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でもね、未來。 その一途さによって多くの迷惑を生むことだってあるんだよ? 純粋だからといって、それが必ずしも善だとか幸せなことばかりじゃないんだから。

「ね、お願いだよ。お願いだからさ、おねえちゃん。もし、お姉ちゃんの身になにか起こるようならあたしが盾になるよ。あたしがきっと守るからさ」


『……お姉ちゃん』


「それに朝もうるさくしないし、ドアも静かに閉めるし、タマの世話ももっとやるし、物も大事に扱うようにするし、ベッドの上でお菓子も食べないようにするから。それにそれに……」


未來が何か言っているようだが、ほとんど耳に入ってこない。


それよりも未來が私のことをお姉ちゃんと呼んだのは、これで何度目だろう?


小さいころパパの不在時にママが突然倒れて意識をなくしてしまった時、山田を誤って外へ逃がし自転車に轢かれて重体になった時、私が高熱にうなされて死線をさまよっている時に手を握りながら励ましてくれた時……。


そして今。


負けず嫌いで謝っている姿など見たこともない意地っ張り、お願いするぐらいなら無理強いするか奪い取るような傲慢を絵にかいたような性格の未來が、あの生意気で向う見ずな未來が、あろうことかこの私にすがってきている。


どうしてもやらなければならないことに直面したけど自身の限界を感じ、本能的に姉として私を頼ってきているのかもしれない。


馬鹿と純粋は同義語なのかもしれない。

賢くて純粋なんてことは、たぶんないだろうから。

未來は良くも悪くも純粋であり馬鹿なのだ。

それも最上級の。

透き通ったきれいな気持ちを大事にしていつでも曇りなく輝き、まっすぐ一直線に行動する。


でもね、未來。

その一途さによって多くの迷惑を生むことだってあるんだよ?

純粋だからといって、それが必ずしも善だとか幸せなことばかりじゃないんだから。

きれいな事や物を苦手とする場合もある。

輝きが眩しすぎるときだってね。

その明るさによっていやなことが照らしだされることも……。

あなたはそれがわかって言っているの?


未來は依然私を見つめている。

その瞳はか弱い小動物のようだ。

いつも野獣然としているコイツが。

それこそライオンと猫位の開きがあるほどに。


『未来は決まっていない』


『そして理屈でもない、か』


それでは一体なんだというのか?

それは、やってみないことにはわからないし、試してみないことには見えてこないもの、なのかも。


『やってみる意味は、もしかしたらあるかもな』


以前と違って私も多少の知識もついているし、いま能力を使うことでなにか別の、新しい解釈をすることができるかもしれない。

だいたいにして、力の謎を知るために日々勉強しているのでもあるわけだから、いまならその不思議な力の何か、一端を知ることができるかも。

それに、さっきおじいちゃんの口からもれた約束や運命という言葉も非常に気になる。


『なにかがある』


私の深奥に眠る能力がなんとなく疼いているような気もするのだ。

でもこの疼き、けっして心地の良さばかりではない。

いやな予感も同時に察知しているのだ。


「……」


気持ちが、揺らいだ。

かたくなな思いの一角が、少しだけ溶けたのも感じた。

なんともいえない、暖かな風によって。

でも、私はおじいちゃんを助けたくて能力を使うの?

それとも自分のため?

おじいちゃんをダシにしようとしてない?

いや、いまはそのことは考えまい。


「わかったよ。未來」


ため息交じりに返事をする。

するとそれまでしょげていた未來の表情が、まるで花開くようにパッと明るくなった。

そして、その笑顔がとても素敵なものにも見えた。


「ほ、本当か!」


「ああ」


頑ななまでの我を曲げたことにちょっとはにかみながら言った。


「やった! 大丈夫、きっとうまくいく!」


『お前のそういう所、もしかしたらちょっと羨ましいかも』


幸せだから笑顔になるのか、それとも笑うために幸せになろうとするのか。

鶏と卵の話ではないけれど、これって一体どっちが先なのだろう?

いや、どちらが先でも後でも構わないのかもしれないな。

結果、幸せになり笑顔になれるのであれば。

だからこそ、未來のよどみのない気持ち、笑顔に賭けてみようと思ったのだ。


「心配するなよ華子! 未来を怖がることなんてなにもないさ!」


「未來……」


そうよね、あんたの言う通りかも。

言う通りであってほしい。


「大体にして老い先短いジジイの人生なんて、見える未来もたかが知れているって! なっ!」


破顔一笑。

私の肩を力強く叩きながら言った。


「……あのな……」


前言撤回。

一瞬でもコイツに賭けようと思った私が馬鹿だった。

せっかくいい話だったのにすべてが台無しだろ。


すると未來はさっさとおじいちゃんの所に行ってしまった。

何の打ち合わせもなしに。

一体どうやっておじいちゃんに私たちのありえない能力について説明するつもりなのか?


「私たちの特殊能力でおじいちゃんの未来と過去を見て、忘れていたことを教えてあげます!」


とでも言うつもりじゃないだろうな?

まったくコイツだけは……本当にこの選択でよかったのだろうか?

さっきまでの前向きな気持ちはどこへやら。

もはや、いやな予感しかしなくなった。



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