「ボケてるだけかもしれないじゃん。ジジィの戯言にそんな真剣になるなって」 「お前、その戯言のために私を巻き込んだのかよ……」
「未来に向かってレッツゴー!」
未來が先頭を切って歩く。
ハイキングかなんかと勘違いしているのだろうか?
おじいちゃんとの話し合い、一体どうやって説得したのかはまったくもって不明。
二言三言言葉を交わしただけで、さっさと交渉を成功させたようだが、そんな巧みな話術などないだけに、ちょっと気になる。
『騙して連れ出したのだろうか……』
アイツならありうる、大いに。
それはともかく、能力を使うことが決まったのでなるべく人目につかない場所へ移動することを提案したとき、未來がいい場所を知っていると言うので、いまはそれに従っている最中なのだが……。
「おら! さっさとついてこいや! カモンカモン! 日が暮れちまうぞ!」
鼻息荒く、号令をくだす。
道端で拾った折れ枝を振り回しながら、夏前の明るい光を吸収して育った膝の辺りまで伸びている青草を薙ぎ払いつつずんずんと前進していく。
そんな未來が作ったばかりの獣道をなぞっていくのだが、一体どこに向かっているのか少し心配になってきた。
それにしても、私とおじいちゃんの速度に合わせるという考えはないのだろうか。
『おじいちゃん、病気なんだぞ』
それに構わずグングン歩いているし。
なによりもコイツが張り切る時はあまりいい兆候ではないのでその点も気にはなる。
『まったく、せっかちなヤツ』
それでいて現金なヤツ。
さっきはあんなに悲しそうな顔していたくせに。
まぁ、それでこそ未來らいしと言えなくもないけど。
『ああ、そうだ』
その前に確認しておかなければいけない大事なことがあったのを思い出した。
仕方がないので、早足で未來に追いつく。
「おっ? 華介、追いついたか。弟子はいつか師を超えるものだ。遠慮なく行ってよいぞ」
「あのな、先に行くも何も私は目的地知らんだろが」
「道のりなだけにノリの悪いヤツ! とか言ってみたり」
「もう、馬鹿言ってないでさ。そんなことよりも未來、さっきおじいちゃんが運命だとか約束だとか言っていたけど、あんたそれについてなんか心当たりはない?」
「ん~いや、別に。でもなんでそんなこと気にするんだ?」
「アホか! 気にならない方がどうかしているだろ! 運命だぞ! それもこんな危機的状況であるのを無理してまで知りたいことなんだから、きっとなにか大きな意味をもっているに決まっている。そもそもは友達を探しているって話じゃなかったのか? 運命と友達がどうつながっているのかとか、お前は気にはならんのかい!」
「ボケてるだけかもしれないじゃん。ジジィの戯言にそんな真剣になるなって」
「お前、その戯言のために私を巻き込んだのかよ……」
やっぱりやめておけばよかったか?
でも、おじちゃんの様子からすると、やはり普通のことではなさそうだし。
ここは試してみても無駄ではない、と思いたい。
まぁ、うまくいけばの話だけど。
「おい、未來。ここはなんなんだ?」
先ほどの場所から五分ほど離れた橋の下、河川敷に不法投棄されていたと思しき破れたブルーシートや汚いトタン、木切れなどでこさえられた今にも倒壊しそうな掘っ立て小屋の中に、私たちは居る。
「ふぉふぉふぉ、我がアジトへようこそ。ここは従順なるシモベたちがワシのために献上した大事な大事な城なのじゃ」
「どこが城だよ、浮浪者でも住まんぞ、こんな不潔ったらしいところ」
はぁ、頭痛い……また馬鹿げたことが始まるのだろうか。
この自称アジトは四五人も入れば窮屈になる位の狭い空間で、ラジカセからはインド音楽のような艶めかしいBGMが鳴っている。
壊れて制御が効かないのか、速くなったり遅くなったりしながら奏でられるメロディが怪しさをさらなるものへと増幅させている。
音量が大小まばらに変わることも一役買っているようだ。
なんとも、胡散臭い。
「アジトって、こんなところで一体何してるのさ?」
「秘密結社なのでそれは言えぬのぅ。知りたくば誓いの盃を交わすのじゃ!」
「お前、一体いいくつなんだよ……」
未來の交友関係はかなり謎だ。
クラスメイトから学校の先輩後輩を始め、小中学生から中年、老人に至るまで幅広く男女を問わない友達がたくさんいるのだが、大方子供たちをかき集めて作らせたのだろう。
ほんと、いい年こいて何やってんだか……。
あたりを見回す。
それにしても汚い。
根城のつもりならもう少し綺麗にすればいいのに。
床にはたくさんのスナック菓子の袋やジュースの空き缶、アダルト雑誌や漫画雑誌が散乱しているのだが、それらがいちいちウチのお店で扱っている商品ばかりなのも非常に気になる。
まさかコイツ、横領しているんじゃないだろうな?
「にしても、このゴミさ」
そう言ってスナック菓子の袋を蹴る。
「なんじゃな? 発言を許そう」
「ウチにある商品と同じものばかりだな」
疑いの視線で問いただす。
「えっ? ぐ、偶然だろ? ガキどもがウチで購入したものだよ、たぶん」
「おい、口調が戻ってるぞ」
コイツ、絶対に怪しい。
きっと、お菓子を餌にガキどもを釣ったんだな。
桃太郎のきび団子かよ。
後できっちり問い詰めるからな。
そして何よりも意味不明なのが、そのナリ。
「それよりも、そのイカレた格好は何のつもりだ? お前日本人のくせにKKKだったのか?」
未來は全身白装束で固めているのだ。
ウチの店の買い物袋として使用している無地白色の紙袋の眼の部分をくりぬいて頭からほっかむり、衣服は理科の実験室からでもかっぱらて来たのであろう汚れの目立つ白衣を着用している。
そして手には自作の祓串。
ちりちりになった新聞紙製の紙垂がなんとも安っぽくて物悲しい。
「あん? けーけーけー? なんだそりゃ?」
知るわけないか。
どうせテレビか漫画で出ていたものを真似たのだろう。
「うんうん、未來ちゃん、似合っているよ」
て、おじいちゃん。
あなたまで馬鹿言って。
「よろしい、お主もここの一員として迎え入れよう。さて、それではさっそく入団を祝して儀式を執り行うことにする」
もうどうにでもなれ……。
反論するだけ無駄なのもわかっているので、成行きに任せることにした。おじいちゃんの容体も今のところ問題なさそうだし、なによりも楽しんでいるようにも見えるから。
そうこうしているうちに、未來はこれまた理科室でくすねてきたのが丸わかりのアルコールランプに火を点し、枯れ葉のようなものを一枚一枚着火しては足元の灯油缶にくべている。
間もなく密閉された室内には煙が充満し始めた。
「かしこみ~! かしこみ~!」
妖しいシタールの音色に……まったくかみ合わない激しい踊りを繰り広げながらわめき散らし、一心不乱に祓串を振りまくっている。
わけがわからないのは平常通りとはいえ、エキサイトの度合いが違うのが気になった。
『一体なにがヤツをそこまで興奮させているのか?』
それにさっきから燃やしている葉っぱの臭い。
これってまさか……?
「おい、未來。お前さっきから何を燃やしているんだ?」
「ふっふっふっ、お主、いいところに目をつけたのぅ。この葉は我が教団で栽培している天狗の葉じゃ。それを乾燥させたものを燃やして出た煙を嗅げば、滋養強壮、質実剛健、リウマチ、不妊にも効果てきめんなのじゃ!」
そういって、葉っぱをつまんで私に見せつけた。
言っている意味がまったくもって不明なのはいつものことだけれど、あの葉っぱの形は……。
「お前、それもしかして大……」




