を見まわし、おもむろに不思議な存在へ話しかけた。
「おい、聞こえているか? 話の準備はできた。耳を貸せ」
「……」
まるで反応がない。
「おい! 聞こえていないのか!」
隊長が焦れて大声を出したが、その沈黙を破った返答は意外なものだった。
「貴様なぞお呼びではない。私が指名したのは長だ。それ以外の者の願いは聞けぬ」
「なんだと?」
隊長が怒気を含めてすごんだ。
それはそうだろう。
自分が長であることは自他共に認めること。
いつでもだれもが畏怖する存在。
それを頭ごなしに否定されては捨て置けない。
「長は私だ! ここにいるものは全員私が率いている!」
「形式上はそうなのかもしれぬが、実質は違うな。長は貴様ではない」
「それなら誰だというのだ!」
「ならば聞くが、貴様らのやっている戦争とか言う戯れにおいて長となるべき人物とはどういう者を指すのだ?」
突然の質問。
しかし隊長はそれに即答した。
「それは能力のある者だ。言うまでもない」
「ほう。それならわかっているではないか。貴様が長ではないということを」
「それはなぜだ?」
イライラを隠すことなく言い放った。
場所場合相手がどうあれ、愚弄だけは許せない性格なのだろう。
「戦争とやらで能力を測るとして、多くの武勲を立てたのかを競うのであれば、貴様はここでは二番手だ。倒した敵の数は×××人。しかも一番には遠く及ばず」
「なんだと?」
ものすごい形相で睨む。
もちろん不思議な存在は微動だにしない。
「それならどいつが長だというのだ? 言ってみろ」
苦々しい顔をして問い詰める。
「それはお前だ」
その声が響いたとき、僕を指していることを感じ取った。
周りの隊員も同様だったようで、みんなの視線が僕の顔へと集まった。
そして騒然とする。
驚き、あざけり、その他諸々。
「おいおい、いったい何を言うのやら! 虫すらまともに殺せないんだぜ? こいつは!」
「うはは! こいつは驚いた!」
大部分が嘲弄。
なのだが、一転隊長だけはぶ然とした顔つきで僕のことを見ていた。
そして声は続く。
「貴様らの進歩のなさには呆れるだけだな。人間との再会は貴様らの時間とやらに換算して×千×百×日×時間×分×秒ぶりとなるが、貴様らは歴史を積み重ねるほどに文明も知能も退化していく生き物なのか。ふふふ」
「わけを聞かせてもらおうか?」
それまでの怒気を沈めて静かに隊長は問うた。
「言葉の持つ恐ろしさについての説明は必要なかろうに。貴様ら個人の力では倒したところでせいぜい数十人数百人程度のものだろうが、しかし、こやつの武器である言葉は次元が違う。数千、数万、いやそこから波及するもろもろのことを考えるとそれどころではない」
「……」
はやし立てていた連中も黙りこんでしまった。
「貴様らが腰に携えているピストルとやらでは、目の前の相手を倒すにとどまり、その場限りの出来事で終わることがほとんどだろう。しかし、言葉による殺傷はその限りではない。広がり、そして深まる」
「聞いたものの口づてで家族や友人という横への広がりのみならず、子や孫へと縦の方向にも受け継がれていくという負の連鎖を生みだすことも多々ある。だからこやつのやらかした殺戮はまもなく終わる戦争の後も広く根深く多くの人間の憎悪の対象となっているのだ。それは発信者の死後もなおな」




