「あっ、そうか! わかった、万引きだよ万引き!」「このアホンダラ! それが一番最悪だろうが!」
「そっか、思い出せたんなら良かった。これにて一件落着か。じいちゃんも安心して成仏でき、ぐふぅ!」
すべてを言わせないために私は未來のわき腹に肘鉄を食らわせた。
そしてまだ終わってなどいない。
始まったばかりなのだ。
「それじゃおじいちゃん、行きましょうか」
そう、まだ見つけてはいないのだ。
おじいちゃんが探している約束、そして運命とやらを。
「ふむ。しかしなぁ……」
おじちゃんが難色を示している。
「迷惑はかけませんから」
でも、このままでは終わることなどできない。
「わかったよ。でも何があっても驚いちゃいけないよ」
「だ、大丈夫です」
とは言ったものの、もちろん不安もある。
この選択、本当に間違いはないのだろうか?
でも今は、それを考えても仕方がないことだ。
おじいちゃんからの同行も許されたので未來の方を見た。
その瞳にはまだおじいちゃんに対しての怯えを見て取ることができる。
よっぽどなことを見たのかもしれない。
「あんたはどうするの?」
突然話題を振られて、未來ははっとした表情を見せた。
気を使って選択権を与えたつもりではあるけど、それを未來はどう受け止めたのかは知らないが、
「い、行くよ! もちろんさ」
いつものような元気さをアピールしている。
少々無理矢理にだけれど。
でも、カラ元気とはいえこれだけ強がるのであれば大丈夫かもしれないな。未來はたくましい、というかタフさだけが取り柄なのだから。
「そうと決まったらグズグズしてらんないぞ。さっさと行こうぜ! こんなばっちいところにいつまでもいたら体も心も腐っちゃうよ!」
「お前、ここは大事な城じゃなかったのかよ」
まったくこんなのが城主じゃ作ったガキどもも浮かばれないな。
◆■◆
『やめておくべきだったか……』
「華子ちゃん大丈夫かい?」
おじいちゃんにも心配される始末だし。
「しゃきっとせんかい!」
そう言うと未來は棒きれで私のお尻に鞭を入れた。
さっきまで暗い顔していたが、だいぶ回復したのかおじいちゃんともボチボチしゃべりだしている。
それにしても、私が疲れてなにも言えないのをいいことに調子づきやがって。
いま私たちは三角山の山道を歩いている。
登り始めること二時間。
道の悪さに加えてゆるくない傾斜が大きな負担となって足腰に直撃する。未來はともかくとしておじいちゃんも凄い健脚だな。
「おじいちゃんは大丈夫なんですか?」
「ん? ああ、昔は良く歩いていたからね」
そっか、戦争……行軍はこんなものじゃなかったんだろうな。
「ここいらでちょっと小休止とするか」
おじいちゃんが気遣ってくれた。
「ほんとに体力ゼロ子だな。これじゃどっちが死にかけだからわからねぇや」
屈辱!
でもいまは疲れていてそれどころではない……情けないが。
この仕返しは後でたっぷりとするからな。
覚えていろよ。
でも三角山の標高って確か五百メートルぐらいのはず。
登るのにこれほど時間がかかるものなのだろうか?
いや、私の歩く速度が遅いせいなのだろうか……。
◆■◆
「華子、チョコ食べるか? 疲れているときにはやっぱ甘いものだよ」
未來はアジトから持ってきたリュックに手を突っ込みながらあれこれと物を取り出している。
「お前、チョコってもしかしてあっちのチョコじゃないだろうな?」
「ば、馬鹿言うなよ! そっちのチョコはさっきアジトで味わい済みだろ! ほら、食べるほうのチョコだよ」
そういって私にさしだしたのだが、これまたお店の陳列棚に並んでいるのと同じ商品。
しかも焦って出したのでお店の値札がついたままなであることに気がついていない。
まぁ、落ち着いているときでもコイツは値札をはがすような隠ぺい工作なんてしないだろうけど。
「これもウチのお店で扱いのある商品だよな?」
「えっ? し、知らないぞ! 出入りしているガキが買ったやつだよ。たぶん……」
語尾が元気なくなっているのが疑わしさをさらなるものへと高めている。
もちろん追及の手は緩めない。
「ウチで買った小物の商品は袋に入れずにお店のシールを貼るはずだろ? なんでこれには貼っていないんだ? 子供が袋を必要とするほどの買い物をすることなんてないよな?」
未來を見つめる。
弱ったような顔をしていたが、一点なにかを閃いたような明るい表情となって言い放った。
「あっ、そうか! わかった、万引きだよ万引き!」
「このアホンダラ! それが一番最悪だろうが!」
「くっそ~あのガキどもめ。今度の集会でヤキを入れてやる!」
そう言うと右手で握った拳を左手の平で打ち付けてパチンと音を立てた。
「君たち姉妹は本当に仲がいいねぇ」
あの、このやり取りのどこから仲睦ましい印象を受けたのでしょうか?
「あっ? やっぱりそう見えるか?」
全然仲よくないだろ、お前となんて。
「なんて言うのかな水と油とでも言おうか。もちん諺の意味通りというのではなくね」
諺の意味通りでいいのですが。
「同じ液体でありながら混ぜ合わせると個々の個性としてくっきり成立している。でも同じ液体同士なんだな。似ているけど似ていない。すごく不思議な関係だと思うよ。双子ということがそう思わせる一因なのかもしれないけれど」
「そういえば隼人も言っていたぞ。あたしらがよく似ているって」
「なっ!」
「何だ急に。どした?」
ショック!
まさか隼人が私とこんなやつを似ていると思っていたなんて……。
なぜ?
どこが?
真意は?
やるせない。
悲しい。
「ううっ……」
「よかったな!」
悲観にくれる私の気持ちなどお構いなしに未來は私の肩を力強くたたいた。
全然良くないよ。
「微笑ましいよ。ふふ」
おじいちゃんはおいしそうに煙草をくゆらせながら山頂を見ている。
「あの、ところで目的地はまだなんですか?」
無理やりに気を取り直して、目下の気がかりを尋ねた。
「うん、そうだな、近くもあり遠くもあり……」
なんとも感慨深そうな表情。
距離だけの話ではないだろうな。
時間という不思議な長さもそこにはあるのだろうから。
でも、でもね、今は実距離だけのことについて聞きたかったんです……私の脆弱な体でそこまで持つのかどうか。
トホホ。




