◎第4話 ギャンブル行脚(4日目)
アルベルト様に、明日以降の予定と、私たちへの依頼を告げられた。
う〜ん……
我が騎士団長ばりの論法だ。
話の要点のみしか語らないので、周辺情報が追いついてこない……。
「あの、アルベルト様、いくつかお聞きしていいですか?」
にこやかに了の意を示してもらえた。
「はい、ありがとうございます。
ではまず予定の方から……
オークションに出品される素描画を落とすために、手持ちの金貨50枚を……1000枚にする……とおっしゃる?」
笑顔の肯定。
ふむ……
「で、その金策……、資金作りのために、明日からエリシア様とアルベルト様が、ギャンブルをして歩く……と……」
軽く頷いて肯定。
ふ〜む……
という事は……
「あのぉ……ソレって……
賭場荒らし……デスか……?」
アルベルト様が一瞬ギョッとして、そのあと更に笑顔を深めた。
この方もお変わりになったな……
以前はこんな笑顔は見せなかったが……
「あ……いえ……、すいません。
ちょっと想像できなかったモノで……」
うん当然か、と頷くアルベルト様。
笑顔のまま、今回のギャンブラーの妄想じみた行動を説明しようと口を開いた。
「いえ、金貨50枚を1000枚に増やす事ではなくて……
はい、ソッチではありません。
アルベルト様がギャンブルで負けるなんて、想像できないな……と。
あなたは、倍率は一切追わずに、緻密に期待値をはじいて、着実に積み上げていくじゃないですか。
胴元にとっては、一番イヤなやり方ですよ」
それを聞き、今度は笑顔のまま私の顔をじっと見つめた。
瞳に賛意が見えた気がした。
「あなたにとってはいつもの職務とそう変わらないのかもしれませんが、しかし……その分、時間はかかりそうです。限られた時間の中で、それを為さねばならない。
連日、出突っ張りになりますね」
だから、当面の間リンちゃんの面倒をみてほしいとの依頼に繋がるワケか。
「はい、ご依頼理解しました。お任せ下さい。
おふたりがかまってやれない分、リンちゃんの面倒は我々が責任を持って」
アルベルト様が立ち上がって丁寧な礼を示してきた。
思わず恐縮してしまう。
私も返礼を示し、ちょっと伏せ目がちに、この話の到達点の推察を披露した。
「……コレも……リンちゃんのため……なんでしょう?」
またアルベルトの目が私への賛意を映した。
苦笑交じりに再度敬礼を施した。
「ハハハ、お顔に書いてありますよ。
私もそれくらいは読む事ができます。
どうぞ、お気になさらず、全力で挑んできて下さい」
❖ ❖
「護衛体制に変更はない。但し、警戒レベルを一段階引き上げる」
明日からのギャンブル行脚を受け、警戒レベルの引き上げをルナとロッテに告げる。
ふたりの顔が変わった!
……お前ら……
ソコは普通、顔が引き締まるトコだろ……
なんでそんなワルそうな笑顔になる……
「明日から足を運ぶのは王都の裏街だ。
表通りと比べたら、まあ物騒なトコロだ。
粗暴な連中も多かろう。トラブルに見舞われるリスクも格段に上がる。
警戒を怠らず、しっかりとエリシア様を―――」
ふたりとも、私の話そっちのけで“身支度“を始めていた。
ルナ……、ガントレットは磨かなくていい。
拳に鉄鋲をはめ込む必要もないぞ。
捕り物の現場に行くんじゃないんだ。
そんなモノ付けてたら殴り込みにしか見えん。
店に入れてもらえないぞ。
ロッテ……、暗器はそんなにいらないぞ。
どっちが殺傷力が高いかは論点じゃない。
威嚇と抑止、コレが重要なんだ。
相手の戦意を喪失させればいいんだ。
コッチですか?って……
そんなデカい牛刀は要らん。
確かにソレ見せれば戦意は喪失するが……
暗器とは言わんだろ、ソレは……。
そんなブーたれた顔をしてもダメだ。
無頼の輩とはいえ、一応は他国の市民だ。
我々が日々追っている犯罪者とはチガウ。
線引きは必要だ。
程度に応じた対処、コレが大事なんだ。
訓示じみた話を真顔でしていた気になっていたが、ふたりは少しイジワルな顔で、逆に指摘してきた。
……ん?
私がニヤッてる?
「そ、そんな事はない、そんな事はないぞ」
だが、ふたりは一気呵成に畳み掛けてきた。
自分では気がつかぬまま、結構ニヤけていたらしい。
ちょっと恥ずかしい……。
だが、正直に言えば、やはり……うれしいんだ。
「……う……む……。
……確かにな、こういうシゴトは気楽でいい。
政治とか、身分差とか、そんな面倒なしがらみは一切考えず、目の前の敵意に即応すればいいんだからな。
そう、単純なシゴトだ。
気持ちのイイくらい、単純なシゴトだ。
こういうシゴトはホンットに気楽でいいな」
ふたりとも笑顔で頷いてくれた。
なんか、久しぶりにノビノビやれそうだ。
❖ ❖
「ルナ……。
ロッテはどうしたんだ?帰ってきた時からずっと、タマシイが抜けたみたいじゃないか」
ソファには、ボ〜ッと虚空を見つめているロッテがいる。
一応、生命維持本能は稼働している。
夕食も食べたし、トイレにも行ってるようだ。
ただ、ずっとあんな感じだった。
「今日は、待ちに待ったエリシア様の護衛だったろう。
夕べはあんなに楽しみにしてたじゃないか。
着ていく服と持っていく暗器のコーディネートを、ニマニマしながらやってたよな」
ルナが軽く頷き同意する。
「今朝も張りきっていたろう。
姿見の前で、袖口からクナイをカッコよく出すポーズとか、髪留めのカミソリをさりげなく取り出す仕草とか、いろいろ練習してたし。
いや……、もちろん私みたいな凡人には理解はできんよ。
だが、どれだけ楽しみなのかくらいは見ればわかるさ。
で、ナニがあったというんだ?」
❖ ❖
「ほう……、なるほどな……」
まず、こないだの路上賭博のイカサマ師を……五体満足のままにしてしまった……と。
「ソレは、お小遣い取り戻して解決済みだろう」
ああ、本人もソコは了解していたから、惨状にはならなかったんだな。
うん、エライぞ。ちゃんと自制できたんだ。
「それはわかった。で、次は……、アルベルト様がルーレットをやったと。
テーブルに置いたワイングラスのワインの傾き加減で、台の傾斜を―――。
うん、ピンのくすみとポケットの摩耗具合で、玉が辿る頻度の高い軌道を予想して――」
さすがだな、あの方は。
それでその後は?
「ルーレットの出目?
ああ、なにが出るかエリシア様と予想したんだ……
エリシア様の年齢は当たったが、誕生日はハズレた……?」
結構長めの沈黙が続いた。
「……すまない……、私にはよくわからん……」
あ、ルナもわからない……。
うん、それならスルーで。
ルナに次の話を促す。
「そしたら、アルベルト様が、エリシア様の誕生日の16ばっか狙って張ってた……?」
……え?
……だから?
「だから……、アルベルト様は……、エリシア様に……
……ホの字……?
エリシア様も……
まんざらではない感じ……?」
また、結構長めの沈黙の時。
あの、いつも飄々とした態度のルナも、少々戸惑っているようだ。
「……ルナ……」
私は少し身を乗り出し、ルナに語った。
「あのふたりの関係性は……我々ではワカランよ。
ただの主従ではないし、ただの男と女でもない。
あの関係性はな……きっと、そういう単純な理解では及ばないところにあるんだと思うよ」
そう……
あのふたりの間の空気感は……唯一無二だ。
他人には創れない。
自分の知る限りの、あのふたりの日常を、思い返す。
「我々では、一生かけても手に入れられない……
そういうモノのような気がするな……」
ルナが、ちょっとだけうらやましそうな表情を浮かべて頷いた。
きっと、私も同じような顔をしているのだろう。
「それで……、うん、ロッテはエリシア様とふたりで仲良くルーレットに興じたと。よかったじゃないか」
おや、苦笑いが……。
「ああ……、エリシア様が、懲りずにアツくなって張りまくるんで、自分も乗せられて張りまくって……」
その成れの果てが……アレか……。
で、その責は、全て自分に帰すという事は理解しているから、ディーラーにプッシュナイフ突きつけたり、ルーレットにクナイ打ち込んだりはしなかった……と。
この旅で成長したな、ロッテは。
まだ4日目だけど……。
「なるほど……、一連の出来事は把握できたよ。
でも、お前はあのタマシイの抜け殻から、よくそれだけ聞き出せたな」
ああ、ソコはオトメ同士……ね……。
うん、オジさんにはムリな話だ。
お前がいてくれてよかったよ。
私では……たぶん理解が追いつかん部分が多すぎる……。
だが……
私は呆けているロッテに視線を向けた。
「だがな、今日の護衛任務は大成功だ」
少し驚いたようにルナが私を見た。
私は、彼女に語った。
やや諭すような固い口調になってしまったのは、私の未熟さゆえ……かな。
「エリシア様も、帰ってきた時こそ似たような感じだったが、スグに復活して、楽しそうに今日の出来事をリンちゃんに話してただろう。
護衛対象に窮屈な思いを微塵もさせず、楽しい想い出だけを残せた。
まさにコレこそが、我々護衛が最も守らねばならない事柄なんだ」
立ち上がり、ルナに軽く手を振る。
「ロッテが復活したら、お前から伝えてやってくれ。
よくやったってな。
ああ、明日はお前の番だな。よろしく頼むよ」
部屋のドアに手を掛けた時、元気な返答が帰ってきた。
「うん、それじゃおやすみ」
振り返りはせず、静かにドアを閉めた。




