第18話 賭博場散策(11日目)
「今日は私たちに任せて、副団長はお休み下さい」
ルナとロッテが、カーライル侯爵邸への護衛を引き受けてくれるらしい。
「昨日、閉会式の護衛は一人で引き受けて、私たちにお休みくれたでしょ。そのお返しです」
「副団長、リヒテンラーデに来て、個人的に街歩きしてないでしょう。
私たちは任務の範疇で、リンちゃんと一緒に好きにお店歩きさせてもらってましたケド。
それから、お土産買わなくていいんですか?
ナニも用意してませんよね」
し!しまった!
すっかり忘れてた!
コレ外したら、団長はじめ団員たちにどんな責め苦を受けるかわかったモンじゃない!
「お、おう、ありがとう、すっかり忘れていた。
助かったよ。それじゃスマンが今日は甘えさせてもらう」
手を振るふたりに見送られながら、そそくさと買い物に出ていった。
❖ ❖
とは言ったものの、ナニを買っていこうか。
無難に名産品?地元の銘酒?訓練用の武具?
いやいや、私自身のセンスが問われる事だ。
安直には決められん。
うんうん悩んでいると、声をかけてきた者がいた。
「……アレク様?……アレク様では……」
振り返ると、南の顔役カイン殿と、路上賭博の男が立っていた。
「ああ、カイン殿、それと路上賭博の……」
「ああ、アレク様は彼の名をお聞きになっておりませんでしたな。彼はルイと申します」
ルイ…殿はなんとなく気恥ずかしいそうにペコリと頭を下げた。
「今日はどうされました?お一人のようですが」
「はい、今日は休みをもらいまして。
仲間への土産を買いに街に出てきた次第です」
それを聞いたカイン殿の顔に、パァッと笑顔が咲いた。
「おお、左様でしたか。いやぁ、そういうことであればちょうどいい。私にお任せください。
実はアルベルト様にオークション会場でお会いした際に、お土産の調達を頼まれておりまして。宿舎もお聞きしております。明日朝一番にお届けするよう手配しているところです」
「よろしいのですか?ご迷惑なのでは?」
「いやいやいや、こんな事、恩返しにすらなりません。ぜひともご用命下さいませ」
ニコニコ顔のカイン殿のご厚意を無下にはできんな。そういう事ならお頼みするか。
「では、コチラで土産を揃えて下さい。なるべく多くの人数に配れるモノでお願いいたします」
カイン殿に金貨1枚を渡すと、慇懃に受け取り、代わりにルイ殿を押し付けてきた。
「それでは私はお土産品の差配をしていますので、アレク様はぜひとも私の店でごゆるりとされていて下さい。
ルイ、よろしく頼む。くれぐれも――」
「わかってますよ、失礼のないように、でしょ」
満足気に去っていくカイン殿を見送り、ルイ殿が話しかけてきた。
「じゃあ行こうか、アレクさん。
顔役はうれしいんだよ、ダンナ方御一行のお役に立ててさ。
だから顔立ててやってくれや」
そういう側面もあるか。
まあいい、土産の件も済んだし、のんびり店で過ごさせてもらおうか。
「ああ、それではよろしく、ルイ殿」
「……ナンカ慣れねえな……その呼ばれ方……
まあいいや、行こうぜ」
❖ ❖
店は盛況だった。
祭りは終わっても、実際には後夜祭のような催しもあり、まだしばらくは観光客がいるらしい。
結構高級そうなボックスシートに案内されたと思ったら、酒や軽食があっという間にテーブルに並んだ。
「アレクさんもナンか遊んでくかい?
ダンナの護衛さんだ、アンタも強えんじゃねえか?」
「ハハハ、いや、全くの畑違いだ。私は剣しか振れんよ」
「まあ、ダンナみてぇなバケモンが何人もいたら、コッチがたまんねぇや」
少しだけ酒を口にして、ルイ殿に尋ねてみる。
「宿舎がわかったという事は、我々の素性も知っているという事かな?」
ルイ殿はさほど気にした素振りも見せず、ツマミをボリボリ食べながら返してきた。
「ウンにゃ、宿はあくまで届け先だ。どんな方々がそこに泊まってるかまでは、もっと深く調べなきゃわかんねえよ。
まあ、調べるまでもなかったがな」
なるほど、もう知っているか。
手酒でグラスに酒を注ぐ彼に、少し警戒を深めた。
だがルイ殿は一向に気にしない。
「おいおい、そんなに警戒すんなよ。
いろんなトコからアンタら護衛組の噂が聞こえてきたぜ。
ほれ、まず最初に顔役から誘いが来た日だ。
あの日、西でスリグループがひとつ、ぶっ潰されたって話が流れた。
やったのは子連れの3人組。その親父らしい男が木剣で叩きのめしたっていうんだ」
あ、あの日か。そんな事もあったな。
「特別ゲーム会場でもあったな。やっぱり子連れの3人組の、親父らしき人が、絡んできたバカ3人を簡単にビビらせた。
連れてた子供が『ガンバレ〜!』って応援したらしい。
あのゲームに出た打ち手に、応援してくれる子供なんていねえ。当然3人組はダンナの関係者かってなるわな」
それもやったな。確かにあの場では目立ってはいた。
「そんでもって今度はオークション会場だ。アンタら、テノールと西の顔役の護衛をシメたっていうじゃねえか。あん時『流刃』『剛拳』『暗器姫』って二つ名が護衛連中に知れ渡ったぜ」
ああ、護衛連中の中に我々を知ってる傭兵団もいたからな。
「んでウチが西の顔役からその話を聞いたんが昨日だよ。ああ、そういう方々か、と。
なるほど、ダンナ方の素性はわかった。
だが―――」
ルイ殿がグラスをグイッと呷って、どこか清々しい笑いを送ってきた。
「それがなんだってんだ。ダンナがドコのエライさんかなんて、この王都じゃ気にする奴なんてどこにもいねえよ。
あのヒトは、俺達じゃ絶対に届きやしねぇ、バカげた力量を見せつけた。
あのヒトは誰もが恐れ敬う『人外魔王』サマだ。ソイツはもう揺るがねえのさ」
ふむ、実にわかりやすい。
実力社会ならではの、単純明快な論理だ。
警戒を解き、ちょっと苦笑交じりにツマミに手を伸ばした。
突然、ルイ殿に声をかけてきた男がいた。
「おい、ルイじゃねえか。なんでい、だいぶいいご身分だな。デケェ実入りでもあったんか?」
「バカ野郎、接待だよ、接待。
ああ、そうだ。ギースよ、このヒト、オマエ負かしたダンナの護衛さんだよ」
え?アルベルト様が負かした?
「なにぃ?!あのヒトの護衛ってか?!」
そう言うなり、男がシートに滑り込んできた。
「おお!アンタがあのヒトの護衛か!
いやぁ、スゲエ御仁の護衛務めてんなあ!
アンタも相当デキんだろう!なあ?!」
なに?どういう事?
「いやぁ、俺ぁよう、あのヒトと最初に戦ったんだよ。最初は大差で勝ってた。もう誰が見ても安泰だったよ」
私のグラスに酒を注ぎ、次いで空のグラスにも注ぎ始めた。
「そしたらよ、ワンターンだ、たったワンターンであっという間に逆転されて、負け確になっちまった。
俺ぁ、あんな見事な勝ちっぷりは見た事ねえ!
逆に言や、こんな見事な負けっぷり晒したのも初めてだったぜ。恥ずかしながら感服しちまったよ。
ホレ、あのヒトのバケモンぶりと、俺の負けっぷりに乾杯!」
なんか、無理やり乾杯させられた。
この街では、敗北もまた祝われるのか。
そんな感慨を抱きながら、私はグラスを傾けた。




