第8話 女王サマの特別ゲーム 前編(8日目)
特別ゲーム当日。
エリシア様とアルベルト様の護衛としてルナが随行し、私とロッテがリンちゃんと居残りになった。
さて、今日はどうしようか。
南はほぼ制覇した。
西は……少しオイタをしてきたから、敢えて近づかない。
そうなると、東、北、中央か。
東と北は、南とほぼ変わらない生活商業域だ。
一方で中央は政治経済の中心。
王城や国営施設は観光名所ではあるが、7歳の子供が興味を持つだろうか。
まあ王城は見たいかもしれないか、騎士団本部やら行政府建物なんて、面白味の欠片もない。
「リンちゃん、今日はどうしようか。まだ行ってないエリアが3つあるけど」
なんにせよ、護衛対象の希望優先だ。
リンちゃんにどうしようか尋ねてみた。
そしたら、モジモジするリンちゃんから意外な答えが返ってきた。
「あのね……、とくべつげーむのトコ……ダメかな……?」
いや、意外などではない。
逆だ。
当然、行きたい場所の筆頭だろう。
それはそうだ。
そこが選択肢にならない方がおかしい。
「そうだね、やってる場所に行くことはできるね。でも、中には入れない。行っても外から応援するだけだ。それでもいいかな?」
パアッと笑顔が咲いた。
「うん、行きたい!」
決まりだ。
「じゃあ、おじさんとロッテは支度してくるから、チョット待っててくれるかな」
そう言って、護衛控室にロッテと入った。
「副団長、今日の装備はどうするおつもりですか?」
ロッテが、ふんふんと鼻歌交じりに暗器を揃えながら、今回の急所をスバリ突いてきた。
そう、特別ゲーム会場。
おそらく今日の王都で一番危険が溢れている地域だ。
王都中のギャンブラーが大注目し、会場周辺に大挙して集まっているだろう。
きっと地区同士が一触即発の臨界点にある。
そこに赴くのに、無手というのはあまりに無謀だ。
西での諍いは、平穏な日常に紛れ込んだ異分子との衝突、ある意味事故の範疇だ。
だが今回は、苛烈な修羅のせめぎ合いの渦中を、ノコノコお散歩しながら横切る私たちこそが異分子になる。
備えは必要だ。
だが、リンちゃんの隣で帯剣はしない。
日常は壊したくない。
今日はロッテが心底うらやましく思えるな。
チラリとロッテを見ると、バッチリ目が合ってしまった。
「ふふん、悩んでいらっしゃいますね」
ニマニマしながらずり寄ってきた。
「ここは不肖このロッテが、副団長のお悩みを解決して差し上げます。
まずオススメは、これ!」
そう言ってドンッとテーブルの上に置いたのは
肉切り包丁と白の前掛け。
シーーーーーン………
無言の私に対して、ロッテは自信満々に胸を張って、自説を高らかに謳い上げる。
「どうです!これでどこから見てもただのお肉屋さんです!肉切り包丁持っていてもナンの違和感もありません!周囲に自然に溶け込めます!」
……ナニも言えん……
ココまでナニも言えん場面も久しぶりだ……
コイツなりに考えてくれているのだろうが……
あまりに思考回路の繋がり方がロッテ過ぎる……。
「いや……、いくらお肉屋さんでも、昼日向に包丁持ってウロウロはしておらんぞ」
ようやく捻り出したこの指摘に、ロッテが狼狽気味に再確認してきた。
「えっ?……、で、では……もしかして牛刀も……ダメだと?」
「街の風景としてはあり得ないレベルの出で立ちだな。
だいたい、お前の範疇じゃないだろ、その手の刃物は。なぜココにあるんだ」
「……だって、初めてのエリシア様との旅行だったから……チョットおしゃれしてみよっかなって……」
肉切り包丁や牛刀のドコにおしゃれ要素があるのかは理解不能だが、落ち込むロッテを見て、コッチが罪悪感に襲われそうになった。
「……いや、ロッテ。気持ちはうれしい。スゴクうれしいぞ。
だがな、お前の本領はソッチじゃないだろう。もっと目立たない小さな武器こそが『暗器姫』の面目躍如ってモンだろう」
途端にロッテの顔がパアッと輝いた。
「そ、そうですよね!そう!
私としたことが、もうスイマセン、舞い上がってしまって!
じゃあ、コレ!コレをお持ち下さい!」
そう言って差し出したのは、プッシュナイフ。
それと……鋭い突起が付いた指輪3つ。
ああ、角指とか言う暗器だ。
コレを指にはめての打撃は効く。
突起を内側に向けて相手を掴むと、激痛で屈強な悪党もへたり込むな。
ふむ……、プッシュナイフなら、握り込んで刃だけしか露出しない。
角指も、突起を手のひら側に向ければ、ただの指輪にしか見えん。
「そうそう、さすが『暗器姫』だ。こういう武器の選別はお前にしか任せられんな。
私の求めにキッチリ応えてくれたよ」
いやぁ、そんなぁ、とテレテレしているロッテを見て、かわいらしさと多少の疲労感を覚えた。
「リンちゃんを結構待たせてしまったかな。
それじゃ行こうか」
「はいっ!」
角指をはめ、プッシュナイフを懐にしまって、控室を出た。




