第21話 対人戦の呼吸(11日目)
【『外客掘り』視点】
ダメだ、このままではジリ貧だ……。
70枚ほどあった稼ぎか、もう10枚ちょっとしかなくなった……。
それというのも、ヤツがこちらの勝負どころで、上手く立ち回るからだ。
しかも、あの静かな態度……。
勝ちが積もっての余裕?
いや……なにかが違う気がする……
ヤツは……
ヤツは本当に……
ギャンブルを……
しているのか……?
カードが配られた。
ジャックのワンペア。だが、クイーンと10が1枚ずついる。
まだ弱いが、伸ばせれば勝負になる!
「ファーストベット、1枚」
ヤツはどう出る?
「……私は……少々、剣を嗜んでおりましてな」
ヤツがこちらを見た。
「あなたは……いかがですか?」
なんだ、いきなり……
「……いえ、その道はちょっと無作法で……」
「左様で……。私も非才の身で、まだまだ……
同じく1枚です」
関係のない話をペラペラと!
気に入らん!
勝者の余裕とでも言うつもりか!
全くもって気に入らん!
「チェンジ、1枚」
キングと10を残して、どれかを引いてくれば――
来た!
ジャックのスリー!
コレならイケる!
だが……ココは敢えて静かに行く。
ヤツに少しずつ積み上げさせて、
そこで狩る!
「セカンドベット、1枚」
俺のセカンドベットが終わってヤツの手番。
「チェンジ、2枚お願いします」
2枚交換して―――どうする?!
「受けます、その上レイズ1枚」
よし!着いてきた!
急がず、慌てず、このジャックスリーで刺す!
「では、受けてその上に1枚」
ヤツが金貨に手を伸ばした。
よしよし、まだ着いてこい!
「未熟者とはいえ、長くその道におりますと、少しずつですが、わかってくる事もありましてね。
受けて、その上に1枚」
よし、気持ちよく講釈を垂れたいなら、その空気は壊さずに置いてやる。
もっと着いてこい!
「なかなか興味深いですな。レイズ、1枚」
これを受けて、またヤツが金貨に手を伸ばした。
「剣というのは対人戦です。相手を打ち倒す事を目指してしのぎを削る。そこには数え切れないほどの駆け引きがあるんです。
では、私も受けます。その上1枚」
フッ、そのまま来るか。
よしよし。
「なるほど、駆け引き……ですか。どこかギャンブルにも通ずる部分があるようですな。
レイズ、2枚」
「そうですね。フェイント、威嚇、競り合い、決め……。その駆け引きの向こうにある相手の狙いの読み合いの果てに勝負が決す。
似てますね、確かに。
レイズ、1枚」
また積んだ。
最後まで行く気か。
「なるほど、深いですね、レイズ、上に1枚」
「そう、確かに深い。
対峙した相手の目、視線、肩の動き、足運び、剣の位置、あらゆる仕草に意図がある。
そしてこんな私でも、駆け引きの向こうの相手の狙いが、少しだけわかるようになりました。
レイズします。その上に1枚」
相手の狙いが……わかる?
ヤツの言にイヤな感じを受けた。
いや……俺の手はジャックスリーだ。
強く出ていい手だ。
突然ヤツが講釈を垂れ始めたのもブラフを隠すためか。
「相手の狙い……、ハハハ、それがわかれば勝負など負けなしではありませんか」
少し皮肉交じりに返しても、ヤツの表情は変わらない。
相変わらず落ち着いた顔に、薄い笑みがへばりついている。
「そうなんです。ある程度のレベルには難なく勝てるようになりました。
しかし、その上の相手はそうはいかなかった。
彼らは仕草に”幻"と”誘い”を混ぜてくるんです」
「幻……ですか。レイズ、1枚」
そろそろ上限だ。ヤツがコールすれば勝負、レイズするなら俺はコールして、このジャックスリーで狩る!
「僅かな仕草に狙いとは異なる"幻"を忍ばせ、こちらの狙いを”誘い”、誘い出された私を打つ。
いやぁ、さんざんな目に遭わされました」
ヤツがまた金貨に手を伸ばした。
金貨を数えている。
レイズか!
「もちろん私も精進を重ね、彼らと同じ事ができるようになりました。とはいえ、こうなるともうイタチごっこだ。差がつきにくい。
だから私は――」
ヤツが私を見た。
「”見ること”を止めました」
ゾクッ!
な?
さ、寒気が走った!
「目で追っても真意が掴めない。であれば見ても仕方がない。見なければ惑わされる事もない」
なんだ……
なんだ、この感覚は……
ヤツの顔が……
姿が……
霧に包まれたように朧に見える……
「ではどうしたか。感じる事に心血を注ぎました。
感じる、感じ取る……。長い長い積み重ねの果てに、ようやく感じ取れるようになりましたよ」
ヤツが金貨を場に置いた……ように見えた。
はっきりとは見えない。
カードと金貨は見える。
だが、ヤツの姿はぼんやりとしか見えない。
「相手の、呼吸を……ね」
「……こ、呼吸……?」
「剣士は、常に呼吸を整えようと努めます。息の乱れは技の乱れに通ずる。
で、呼吸に注目しているうちに、狙いによって呼吸が微妙に違う事がわかるようになりました」
ヤツがテーブルの上で両肘を立て、手を組んだ。
「実力差がない剣士同士では一合では決しません。何手か交え、相手を探り、勝ち筋を見つける。
レイズ、上に1枚乗せます」
なんなんだ……
この威圧感は……
身体が……うまく動かん
「……あなたの呼吸は、非常にわかりやすかっ
た」
声だけが、妙に耳に響いた。
い、今……、なんて言った……?
「席に座る前に何ゲームか拝見していました。
手が入った時、入らなかった時、ブラフをかける時、そして本手が入った時……、全部違っていましたよ、あなたの呼吸は」
何ゲームか見てた……?
呼吸が違う……?
わ、ワケがわからん……
「席に着いて、実際にゲームを進め、あなたの手役と、その時の呼吸を知る。
あとは割と簡単ですね。勝っていれば押し、負けていれば引けばいい。
で、このゲームのあなたの呼吸は、まずフルハウスではなかった。前の観光客との最後のゲーム、あなたはフルハウスでしたね。あの呼吸ではありませんでした。
ゲーム中に何度か同じ呼吸をしていましたよ。そう、スリーカードの時だ。
ただ、今日はストレートとフラッシュは見せていただいていませんから、もしかしたらこの辺かもしれない。そこは残念ながら不確かです」
ヤツが見ている……
いや……見ていない……
呼吸を感じて……る
呼吸を……
「あなたの番です。コールですか、レイズですか。どちらでもいい、私は次にコールします。
あなたの呼吸は、これで勝負は終わりだ、と言ってます。
さあ、早く開いてみましょう、スリーカードか、ストレートか、それともフラッシュか」
呼吸が、うまくできない。
俺の手が震えた。
カードがこぼれ落ちる。
ジャック3枚が、パラパラとテーブルに姿を晒した。
「なるほど、やはりスリーカードでしたか」
ヤツが手札を手にした。
「仮にあなたがフラッシュでも、私には――」
最初にAが、次にキングが現れた。
「負けはなかったでしょうから」
キレイな扇型を作り
5枚のハートが並んだ。
「Aハイフラッシュです」




