第5話 王都散策(5日目)
リンちゃんはえらい。
エリシア様とアルベルト様に、しばらくかまってもらえない事をちゃんと理解している。
「……わたしのために……頑張ってくれるんだから」
出かける3人を見送った後で、ロッテにそう言ったそうだ。いじらしいじゃないか。
ロッテはそれを聞いて、ギュウ〜ッとハグしたらしい。
だから我々も、リンちゃんに寂しい想いをさせぬよう、行動計画に万全を期して臨んだ。
まず、周囲に溶け込み、警戒感を与えぬよう、私もロッテも普段着。
ロッテはいつもの事だが、私も制服ではなく、ただのアレクおじさんとして一緒に過ごそう。
歩くのは西エリア。
昨日までで南エリアはほぼ回ったそうなので、今日は新天地に向かう。
エリア毎に特色があるようだが、主眼はもちろん食べ歩きだ。どのエリアにも良さげな店や屋台はある。
リンちゃんとロッテが、仲良く手をつないで、はしゃいでいる。
あのキャピキャピ感が、たまらなく愛らしい。
そうだ。子供はこうであるべきだ。
大人から楽しい時間をもらい、楽しい事を知って、楽しく過ごす。
少し後ろでその様子を眺めながら歩いていると、リンちゃんが私の方に振り返った。
おや、どうした?
なにかモジモジしてるな。
と思ったら、スッと手を差し出してきた。
はにかみながら、私を見た。
「……アレクおじさんも……一緒に……お手々つなご……」
その小さな口が、照れ気味に
私にそう言ってくれた。
視界が、ちょっとだけ……滲んだ。
❖ ❖
食べ物屋、屋台、衣料品等々、いろいろな店を覗き、あっという間に時間が過ぎていく。
ああ、旅路での平穏な昼下がりだ。
観光とはこうでなくては。
――と言ってばかりもいられない。
「ウグッ!」
妙な声を上げてロッテの横で蹲る男1名。
手を抑えて呻いている。
「どうしたの、あのヒト?」
「さぁ?蜂にでも刺されたんじゃないんですか」
「蜂?さっきもいたよ、刺されたヒト」
「虫が多いんですね、リヒテンラーデ王都は。
それよりホラ、リンちゃん、ぬいぐるみサンが売ってますよ、見に行きません?」
「きゃあ〜、行く〜」
パタパタと店に向かって走っていくふたり。
店に入るのを見届けて、後ろで蹲る男を一瞥する。
コレで6人目か。
すれ違いざまにロッテの懐に手を伸ばして、財布を抜こうとした阿呆だ。
だが『暗器姫』の防御は揺るがない。
そんなヤツラを悉くねじ伏せてきた。
ロッテは身体中に忍ばせた暗器を自由に操る。
それこそ、身を捩るだけで。
ヤツラが懐に手を伸ばした瞬間、服のどこかから針が飛び出し、ヤツラの手を射抜いた。
私は男のもとに行き、忠告をしてやる。
「お前で6人目だ、いい加減にしてくれ。
あの娘にしてみれば、コレでもかなり自重している。私も助かってるんだよ。
これ以上チョッカイ掛けてくるな。お仲間にもそう伝えておいてくれ、わかったな」
それだけ言って、ふたりの入った店に向かう。
どうせ忠告は聞き入れてはくれんだろう。
もう同じ事を6人に言ってるし、6人が6人とも同じ目をしていた。
“覚えてやがれ、このままじゃ終わらせねえ“
それがヤツラの流儀なのだろうが、学ばない連中だ。
正直、飽きるほど見てきた。
そう、飽きるほど見てきた。
つまりそれは、飽きるほど対処してきた、という事でもあるんだ。
私の流儀でな。
そして、今も私はこうして歩いているんだよ。
❖ ❖
(副団長……)
ロッテが小声で囁いてきた。
(ああ、わかってる)
やれやれ、こうなるとは思っていたが。
「リンちゃん、ロッテ。すまんが、私はそこの武器屋で剣を見てきたいんだ。
君たちはあの辺のお店で、なにか飲み物でも飲んでてもらえるかな」
「わかった〜、ロッテお姉さんと一緒に待ってる〜」
リンちゃんが笑顔で応えてくれる。
いい子だね。
ロッテがペコリとおじぎをして、リンちゃんと歩いて行った。
私も武器屋に入る。
はてさて、どんなモノがいいか。
訓練用の木剣が目に入った。
うん、コレがいい。
子供への土産用として包んでもらった。
それを手に店を出る。
そういえば、ロッテのヤツ、多少名残惜しそうな目をしていたな。
あれは私の事を慮っての目だ。
そうに違いない。
そう思いたい。
決して、『その役はぜひ自分が!』
などという目では、ない!
と考えていたら、私の両脇に男が寄ってきた。
ガッと肩を組み、下卑た笑いを浮かべ、その臭そうな顔を近づけてくる。
「ちょっとばかり、付き合ってもらおうか」
前に4人、後ろにも1人いるな。
横の男がジロリと私の手元を睨んだ。
「手に持ってるモンはなんだい?見せな」
「ああ、子供への土産の木剣だ」
差し出すと、男たちは一瞬沈黙したが、すぐに大笑いを始めた。
「そいつはいいや、そんなオモチャで身を守れるってんなら、しっかり持ってなよ、オトウサン」
そのまま裏路地に連れて行かれた。
❖ ❖
連れ込まれたのは酒場のようだった。
安い酒精の香りが至るところに染み込んでいる。
スマンが、私の好みの店じゃない。
テーブルが全て隅に退けられたホールに、見るからに品性の劣る男たちが、薄ら笑いを浮かべている。
その数、15人。
「さぁて、よく来てくれたな」
髭モジャの男が、一段と品性に欠ける笑みで、臭そうな口を開いた。
「開国祭ってのはよぅ、毎年一番の稼ぎ時だ。
だから俺たちも、そりゃあ一生懸命に働くよ。どの辺りにいるヤツがカネ持ってるとか、このエリアにいる観光客はダメだとか、市場調査ってのをじっくりやってな。遮二無二働くのよ」
手のボトルをグイッと呷った。
ブフ〜ッと、また臭い息を吐く。
「今日もみんなが貴重な労働に勤しんでたらよ、なんだよイキナリ、6人も手ぇ潰されたって言うじゃねぇか。
それゃあ困るよ、大損害だ。稼ぎ時に手下6人も就労困難ってのはなぁ」
そう言って私に1枚の紙切れを差し出した。
「俺も雇用主として、コイツらに就業保障ってのをしなくちゃならねえ。それでだ」
渡された紙切れを見る。
ダメだ、字が汚くてとても読めん。
「読んだ通りだ。請求書だよ。
コイツらの日当が金貨1枚、6人で6枚。
ウチのアガリの損害が人数分1日金貨6枚。
締めて1日12枚。本祭5日間分で金貨60枚を、アンタは支払わなきゃなんねぇってワケだ」
最初に私に肩を組んできた男が、またあの臭そうな顔をグイッと近づけてきた。
「テメエが払えねえってんなら、ココで痛い目にあってもらって、それからあの姉ちゃんとガキんトコ行かせてもらうわ」
なに……?
「姉ちゃんもカネがねえって言うんなら、仕方ねえなぁ。ちいっとツライ旅の想い出に――」
パァァン!!
そこで男の言葉が途切れた、
土産の包みから顔を覗かせた木剣の切っ先が、下から男の顎に振り抜かれ、乾いた音とともに、何本かの歯と男の意識を刈り取った。
ドウッと倒れる男を見て、場に一気に緊張感が走った。
「テ、テメエ!こ、この人数とやり合おうってのか!」
コレもよく聞いたセリフだ。
いつまで経っても悪党どもの語彙は乏しい。
パッと走り、4人を一気に撫で斬りにする。
ガガッ!
首、頭、ここに全員一発ずつ打ち込む。
これだけで容易く意識を刈れる。
うん、泡を吹いてるな。
しばらくはマトモに動けまい。
「テ、テメエ!コッチにはまだ―――!」
「10人しかおるまい!それもナニも精進しとらん怠け者どもだ!新米の訓練にすらならんわ!」
また間断なく5人に木剣を打ち込む。
反応は遅いし、隙だらけだ。
入れたい放題、打ちたい放題ではないか。
「我ら護衛は、ただ守ればいいのではない。
対象者が楽しい想い出を残してこそ、任務を果たせたと胸を張って言えるのだ」
スッと木剣を残りの男たちに向ける。
「ちいっとツライ旅の想い出か……。
キサマらにとっては、かなりツライ旅人との想い出になってしまったな」
ふと、自分が笑っている事に気がついた。
そうだな、ルナ、ロッテ……。
こういうシゴトは―――
気楽でいい!
❖ ❖
「ゴメン、リンちゃん、だいぶ待たせちゃったね。じゃあ、エリシア様たちのところに行ってみようか」
また3人で店を出る。
店の横の路地に、男がふたり、泡を吹いて倒れているが、私たちは気にもしない。
「お姉ちゃんとホサ、いるかな〜?」
南エリアに入り、もうすぐ屋台エリアだ。
確かこの辺で路上賭博をやったと聞いたが――
「!!」
あ、ロッテが消えた。
あれ……?
エリシア様たちが……
5人の男に囲まれてる……?
「わあ~、ロッテお姉さん、はや〜い!」
う〜む……
土埃を舞い上げて疾走してるな……
「じゃあ、私たちも行こうか」
「うん!」
少しだけ、さっきの余韻が残っていて、心が滾っているのを感じながら、リンちゃんと手をつないで歩いた。




