「使えないヤツ」「なんだよその言い草は!」「森はあたしの庭だって息巻いていたくせに。どこが山猿なんだか」「誰が猿だ!」「お前が自分で言ってたんだろうが!」
一筋の漆黒は闇の中であるにも関わらず存在を際だたせ、一筋の道しるべとなって奥へと伸びている。
運命の赤い、ならぬ黒い糸。
まるで飛行機の着陸を導く誘導灯のように私たちの歩みを促す。
おじいちゃんは操られているかのように迷いなく進んでいく。
声をかけたが返事はなく一路まい進している。
火に群がる虫の気持ちがわかるような気がした。
それだけに危険を感じずにはいられない。
『これはまずいのではなかろうか?』
そういえば未來は普段から「山のことなら任せろ!」と鼻息荒く言っていたので、もしかしたらなにか知っているかも。
『山特有の自然現象だろうか?』
いや、それはどうだろう。
アウトドアに関する知識がまるでないとはいえ、こればかりはそんな次元を超越しているような……。
「未來。これってなんなの? やばくはないのか?」
傍らの未來に目をやって尋ねてみた。
が、こんな状況にも関わらず一心不乱に鼻ほじりに夢中になっている。
「はが? あに? あんだって? くっしょん!」
このクソガキ!
危機感、まるでなしかよ!
苛立ちを禁じえない。
嫌味をこめて言ってやった。
「ちっ。使えないヤツ」
「なんだよその言い草は!」
「森はあたしの庭だって息巻いていたくせに、いざとなったら何も知らないんじゃない。まったくどこが山猿なんだか」
「誰が猿だ!」
「お前が自分で言ってたんだろうが!」
山の王者と豪語して「わいは猿や!」とかアホなことを自称していたのをすっかり忘れている。
などと馬鹿話をしている場合ではない。
早くおじいちゃんを止めなければならないのだから。
「そんなことより未來、おじいちゃんを止めないと」
「あん? なんでよ?」
まるで含みのない返答。
しかもますます鼻ほじりに熱中し始めている。
こいつは状況が飲み込めていないのだろうか?
その呑気さにとことん腹が立った。
「なんでもなにもないだろ! お前はこの状況をどう思っているんだよ! 暗闇の中に道筋をつけている漆黒のラインがお前には見えていないのか? 見えているだろ? だとしたらどう考えたって異常事態なんだろうから、このままだと絶対にヤバイに決まっている! もっと状況を把握しろ!」
ようやく鼻から指を抜くと、丸めるしぐさをしてから指をはじいた。
「じゃ、行きますか。おあつらえ向きに行き先も示してくれているんだしな」
ガクッ!
「って、お前! 今私が言ったこと何も聞いていなかったのかよ!」
危険な状況も後押しして私にしては珍しく短気にまくしたてた。
のだが、未來はというと相変わらずのれんに腕押し。
「あ? 状況が分かっているからこそ行くんだろが」
とまるで頓珍漢。
いや、お前さっきから何言ってんだよ。




