第16話 舞踏会会場(10日目)
舞踏会会場にエリシア様たち3人を送り出し、護衛待機所となるロビーにいた。
開会式の時と同じ場所。
公式行事もこれで終わりか。
「それじゃ、我々もどこかに――
ロッテ……いつまで半ベソかいてるんだ……」
ロッテがずっとスンスン鼻をすすってる。
「……だって……だって……」
「副団長、そう言わないでやって下さい。
仕方ないですよ、おふたりがあんなに神々しかったんですから」
ルナは優しいな。
オジサンの私が言うのもなんだが、あれは確かにいいシーンだった。
アルベルト様が、ドレスアップしたエリシア様の前に立ち、舞踏会にお誘いしたあの場面。
窓から入る陽光を背に、ネイビーブルーのドレスを纏ったエリシア様の手を、アルベルト様がソッと取る。
私から見ても、思わずため息が出るくらい美しかった。
リンちゃんも、メイドの諸君も、ほう……と声を上げて見惚れていたな。
エリシア様大好きっ娘のロッテにとっては、致死性の衝撃だったんだろう。
それからずっとあんな調子だ。
「……エリシア様……あんなにシアワセ……そう……なお顔……初めて見た……グスッ」
「……ロッテ……」
ルナに寄り添われ、鼻をビービーやってるロッテに語りかけた。
「アルベルト様への多少の嫉妬も混じっているようだが……我々はふたりの間には入れん。
前にルナにも伝えた事だが、あのふたりの関係性はきっと唯一無二なんだよ」
ん〜?と言わんばかりに、ロッテがひときわ大きく鼻をすすった。
「お前もあの場面を見たろう。
あれが全てを物語っているよ。
あの空間は、あのふたりだけのものだった。
他人には入れんし、他人では創れない」
ルナがウンウンと頷く。
「ただの主従じゃない。ただの男女でもない。
そういう事を超越した、全く別の繋がりが、きっとあのふたりにはあるんだ。
普通は一生かけても築けるかどうかわからない、特別な関係性がな。
あのふたりはそれを築き上げた。そういう事なんじゃないかな」
「……うらやまじい……でずぅ……」
ルナが自分のアタマを、ベソベソするロッテにコツンと当てた。
「そうだよね、うらやましいよね……」
ソファに、3人で座る。
「私は……誰かとそれを築けるんでしょうか……?」
誰に尋ねるともなく、ルナが問いかけた。
「わだじ……エリジアざまがよがっだ……」
グスングスンが止まらんな、ロッテ……。
給仕から飲み物を受け取り、ふたりに渡す。
「お前たちはまだ若いし……もしかしたら見つかるかもしれんぞ」
「本当に見つけられます?この私に?」
「ほんどでずが……、エリジアざまじゃなぐっで……?」
「たぶん、歳とか性別とか、そんなモン一切関係ない、私はそう思う。
それにな……」
私は立ち上がった。
グラスを掲げる。
憧れ、焦がれ、今なお届かぬあの『武神』の背に。
「自惚れかもしれん……。だがそれでいい……
このヒトとそれが築けつつある……。
そう思い、願いながら、ともに歩んでいければ……それでいいんじゃないか」
ルナは、うれしそうに微笑んでくれた。
ロッテは、盛大にまた鼻をかんだ。
「副団長〜、お酒〜、お酒飲まじでぐださ〜い」
「ハハハ、ダメだ、まだ任務中だろ」
「飲みだいんでず〜、ねえ、お酒〜」
「ロッテ、我慢しよ。帰ったら付き合ってあげるから」
「ホントでずか〜、ルナさん、絶対でずよ〜」
飲む前から絡み酒になってるな、コイツ。
それからしばらく、軽食をつまみながら、このふたりといろんな事を語り合った。
この旅の想い出から、騎士団に入った理由、辛かった事楽しかった事等々……。
笑い合いながらこんな事を語り合えるのも、ひとえに、この旅が素晴らしい時間だったからに他ならない。
この任務に携われて、本当によかった。
心の底から、そう思った。
「あ、エリシア様たち、出ていら―――あれ?」
ルナの声に、ロッテが素早く反応した。
ああ、エリシア様たちだ。
終わりにしたようだ。
ん……?
なんかヘンだぞ……。
エリシア様が……
呆けている……?
足取りもおぼつかない感じだな。
飲み過ぎたのか?
リンちゃんは……ニマニマしてる。
心配している素振りはないな。
なんでだろう、夢うつつでポヤ〜ンとしてる感じだ。
「……なんか……あった……」
え……?なんだって?
「……あのふたり……なんかあった……」
え……?ロッテ……?
「……絶〜対っ!なんかあった〜〜!!」
うわっ!
コイツ、ブワッと殺気を漲らせやがった!
周りの護衛のデキる奴ら、みんな反応してるじゃないか!
よかった!武器携帯禁止の場所で!
下手すりゃ斬られてるぞ、お前!
「あ〜あ、ダメだって、ほら、どうどう」
毎度の事ながら、ルナが羽交い締めにしてくれた。
ガウガウ唸りを上げるロッテにもビクともしない。助かる。
「す、すいませ〜ん、何でもありませ〜ん。
お騒がせしました〜」
警戒色タップリの皆さんに平謝りしながら、ルナとロッテを引き連れ、この旅最後の公式行事、その帰路の護衛に付いた。




