清潔でいて、汚れのない。 汚れようのない。 すべてを飲み込む。 黒。 闇。 とても危険な清潔感、惑わされてはいけない美しさ。
闇の中の空間は、やはりただ事ではなかった。
暗い。
ひたすらに暗い。
すべてが黒く塗りつぶされている。
天地左右の区別がなく、まるで水の中、いや宇宙空間に漂っているような感覚。
足もとも真っ黒なので、本当に地面の上に立っているのかもわからない。
それがとても不思議、そしてなぜか綺麗。
なんにもないのに、いや何もないからこそそう思うのかもしれない。
清潔でいて、汚れのない。
汚れようのない。
すべてを飲み込む。
黒。
闇。
とても危険な清潔感、惑わされてはいけない美しさ。
おじいちゃんは、その空間の真ん中あたりにいた。
どこを見るともない視線を泳がせながら。
そう、この点も不思議なのだ。
光がない空間なのになぜかおじいちゃんと未來の姿がはっきりと目に映っている。
まるで巧みに作られた合成写真のように、闇の中でありながらぽっかりと二人の姿があるような感じ。
「おじいちゃん!」
呼んでみたが返事はない。
聞こえているのかどうかもわからない。
もう一度叫ぶがやはり変わりなし。
水中を漂うクラゲのように、おじいちゃんが闇の中に浮かび上がっているだけだ。
そんなやり取りに焦れたのか未來がぼやいた。
「ったく、世話の焼けるジジイだな」
そういって駆け出したのだが……
「あれ? どうなってんだ一体?」
走る未來。
しかし、ルームランナーを走っているように一向前には進まない。
さらに速度を上げる、が、やはりダメ。
全力で駆けるも、まるで前に進まないその姿はコントでも見ているかのようなおかしみすらある。
そして、なぜか転ぶ。
「痛たっ!」
豪快に転倒した。
どう見てもなにもないところなのに、なぜ転ぶことができるのか?
それはさておき、意外な反応が返ってきた。
「くねぇ! まったく痛くねぇぞ! なんかすげーよ、ここ!」
確かに変だ。
未來は突然泳ぎだした。
水をかくようなしぐさで、あたりをスイスイと動き回っている。
「あはは! こりゃおもしれーぞ! とー!」
未來がはしゃいでいる。
バク転をしたり前転したり転げまわったり。
直前までおじいちゃんを追いかけていたことなどまるで忘れたかのように、このおかしな空間を楽しみはじめた。
どこであろうと、安定して馬鹿。
もうアレは放っておくとして、この後はいったいどうすればいいのか?
おじいちゃんとは接触できず、かといって戻るにしても暗闇に囲まれているため、どこから来たのかもわからなくなった。
すべては闇が呑み込んでしまっている。




