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改訂 第20話 達人(11日目)

 何ゲームか成り行きを見ていた。

 途中で『外客掘り』がフルハウスを決め、観光客の金をほぼ根こそぎ奪ったようだ。


 テーブルに行き、声を掛けた。


「ご一緒してもよろしいでしょうか」


 私が言葉に、小太りの『外客掘り』は愛想のいい笑顔で応じ、狩られた2人はビクッと身体を震わせた。


「ええ、かまいませんよ」


『外客掘り』がそう答える一方で、狩られた2人は慌てて席を立った。


「で、では、私はこの辺で」

「し、失礼、私も終わりにします」


 バタバタと2人が去っていった後も、『外客掘り』は笑顔を崩さない。


「おやおや、これではあなたとサシのゲームになってしまいますね。どうしますか、どなたか来るのを待ちますか?それともこのまま始めますか?」


「……そうですね……」


 そう言いながら周りを見回す。

 今のところ、自分に合いそうなテーブルを物色している客はいないようだ。


「どなたもいらっしゃらないようですね。

 私もこの後商談がありまして、あまり腰を据えて遊ぶワケにはいきません。

 どなたかいらっしゃたらお入りいただくとして、よろしければ始めていただけますか」


「……ほう、この後に商談が……」


 にこやかに笑みのなかで、目だけが変わったのがわかった。


「よろしい、では始めましょう。

 参加料(アンティ)は金貨1枚です」


 お互い1枚ずつ出す。


 ディーラーが無言でカードを配る。


 カードは――10のワンペア。

 ファーストベットは、ディーラー左側の私からだ。


「では、1枚」


『外客掘り』も自分のカードを見ながら同額を出す。


「1枚チェンジお願いします」


 1枚を交換するが、10のワンペアのまま。


「セカンドベット、金貨1枚」


『外客掘り』は2枚交換。

 そして積みを上げてきた。


「レイズ、その上1枚」


 私もそれを受け、ベットを上げる。


「レイズ、その上に2枚」


 このレイズに、『外客掘り』は笑顔を崩さず、カードを伏せた。


「……フォールド」


 私の賭博場デビューはこんな風に終わった。



      ❖    ❖



 【ギースたちのテーブル】


「バカヤロ、ギース、あんま露骨に見てんじゃねえよ。オメエ、ただでさえ目立つんだからよ」

「るせーな、テメエは気になんねえのかよ」

「いや、そりゃあ気になっけどさぁ」

「大丈夫だ、そのためにわざわざテーブル移って、ヤツの背中側に回ったんじゃねえか」


 アレクはもうかなりのゲームを重ねていた。


 序盤は取ったり取られたりだったが、ある時点からアレクの優勢が続いている。


 別に頻繁に手が入っているわけではない。

 いい手の時もあれば、ブタの時もある。

 

 なにがアレクの優勢を支えているのか。


 それは――見切りだ。


 ポーカーの強い弱いは、手札の役そのものではない。

 

 単純に、相手のカードより強いか弱いかだ。


 ワンペアでも勝てる時はあるし、フルハウスでも負ける場合がある。


 アレクはその見切りが至極的確だった。


 相手に本手が入っている時は、なぜか早めに撤退する事が多い。

 逆に自分に本手が入った時でも、なぜここでというタイミングで撤退する事しばしば。

 追うところで追い、引くところで引く。

 ココの噛み合わせが、非常に上手くいっているように見えた。


「ああいう打ち方は俺にゃできねえな……」


 ギースがポロリと本音を漏らした。


「オメエの打ち方はチカラばっかだもんな」


 ルイの冷やかし半分の返しにも、特に反応はせず、アレクを見つめながら言う。


「あのヒトも言ってたぜ。ギャンブルってのは無粋な確率論じゃなく、『不確実な未来』をねじ伏せて掴む閃きだってな。俺もだ、俺もつたねえながらもそう思って勝負してきたつもりだ。

 だがよ……、アレクさんは違うな……

 なんか別の……別のモノを見てる気がするぜ」


 


       ❖   ❖ 



 【『外客掘り』視点】


 なぜだ……。


 なぜこの紳士ヅラはこんなに素早く見切りが付けられる。


 最初は普通の素人だった。

 いや、今でも所作や雰囲気は素人のままだ。 

 だが、局面局面での押し引きは玄人はだしだ。


 こっちに本手が入ると、スルリと引く。

 ブラフで降ろそうとしてもピタリと着いてくる。

 100発100中じゃないが、ここぞという時にソレを決めてくる。


 クソッ、カモども食ったアガリが、もう半分以上持ってかれてる。


 だが今度はそうはいかない。

 俺がファーストベットの場でこの手、いきなり出来合いの6スリー(カード)。


 ようやくきた。

 強気に行ってもいい場面だ。

 取り返せる。


「ファーストベット、2枚」


「同じく2枚」


 ほう、まずは着いてくるか。


「2枚チェンジ」


 ココでうまくハマれば6フォー(カード)かフルハウスだっ……!


 配られたカードを取る。


 クッ、変わらずか。


 だが、いい手役には違いない!


「セカンドベット、3枚」


 ヤツはどうする?


「チェンジ、1枚」


 1枚?

 手札に完成形がある?


 こういう場合、普通はツーペアだが、スリーカード以上、フラッシュ狙いやフルハウスも可能性としてはある。


「レイズします。その上2枚」

 

 ヤツは強気にきた。

 となると、俄然難しくなった。

 ツーペアはほぼないだろう。

 となるとスリーカード以上。同格だ。

 こっちは6。

 スリーカードとはいえ、数字としては下から5番目、強いとは言えない。

 だが、捨てるのも惜しい役だ。

 取り返すために―――ここは行く!


「レイズ!その上に2枚」


 どうだ、着いてこれるか!


「はい、受けます。レイズ、その上に3枚」


 な、3枚……?


 と、とても着いて行けん……


 間違いなくハイカードスリー以上だ。


「……フォールド」


 絶好の機会と思ったが……


 ……だか


 ……なぜヤツは


 こんなに静かなんだ……?


 焦りも動揺も感じられない。


 いや、本手が来た時の高揚感も見えん。


 クソッ、忌々しい!


 次だ、次のターンでなんとか挽回を!


 ヤツのファーストベットは―――


「ファーストベット、3枚」


 な……、いきなり3枚?


 俺の手札は―――


 ダメだ……ノーペアだ……


 ハッタリか……?

 本手か……?

 

 クソッ、わからん……


「同じく……3枚」


 ヤツは―――2枚交換?

 スリーカードか?


「セカンド、5枚」


 だ、ダメだ、話にならない!

 

「フォールド……」



        ❖   ❖



 【ギースたちのテーブル】


「チィッと心配だったが、アレクさんヤッパ強えな、ギー……?おい、ギース、どうしたってんだよ」


 ルイは、ギースの顔が強張り、目に動揺がある事に気がついた。


 ギースが絞り出すように問う。


「オメエ……気がつかねえのか……」


「……な、なんにだよ」


 ギースがゴクリと喉を鳴らした。


「……ショーダウンまで……行ってねえ……」


 そう言われ、ルイがジィ〜ッとテーブルを見て、頭の中で思い返してみる。


「……そう言われてみりゃ、なんか少ねえな。どっちかがフォールドして終わってるわ。

 でもよ、そういう事も結構ある―――」

「バカヤロー!サシのポーカーだぞ。たった1人の手役の強弱だけ見りゃいいんだ。何人もでやるゲームより、ショーダウンの頻度はグッと増えらぁ!」


 ギースが自分のグラスに酒を注ぐ。


「俺の経験から言っても……相手がいくら慎重でも普通は3回に1回くれえはショーダウンに届く……。

 だがよ……、アレクさんはそれよりずっと少ねえ……。ありゃ5回……いや6回に1回もやってねえぞ」


 グラスを煽り、また酒を注ぐ。

 手が僅かに震えだした。


「俺ぁ、あのヒトと直接対峙した身だ。

 あん時、身をもって体感したアレとは違うが……どっか似てやがる。

 ありゃあ……別の領域の……達人のソレだ」


 アレクを見る。


 自分たちとも、あのヒトとも、全く違う場所に立つ、ひとりの達人。


「俺たちはよぉ……、カードの流れ、場の偏り、今この時にある熱、そういうよくわかんねえモンを感じ取って、勝負を掛けてきた」


 それを煽る。


 手の中の空のグラスはまだ震えている。


「だがよ……、アレクさんは……違うぜ……

 ありゃあ、流れも、偏りも、熱も、カードすら見ちゃいねえ……」


 ギースが震える自分の手を自ら押さえ込んだ。


「アレクさんが見てんのは―――」



 


 




 

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