◎第15話 我が忠誠を(10日目)
今日は公式日程最終日。
昼から閉会式が執り行われ、夕方から舞踏会だ。
閉会式の護衛は私がひとりで行く。
ルナとロッテは、労いの意味も含め、舞踏会までの休息を与えた。
改めてリンちゃんと喜びを分かち合うのも良し、舞踏会に向けて妙に意気込んでるメイドさんたちと盛り上がるも良し。好きに過ごして欲しい。
特に何が起こるでもなく、厳かだが面白味には欠ける閉会式が無事終了し、宿舎に戻った。
戻ってきて最初に感じたのは―――異様な熱気だった。
確かに、朝からメイド諸君の舞踏会に向けた意気込みは感じていた。
だが今は、それが何倍にも増幅され、触れるのも憚るほどの熱さがヒシヒシと伝わってくる。
この雰囲気……私は知っている。
アレは……剣術の『武闘会』前の、支度室の空気だ。
闘いを前に、相棒である剣を手に、身を、心を、静かに滾らせその時を待つ……あの空気だ。
……でも……
……なんでリンちゃんまで……?
……ルナとロッテ……
……お前たちもなの……?
なんとなく、目を合わせられなかった。
伏せ目がちに横を通ったが、彼女たちは、私とアルベルト様なんて見てもいなかった。
「あ……あれ……?」
エリシア様の、か細い困惑の声を聞いたような気はしたが……
うん……、支度室の剣士は刺激しちゃならん。
その足で、アルベルトは寝室に着替えに行った。
やけにノドが乾いた。
キッチンでなにか飲み物でも飲んでいよう……
❖ ❖
男の身支度なんて、あってないようなモノだ。
あっという間に身支度を完了させたアルベルト様と居間に向かう。
だが……、このルートは、開け放たれたエリシア様の部屋を通る事になる。
私の危機感知の警報が、ものスゴっい勢いで鳴り響いてるんだが……。
近づくにつれ、不穏な気配の濃度が跳ね上がる。
ドアからその奔流が見えるようだ。
アルベルト様……、気配は気づいてるようですケド、甘く見てません……?
ああ!
立ち止まっちゃダメですよ!
ココはサラリとやり過ごさなければ!
あ、エリシア様と目が合ってしまった!
マ……マズい!
「ア、アルベルト!アレク!ちょうどよかった!た、助けてくれ!助けて!」
ギロッ!!
皆さんの視線が一斉に私たちを襲った!
し……、しまった!
見つかった!
ア、アルベルト様は?!
あの鉄面皮が顔色を失ってる……
ダメなんですよ!
こーゆー時の女性陣の圧を甘く見ちゃ!
アルベルト様と目が合った。
お互い無言……。
だが、ナニを考えているかは
手に取るようにわかった。
私たちは
お互いナニかを納得したかのように頷き合い
ニッコリ笑って
皆さんに手を振りながら
静かにドアを閉めた。
そっと去っていく私たちの背に届く「裏切り者〜」とかいう呪詛は完全無視!
「アレク……、私の判断を……責めないでくれ」
アルベルト様、やっとおわかりいただけましたか……。
あ!ダメです!振り返っちゃダメです!
ホラ、ルナとロッテがコッチ睨んでます!
あのふたりが、我々がエリシア様のおめかしのジャマをする異物だと認定したら……
無手の状態では、あなたはもちろん、自分の身さえアヤウい……
微かに「コ、コルセットをそんなに締めるな〜、グェ……」という叫び……
いや……知らん……聞こえん……
ココは貴族街の貴族別邸……
屋敷内でキケンなど、あるはずがナイ……
私たちは静かに別室に入り、息を潜めて事が済むのを待った。
❖ ❖
「ああ、ホサ、こんなとこにいた〜。もう出かける時間だよ。
ねぇねぇ、早く来て。エリシアお姉ちゃん、すっごくキレイだよ、見てあげて」
おめかししてもらったリンちゃんが私たちを呼びに来た。
うん、実にかわいらしい。
さすがメイド諸君。
お見事な腕前だ。
私たちはリンちゃんに手を引かれ、先ほど追い払われた、男子禁制の扉の前に立った。
ルナとロッテがにこやかにお出迎えしてくれた。
ルナ……ロッテ……
アレほどの修羅の気配を纏っていたのに、今じゃスッカリ普通のお嬢さんじゃないか……。
「さぁ、お二方、ココロの準備は万全ですか?
初見、コレすなわち千載一遇の尊き一瞬です。心して拝謁されますよう」
ルナの仰々しい口上に、ロッテが顔を赤らめながらコクコクと頷いている。
「ではお入り下さい!」
ルナ・ロッテが扉を開け放った。
扉の向こう、エリシア様が立っていた。
髪をアップにし、ネイビーブルーのドレスを着ていらっしゃる。
少し恥ずかしそうに笑顔を浮かべている。
私も、アルベルト様も
暫し……動けなかった。
美しい……
この方が……
我らが主君……
身体が動いた。
膝を折る。
丁寧に、静かに、礼を取った。
口上が、流れるように自然に溢れてきた。
「……エリシア様……、改めまして私の忠誠を、テーゼとあなた様に――――」
エリシア様は、はにかんだような笑みを浮かべ、私の宣誓を受け取って下さった。
胸が、高鳴った。
心が、熱くなった。
騎士として
武人として
感無量の瞬間だった。




