第2話 路上賭博(初日〜2日目)
リヒテンラーデ王都に着いた。
馬車は2台。エリシア様、アルベルト様、リンちゃん、私と馭者にロッテ。もう1台にはメイドさんたち4人と馭者にルナ。総勢10人だ。
初のリヒテンラーデ王都に、エリシア様とリンちゃんは大はしゃぎだ。
それをうまく丸め込んで宿舎に連れて行くアルベルト様。さすがです。よ〜くふたりの操縦方法を心得ている。
もう夕刻近いし、オジさんたちは早く宿で休みたいのですよ。
❖ ❖
護衛体制はわりとすんなり決まった。
公式催事は2人または3人。観光はルナ・ロッテの交代制。あとは状況に応じて対処する。
「じゃ〜んけん――ポン!」
「……クッ!負けた!」
明日の護衛初日はルナに決まり。明後日は開会式だから3人で行って、その次はロッテと。
「じゃあ、さっそく皆さんに説明してきましょうか」
リビングに行くと、エリシア様とリンちゃんがまだ盛り上がっていた。
「リン、リン、明日どこ行こうか?やっぱり屋台は外せないよな。これは迷うなぁ、知らない料理がたくさんあるぞ」
「お姉ちゃん、こっちのこの辺もおいしそうだよ。楽しみだね」
おふたりの気持ちは明日の屋台巡り一色だ。
やれやれ顔でアルベルト様が注意してる。
「ほら、ふたりとも明日に備えてもう寝なさい」
「え〜?もう〜?」「堅物め、まだいいだろ〜」
ほっぺふくらましてブーブー文句をたれるおふたり。
うむ、さもあらん。旅行の高揚感というのは抗いがたいモノだ。
さっさと要件を伝え、辞去する。
「おふたりとも、お祭り楽しみにしてましたね。
あんなにキャッキャしてるの見ると、こちらまでほっこりしちゃう」
「エリシア様の尊さは言うまでもない事ですが、リンちゃんもカワイイっ!
ああ、シアワセですっ!あと10日もご一緒できるなんて!」
ふたりとも盛り上がってる。
護衛対象と、いい親密さが築けそうだ。
※除くロッテの対エリシア様
「では、明日からの任務、よろしく頼む」
「ハッ!」
「ハッ!」
いい返事だ。
ふたりが寝室に入るのを確認し、ようやく私の1日も終わった。
❖ ❖
「いやあ、参りましたよ、今日は。ハハハ」
護衛から戻ったルナが、ソファで寛いでいた私とロッテに開口一番そう言った。
それを聞いた途端、私の胃も、きゅう〜っと悲鳴を上げた気がした。
ナニが……あった……?
宿に帰ってきたみんなに、別に変わったところはなかった。
エリシア様も、アルベルト様も、リンちゃんも、みんな笑顔で、王都散策を楽しんで……きたんじゃないのか!?
「いやいや、アルベルト様の慧眼恐るべしって、今日しみじみ思いましたよ。
『人外』ってアダ名は伊達じゃないんですね」
コーヒーを注いでロッテの隣に座るルナ。
ロッテが興味深そうに尋ねた。
「へえ〜、なんかおもしろい事があったみたいですね。いいな〜、私も行きたかったなあ〜。
ねぇねぇ、ナニがあったんですか?」
身を乗り出すロッテに、屋台エリア案内図を見せながらルナが語り出した。
「ほら、この屋台エリアの隣の、このあたりで路上賭博やっててね。
テーブルの上のカップのどれに玉が入ってるか当てるヤツ」
「ああ、カップ動かすヤツでしょ。ルナさん、やったんですか?」
キャピキャピ感満ちる笑顔を浮かべてしゃべくりあってるふたりを眺めつつ、コーヒーを口に運ぶ。
杞憂だったようだ。
それはそうだろう。まだ滞在2日目、実質稼働初日だ。何か起きるにしても早すぎるよ。
……ん?
路上賭博……?
エリシア様は確か……
ギャンブルを毛嫌いしてたはずだが……
「アレね、ホントはイカサマだって知ってた?
後ろで見てたら簡単に当たるのよ。それでエリシア様がさぁ、『なんだ、簡単じゃないか』って調子こいて始めちゃってねぇ。
そしたら今度はぜんっぜん当たんないのよ、コレが」
ピキッ!
んグッ!
ロ、ロッテの笑顔が―――
……凍った……!
……熱っ!
コーヒー、熱〜っ!
な……
エ、エリシア様が……ギャンブル?イカサマ?
「……イカ……サマ……?」
ロッテ……眉がピクピクしてるぞ……
「そうなの、ことごとく外しまくって、アツくなっちゃって、もう止まんなくってさあ。
明らかにカモられてるんだから、私が『もうやめましょうよ』って止めたんだけど、全然聞いてもらえなくってね。
結局、持ってたお小遣いぜ〜んぶ巻き上げられちゃってさ、半ベソかきながら敗走したのよ」
こ、こら!ルナ!
カラカラ笑ってる場合じゃない!
ロッテの、く、黒オーラが見えないのか!
「……お小遣い……全部……?
……半ベソ……?」
むおぉぉぉぉぉ!
ものスゴっい殺意!
た、立ち上がった!
ダメだ!
外に、出しちゃならん!
こんな『災厄』を世に放つワケにはいかん!
決死の覚悟でドアの前に立ちはだかる。
「お、落ち着け、ロッテ!
どこへ行こうというんだ!」
殺意の奔流を背に、ロッテの凍りつくような微笑みが囁く。
「……お花摘みに……」
そんなワケないだろ!
「……手向けのお花を摘みに……」
イカサマ師に手向けるつもりだろ!
ジリジリと間合いを詰めるロッテ。
小博打で小遣い銭スッたくらいの些事で、なんでこんなに生命の危険を感じなきゃならん……。
いや、引かん!引かんぞ!
危害を加えようとしたならともかく、お小遣い巻き上げた程度の小悪党に荒事はやり過ぎだ!
事の軽重を見誤るな!
「ああ、でもその後、敵討ちだって言って、アルベルト様がお小遣い取り戻して下さったんですよ」
あっけらかんとした口調のルナのひと言に、ピクッと反応するロッテ。
「……お小遣い……取り戻した……?」
「うん、そうなの。アルベルト様ねぇ、初見でイカサマ見破って、スグに勝ち筋組み上げたのよ」
「取り戻した……」
おお……、殺意が……
殺意が……霧散していく……
「スゴかったよ〜、アレね、指輪に仕込んだ磁石で、玉をカップの壁にくっつけてたんだって。
それなら指輪を封じればいいって、ちゃんと罠を仕込んで、ひと勝負ふっかけてねぇ。ああ〜、痛快だったわ〜」
ロッテの微笑みに温度がよみがえった。
「そ、それで?それでどうなったんです?」
そそくさとソファに戻り、続きを聞き入るロッテ。
「ウン、それでね、ストップコールを好きな時に掛けられるって権利をもらって、イカサマ師がカップ掴む寸前でストップ掛けてね――――」
姦しくキャイキャイ囀っている。
こうしていれば、ただの仲のいいフツーの女性ふたりにしか見えないんだがな……。
もう寝よ……、明日は開会式だ……。
思い悩んでもムダだ……。
何事もなかったように戯れるふたりに、スゴイ脱力感を覚えつつ、自室のベッドに潜り込んだ。




