◎ 第14話 素描画と眠る夜(9日目)
「リン!素描画買えたぞ!持って帰ってきたぞ!」
エリシア様が勢いよく玄関を開け、大声でリンちゃんを呼んだ。
すぐにリンちゃんが走り寄って来た。
エリシア様の胸元に抱かれた2枚の絵を凝視している。
暫し、動けない。
「……わたし……のた……め……」
感極まっているんだろう。
取っておいたはずの、あの言葉が言えない。
代わりにエリシア様に抱きついて泣きじゃくっている。
いい光景だ。
ルナもロッテも、メイドさんたちも泣いている。
私の胸にも熱いモノが込み上げてくる。
目立たぬよう、ソッと目頭を拭った。
アルベルトは――
やはり目が赤い。
そうです。
それでいいのです。
あなたはやり遂げた。
その成果の結晶こそが、この優しい空間なんですよ。
胸を張って、目に焼き付けましょう。
❖ ❖
リンちゃんは、泣きやむと今度は部屋に籠もってしまったようだ。
絵をじっと眺めているらしい。
あの絵がリンちゃんにどんな関係があるのかは知らないし、知る必要もない。
リンちゃんがあれほど欲しいと望んだ。
エリシア様とアルベルト様が手に入れると約束した。
そして、手に入れた。
家族が子供のために、その望みを叶えてやった。
それだけを知っていればいい。
そう思いながら、護衛控室に戻った。
「ぶぐだんぢょ〜〜(副団長〜〜)」
ロッテがいきなり抱きついてきた。
涙と鼻水でグショグショだぞ、お前。
「ごんなにじあわぜなぎぼぢにだれるじんぶっで、ホンドにあづんでずね〜〜
(こんなに幸せな気持ちになれる任務って、ホントにあるんですね〜〜)」
エッエと私の胸で泣き続けるロッテ。
この旅に出かける前の印象とは別人だな。
私の見る目がなかったのか、当人が成長したのか。
いずれにしても素晴らしい事じゃないか。
ロッテの背中を軽く叩くと、グスングスンいいながらルナの隣に座った。
ルナはさすがにお姉さんだ……が……
その抱えてる枕は今晩は使わない方がいいぞ。
私のこの胸元とさして変わらんくらいグショグショだ。
「ルナ……」
「ご、ごべんなざい……でも……でも……」
えっぐえっぐと、しゃくりを上げるふたりを改めて見る。
いいチームになった。
「別に謝る必要はないぞ。
それから……お前たちは本当によくやってくれたよ」
ふたりの肩を叩き、今日までの過程を振り返った。
「何事もなかった……とは言わんが、ないに等しいくらい、平穏な旅だった。
私たちは護衛として、対象の安全と想い出を、今日まで守り抜いた。
お前たちのおかげだ」
ひときわ大きく鼻をかむ音が響いた。
「明日が閉会式と舞踏会。公式な日程では最終日だ。
少し早いかもしれんが、お前たちとこの任務に就けて、心からよかったと思っている。ありがとう」
うん……、一段と泣き出してしまった……。
「わだし〜、ごの任務もっど続げだいです〜」
「わだしも〜、終わんのヤでず〜」
そう言ってくれるな。
私だって名残惜しいさ。
毎日毎日、なにかしらがあって、でも任務はちゃんと果たせて、皆が笑顔で過ごせて。
素晴らしい時間を味わえたよ。
「明日の閉会式は私が護衛に付こう。
お前たちは舞踏会からでいいからな。
ゆっくりしてくれ。それじゃそろそろ――」
そこまで言った時、廊下で物音がした。
ドアから覗くと、エリシア様とアルベルト様だ。
忍び足でどこへ――
ああ、リンちゃんの様子を見に行くのか。
確かに子どもの夜更かしはよくないからな。
家族として心配するのは当然だ。
あ、戻ってきた。
「どうでした、リンちゃんの様子は?」
枕元に絵を置いて、スヤスヤ眠っていたらしい。
かわいい寝顔だったそうだ。
満足気に寝室に向かうおふたりを見送る。
明日は最後の公式行事だ。そんな思いを胸に、私たちも自分たちのベッドに入った。




