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「行こう」そう言うと未來は私の手を握って歩き始めた。未來は自分が怖いというのもあるのかもしれないけれど、それ以上に私を落ち着かせ安心させるために手を握ったような気がする。

「おっ? やっぱり来たか。関心関心。いつもそういう心掛けでいてほしいもんじゃな。ふぉふぉ」


未來が冗談を交えて偉そうなことを言った。


「ふざけるな。あんたなんかに言われっぱなしのままで済ませるわけにはいかないからね。死ぬようなやつじゃないけど、万一死なれでもしたら言い返せないままで気分が悪い。勝ち逃げなんて許さないよ」


私の話を聞くと、未來は白い歯を見せて笑いを浮かべた。


「まぁ、なんでもいいぜ。この際は。それよりも急ごうか。もうじいちゃんが用事済ませた後だったら洒落にならんからな」


行く先を示す漆黒は傾斜面にぽっかりとあいている洞穴へとつながっている。

どうやらそこが目的地らしいのだが、どうしてこんなところに洞穴が? 防空壕?

いや、こんな民家から遠くはなれた場所になんて作るわけがないし……。


「おっ! なんだよここ、すげーよさそうじゃん! あたしの新しいアジトはここに決まりだな!」


はしゃぐ未來。

まったく様子の異常さなどには警戒していないらしい。

その愚鈍さ、こういう場合にはある意味うらやましいかも。


しかし、警戒は怠れない。

洞穴の中には何が潜んでいるとも知れないだけに、慎重に行動する必要があるからだ。


ゆっくりと洞穴に近づいたその時、


「おーい、じいちゃーん!」


未來が大声で呼びかけた。

ガクッ! やはりと言うかなんというか警戒心ゼロ。


「って、ちょっと待て!」


「あ? なんでだ?」


「なんでもなにも、危険なものが潜んでいるかもしれないだろ! もう手遅れだけど」


「大丈夫だって、実際なんにもなってないんだし」


「あのな、それは結果論でしかないんだよ! 普段の行動含めて慎重に、って言いたいんだよ私は」


「わかったよ、うるせーな! 今度からな!」


力強く口答えするも実はなにもわかっていないだろうし、また同じことするだろうな。絶対に。

そして未來は堂々と、私は警戒を解かずにソロリと洞穴の中に足を踏み入れたのだが、


ビクッ!


途端に心がまるで静電気にでも触れたようなビリっとしたショックを受ける。


『なに? この感じ?』


懐かしさ、敵対心、包容力、未来、希望、過去、絶望……一瞬にしていろんな感情が渦巻き、心を、そして頭を駆け巡り、体の中で鳴り響いている不思議な感じ。


共鳴?


でもなんで?


こんな気持ち、初めての体験。


恐怖とぬくもり、厳しさと優しさを内包している超感覚。

未來が振り向いて私のほうを見ている。

その表情からは未來も同じことを感じたのであろうことが読み取ることができた。


私たちの力に対してアプローチしているのは間違いなさそうだ。


危険とも言い切れず、かといって安全な気もしない。

理解の及ばないことには踏み込みたくないのが私の考えなので、本音で言うと立ち去りたいのだが、今回ばかりはそうも言ってられない。


この件については逃げないとさっき誓ったばかりではないか。


未來に後ろを見せるわけにもいかないのだ。


未來にだけは。


そしてなによりもこの違和感がもたらす一つの答え。

すなわち私たちの能力に何らかの関わりを持つ可能性が高いという事実。どうなるのかはわからないが、踏み込んでみる価値は大いにありそうだ。

そんな思いが私の顔に現われていたのか、こちらを見ていた未來は一つうなずくと洞穴の奥へと歩みを進めた。

そして私もそれに続く。


洞穴は中を進むにつれて闇は増していく。


進むと言ったが、飲みこまれているという表現のほうが近い。

しかし、次第に目も慣れてきていることもあって、どうにか先に進むことができている。


『おじいちゃんはどうしているのか……』


この先にいることは、ほぼ間違いないはずだが。

すると未來が珍しく真剣な顔をして小声で話しかけてきた。


「なんか、気配を感じる」


光も音も、全くと言っていいほどないこの空間において気配?

でも未來の獣的五感が反応したということはおじいちゃん、そしてもしかしたら別の何かもいるということになる。


「おじいちゃん?」


「うん。とりあえずは、ね」


返事を濁すところをみると、つかみ切れていない部分もあるのだろう。


「行こう」


そう言うと未來は私の手を握って歩き始めた。

手の平から伝わる体温に気持ちが安らぐ。


未來は自分が怖いというのもあるのかもしれないけれど、それ以上に私を落ち着かせ安心させるために手を握ったような気がする。


どれぐらい久しぶりなんだろう? 未來と手を繋いだのは。


未來はいつだって私のことをグイグイ引っ張ってくれた。


私が悩んでいる時、臆しているとき、いじめられたとき。


いつだって先頭を切って行動してくれたのだ。


私のために。


じんわりとした温もりが徐々にそんな昔のことを思い出させた。


そういうところがある子なんだよな、未來って。

そう、昔から。

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