第18話 班決め
「お、王女殿下が、俺たちみたいな平民の班に入っていいんですか!?」
エルナさんの突然の誘いに、ダンが素っ頓狂な声を上げて驚いた。王女殿下と同じ班になるなんて、実家の兄貴たちに話しても信じてもらえないだろう、とダンは目を白黒させている。
「いいのよ。私は首席だもの、誰と組もうと自由よ」
エルナさんは毅然と言い放ち、それから少しだけ頬を染めて僕を見た。
「それに、ティオくんと一緒なら、何があっても大丈夫な気がするもの」
「僕は嬉しいです。エルナさんとダンがいれば心強いですから」
僕が素直に答えると、エルナさんは満足そうに頷いた。
四人一組ということは、あと一人だ。誰を誘おうかと話していると、廊下の曲がり角からひょっこりと顔を出した人物がいた。
「お話は終わりましたかな、ティオ殿!」
プラチナブロンドの髪を輝かせた、ヴィクトルさんだった。
「ヴィクトルさん。どうしたんですか?」
「いえ、ティオ殿の護衛として控えていたまでです!それより、聞こえてしまいましたぞ。ダンジョン実習、あと一人が決まっていないとか!」
ずっと廊下の外で待っていたらしい。ヴィクトルさんが、バサァッとマントを翻して胸を張る。
「この私にお任せあれ!ティオ殿の右腕として、いかなる魔物も灰燼に帰してみせましょう!」
「……ヴィクトル。あなた、本当にティオくんと組むつもり?」
エルナさんが、こめかみを押さえて呆れたように聞く。
「もちろんです、エルナ殿下!ティオ殿の背中は、この私が爆炎をもってお守りします!」
ヴィクトルさんは大げさに敬礼して見せた。魔法の実力は総合評価Aだし、決闘の時はすごく強い炎を出していた。
「ヴィクトルさんが一緒なら安心ですね。よろしくお願いします」
僕がにっこりと笑って歓迎すると、ヴィクトルさんは感動したように何度も頷いた。
こうして、僕たち四人の班が結成された。
数日後。
寮の一階にある大食堂で、僕たちは夕食を兼ねた作戦会議を開いていた。広いホールは、ダンジョン実習に向けて班ごとに集まった生徒たちの熱気で溢れている。
テーブルの上には、厚切りの焼いた肉を挟んだパンの皿と、一枚の羊皮紙が広げられていた。ダンが実家の商会から手に入れたという、初心者向け迷宮の簡易地図だ。
「学院が管理してるダンジョンだ。浅い階層はスライムやゴブリンが出るくらいらしい。ただ、罠があちこちに仕掛けられてるから、注意しないといけない」
ダンが地図を指差しながら説明する。
「罠、ですか」
「ああ。落とし穴とか、毒矢が飛んでくるとか。まあ、致命傷になるようなものは教官が事前に排除してるらしいけどな」
「村の裏山の洞窟にも、罠がたくさんありました。落とし穴に落ちると底なし沼になっていたり、見えない糸に触れると大きな岩が降ってきたり」
僕が言うと、ヴィクトルさんが目を輝かせた。
「ほう。それは古代遺跡の防衛機構のような高度な罠ですな。シルト村というのは、さぞや歴史ある恐ろしい場所に違いありません!」
「それで、ティオくんはどうやってその罠を避けていたの?」
エルナさんが不思議そうに首を傾げる。
「よくリリさんとかくれんぼをして、洞窟の奥まで逃げ込んでいたんです。罠に引っかかるとすぐに見つかってしまうので、空気のわずかな流れとか、足音の反響を聞いて避けていました」
「なんだよその高度な探知技術。普通は松明を持っていって、明るくして罠を探すだろ」
ダンが呆れたようにツッコミを入れる。
「でも、松明をつけると、光で大きな蝙蝠が寄ってくるじゃないですか」
「吸血蝙蝠のような魔物ですか?」
ヴィクトルさんが真剣な顔で尋ねてきた。
「いえ、もっと大きくて、口から赤い火を吹いたりするんです。見つかると丸焦げにされるので、息を殺して進まないといけなくて」
僕が答えると、テーブルの上の空気がふっと静まり返った。三人が、無言のまま僕の顔をじっと見つめている。
「お前、それ蝙蝠じゃなくて、とんでもない魔物の類じゃねえのか?」
ダンが引きつった顔で言った。
「えっ。でも、村ではみんな蝙蝠だって言ってましたよ」
「……ピュータン先生が言っていた通りね。ティオくんの村の裏山より、ダンジョンのほうが百万倍安全だわ」
エルナさんが深くため息をついた。
どうやら、火を吹くのは蝙蝠にとって普通のことではないみたいだ。外の蝙蝠は、ずいぶんおとなしいらしい。
「よし、班の役割を決めましょう。私が前衛に出る。ダンは荷物や道具の管理をお願いできるかしら」
気を取り直したように、エルナさんが話を先に進める。
「任せとけ。実家の商会から、探索用の道具をがっつり仕入れてあるからな」
「ならば、私は後衛から強力な魔法で敵を一掃しましょう!そしてティオ殿は、我々の中心でどっしりと構えていてくだされば結構です!」
ヴィクトルさんが勢いよく立ち上がって宣言した。
「じゃあ、僕は皆さんの後ろをついていきますね。怪我をしないように、うんと手加減して」
「おお!ティオ殿は我々の成長のために、あえて手を出さずに見守ってくださるのですね!なんと深い御心!」
ヴィクトルさんが両手を組んで天を仰ぐ。僕が手加減する意味を、ものすごく大げさに受け取ってしまったようだ。
「いやいや、お前は一番前を歩け。なんかあったらお前しか頼れねえんだから」
ダンが身を乗り出して僕の肩を掴む。
「ええっ、僕なんかでいいんですか?村ではいちばん弱いんですけど」
「もうその『村では』って前置きはいいから!」
大食堂の喧騒に、ダンの大きなツッコミが響き渡る。
結局、僕はエルナさんと並んで一番前を歩くことになった。すっかり打ち解けた雰囲気の中で、和やかに作戦会議が進んでいく。
最後に、僕たちは四人でテーブルの中央に拳を突き合わせた。
「絶対全員で、無事に帰ってこようぜ!」
ダンの明るい声に、僕たちは力強く頷いた。
そして、ダンジョン実習の出発前夜。
寮の部屋では、ダンが鞄の中に解毒薬や回復薬、煙玉などの道具を念入りに詰め込んでいる。僕はゴルドじいちゃんの木剣を布で拭いて、早々にベッドに入る準備を済ませていた。
「……初心者向けの安全な迷宮、なんだよな。ピュータン先生も『遊びみたいなもん』って言ってたし」
ダンが荷物の確認をしながら、自分に言い聞かせるようにつぶやく。
「はい。火を吹く蝙蝠もいないみたいですし、きっと楽しい実習になりますよ」
僕がのんきに答えると、ダンは手を止めて僕をじっと見た。
「……でも、お前と一緒だと、絶対なんか起きる気がするんだよな」
「大げさですね。僕は普通に歩くだけですから」
僕が毛布を被ると、ダンは頭を抱えて天井を仰ぐ。
「なんか、すげえ嫌な予感がする……」




