「おっほ~! 華子の乳は大きいのう! これが男子を釘付けにしている噂の巨乳かぁ~」「おい、どうなんだ? ん? 野郎どもの視線が痛かろうに!」
「あっぶな~い」
笑い顔の未來が泳ぎの体制のまま、こちらに突っ込んできた。
運動神経の乏しい私はその不意な突撃をよけきれず、未來ロケットを全身で受け止める形になった。
全力で体当たりを食らったのだが、不思議と痛さはない。
衝突した勢いで体が押され続けているような感覚。
海の中のような……いや、無重力?
とも違う。
踏ん張ったら止めることができたので、重力は働いているのか?
なんにせよ、もっと意味も理解も及ばない空間のような気がする。
いったいここはなんなのか?
「おっほ~! 華子の乳は大きいのう! これが男子を釘付けにしている噂の巨乳かぁ~」
そういうと未來は私の胸元で顔をフリフリしながら押しつけてくる。
「おい、どうなんだ? ん? 野郎どもの視線が痛かろうに!」
薄汚いセクハラ親父のような言葉責めを繰り出して、ひとり悦に入っている。
確かに未來に比べると私の胸は発達しているのだが、男子どもからそんな汚らわしい視線を受けていたなんて知らなかった。
なんとなくシャワーを浴びたい気分。
いち早くこの空間の謎を解くなり、脱出するなりしなければならない。
と、その前にアホの緊縛をほどかなければ。
いまだ笑い顔でじゃれついている未來の後頭部に肘鉄を加えた。
「いい加減にしろっての!」
「なんでだよぉ、おもしれぇじゃんよ~」
「面白がっている場合か!」
「なんでよ? 楽しいならそれでいいじゃん」
「このボケナス! 恐怖こそあれ、ひとっつも楽しくないわ!」
「わかったわかった。ったく、損な性格しているよな」
『どこが!』
口に出して言いたいところだが、もめている場合ではないので心の中で毒づくにとどめておく。
そして私から離れると背負っていたリュックの中をまさぐりだした。
なぜか手にしたのは祓串。
どういう事態を想定すればそんなものをわざわざ持ってくる気になったのか、まったくもって意味がわからないし、加えていやな予感しかなしない。
未來は舌の先で唇を舐めつつ腕まくりをした。
こいつがこの表情を見せるときは要注意。
なので、すかさす釘をさす。
「おい、お前いったい何をする気だ?」
「あっ? 決まってんだろ? じいちゃんのダチンコが出てこないのなら呼び出すまでのことよ」
「あのな! もうどう考えても友達とかいう話じゃないだろ!」
私の言うことなどまるで聞き流し、祓串をおもむろに振り出してやかましくわめき、踊り始めた。
「かしこみ~! かしこみ~!」
その様はまさに狂ったイタコだ。
『見ていられない……』
これが本当に同じ血の通った姉妹、しかも高校生にもなった人間のすることなのだろうか。
ボルテージの高まりに合わせて踊りは一層激しくなり、飛んだり跳ねたりし始めた。
「ふんが~!」
もうすでになにを言っているのかすらわからない。
大口を開けて獣のようにわめきつつ、ゴロゴロと転がりまわっている。
「きえ~い!」
白目をむいてエビ反りになりながら吠え続けている。
見た目性格ともに似ていないとはいえやはり双子。
その醜態がまるで自分の一部かのような錯覚が起き、背筋が寒くなる思い。私の中にもこんな馬鹿で恥ずかしい一面が、表面に出てこないだけで潜んでいるかと思うとゾッとした。
たまらなくなり制止をする。
「ちょっと待て!」
「待ったなし!」
「なら止めろ!」
「なんだよぉ、せっかくのってきたのにぃ!」
「なにがのってきただ! おかしなものが降霊したらたまらんわ!」
「お前も馬っ鹿だなぁ。こんなことぐらいでどうなるわけでもないだろうに」
自分の幼児性を棚に上げ、まるで子供をたしなめるような口調でやたらと偉そうだ。
「わかっているんなら、そもそもやるな! それも全身全霊で! って、お前聞いているのか!」
大口を開けた馬鹿顔はいつものことだけれどあらぬ方向を見ながら驚きの視線で見続けている。
「あわわ……」
ただならぬその表情からいやな予感を読み取り、ゆっくりと未來の視線のある方に振りくむと、
「うわっ! ななな、なんだぁ!」




