第19話 勝負師たちの酒(11日目)
ルイ殿とギース殿に囲まれて、軽く酒を嗜んだ。
ふたりとも、粗野ではあるがひねくれた感じはなく、騎士団の荒くれどもにも通ずる部分のある方々だった。
だから私も、それなりに気を許し、わりと楽しい時間を過ごす事ができた。
「なあ、アレクさんよ、アンタ本当にギャンブルやんねぇのかい?」
ギース殿が赤ら顔で聞いてきた。
「仲間内でポーカーくらいはする事はあるが、こういう場所は初めてだよ」
そう答えると、ギース殿がグワッと詰め寄ってきた。
「もったいねえ!もったいねえぜ!
ココはリヒテンラーデだ!ギャンブルの街だ!
ココに来て、しかもこの店にまで来て、ギャンブルに触りもしねぇなんて、もったいなさすぎるぜ」
ルイ殿が苦笑いしながら、ギース殿を窘める。
「おいおい、ギース、やめとけよ。オメエ、アレクさんからカッパぐ気じゃねえだろうな」
「バッカヤロー、ンな怖え事できっか。
あのハメツの王がご降臨しちまうじゃねえか」
ガッハッハと笑い合ってるふたり。
ギース殿が少し声を落とした。
その目に少しだけ、憧憬が見えた気がした。
「あのヒトはよ、どう見てもド素人だった。
だから侮った。こんなヤツに負けるわけネエってよ。そんで見事に鼻っ柱へし折られたんだがな。
でもよ、あ〜んな勝ちっぷりした後も、あのヒトの素人ぶりは変わんなかったんだ。
ありゃあ擬態じゃあなかった。あのヒトはギャンブルは確かにド素人だった。だがな、そんなちっちゃな世界を軽く摘みあげられるくれえバカでかいトコで、あのヒトは達人だったんだ」
クイッと酒を嗜む。
そして私を見た。
「俺も、曲がりなりにもこの道でシノいできた身だ。あのヒトの器量ってのは測りきれなかったが……アレクさん、アンタのはなんとなくわかる気がするぜ。
アンタは武人だ。ギャンブルとは意味も有り様も違うかもしれねえが、でも『勝負』って一点では通じるトコあるんじゃねえか」
ふむ……、いい指摘だ。
なかなか深いじゃないか。
こんな気分になったのは酒のせいばかりでもあるまい。
周囲に撒き散らされる勝負熱に、ヤラれてしまっていたのかもしれない。
「ハハ、いいでしょう、ポーカーくらいしかできませんが、少しお手合わせ願いましょうか」
ギース殿がみるみる喜色を浮かべ、ルイ殿は苦笑いを浮かべた。
「よお〜し、そうこなくっちゃな!上行くぜ、上!ポーカーテーブル行くぜ!」
立ち上がったギース殿に腕を掴まれ、やれやれ顔のルイ殿と一緒に、2階のポーカーテーブルに向かった。
❖ ❖
一番レートの低いテーブルを貸切って、酒を飲みつつゲームに興じた。
ギース殿はとにかく攻めを好み、さすが代打ちするだけの力量が見えた。ルイ殿は力量でいえば及ばないが、それでも随所に長年培ったセンスのようなモノが窺えた。
「いやぁ、アレクさん、アンタ強えな。勝ちはギースと変わんねえか。俺ぁドベだってのによ」
「ああ、ルイの言う通りだ。アンタ強えよ。
ソコラのヘッポコじゃ太刀打ちできねえ」
「いやいや、ツイてただけでしょう。
すみませんな、プロの方々にこんな低レートでゲームにお付き合いいただいて」
「なあに言ってんだ、親睦だよ親睦。
男同士、酒呑みながらゲームやって、親睦を深める。昔っからの俺らの流儀だ。
アンタの仲間内でも同じだろう」
ガッハッハと笑いながら酒を煽るおふたり。
荒くれ故の飾らなさが空気を暖かくしてくれる。
今日は……イイ酒が飲めてる。
「……おい、アレ……」
「おう……、チィッとマズイな……」
ふたりの手が止まって、あるテーブルを睨んでいる。
客が3人、テーブルの金が1人に集まっている。
よほど勝ちを積んだのか。
他の2人は頭を抱えている。
「あそこがどうしたと?」
ふたりが顔を顰め、苦々しく言った。
「ああ、ヨソモノギャンブラーの『外客掘り』だ。しかも殺しに来てやがる」
『外客掘り』?
専門用語が出てきたな。
ルイ殿が補足説明してくれた。
「『外客掘り』ってのは観光客を狙ってギャンブルを仕掛けるやり方だよ。
俺も人の事言えた義理じゃねえが、客は殺さねえ。
ちょっとスリルをおカネに変えてもらうだけだ。
だが、ヤツは完全に客を丸裸にするつもりで仕掛けてやがる。
王都のギャンブラーにゃ、そんな奴はもういねぇ。どっかヨソから稼ぎに来てる奴だ」
「それは困るな、まるで賭場荒らしじゃないか」
「だがよ、一旦店に入れた客は簡単には追い出せねえ。サマやったとか、それなりの理由がなきゃな。勝ってるから追い出したなんて、逆に店の信用が落ちちまう。
だから回状回して出禁にするんだよ、ダンナみてぇにな」
なるほどな、賭博場の経営っていうのも奥が深い。
「仕方ねえ、俺が行って止めさせるか」
「説得するのかい?」
「ンな事しねえよ、俺見りゃ向こうは一目でプロが来たってわかんだろ。勝手に止めて出ていくさ。ただな……」
「ただ?」
「他の店に行って同じ事をやるだろう。
明日にゃ回状が回るのをわかってっからな、いろんなトコ回って根こそぎ掘ってく。そこまで折り込んでやってやがるんだよ」
う〜む、それはそれで収まりが悪い。
では、ココは少しお役に立ってみせようか。
「それじゃ、私が行こうか」
ふたりが驚いている。さもありなんだが。
「おいおい、アレクさんよ、アリャ曲がりなりにもプロだぜ。アンタがそれなりのウデなのはわかったが―――」
「ご心配なく、ギース殿。なるほど、あなた方では雰囲気から察知されてヤツに逃げられる。それではお灸は据えられませんな。
しかし私ならギャンブルド素人だ。
向こうも油断するでしょう。ちょうどいいではありませんか」
「だがよ、アンタ金持ってんのかい?
あのテーブルは下限金貨1枚、上限金貨20枚だ。
ポーカーってのは手札とは別の戦略もあるんだぜ」
「場に積む金の圧……ですね」
「おおそうよ、失礼かもしんねえが、アンタそんなに持ってるようにゃ見えねえぜ」
ルイ殿がバァンと立ち上がり、ニヤリと笑った。
「バカ野郎、金の積み合い?ンな事で負けるわけねえだろ。ココは顔役の店だぜ」
そう言うと、タッと走って、店の奥に姿を消した。
少しすると、ルイ殿が黒いケースを手に戻ってきた。
「ホレ、コイツでバッチリだぜ」
パカっと開けると、金貨の棒がキレイに4列並んでいる。
「ひとつ50枚、締めて200枚だ。こんだけありゃ十分だろう」
ちょっとばかり怯んでしまった。
「……ハハハ、さすがに多すぎですよ」
ギース殿が少したじろいだ。
「オメエ……よくこんな金引っ張れたな……」
「ナニ言ってんだよ、ダンナのカオだぁ。
ココの支配人もちゃんと心得てたよ。
お守り代わりに持ってけや」
ギース殿とルイ殿の眼差しがアツい。
多少酔いが回ってるのかな。
もっとも、それは私も同じか。
気持ちのイイ酒に酔ったのかもしれない。
「ありがとうございます。
ギャンブルの流れ……というものはわからないと思いますが、対人戦の駆け引き、というヤツはそれなりに心得ているつもりです。
では、行ってまいります」




