◎第13話 オークション会場後編(9日目)
崩れ落ちた巻き藁を、リーダーさんが検分している。
「さっすが『流刃』さんだぁ、一太刀で巻き藁ここまでブッた斬れるとはね。
俺ら傭兵ってのはよ、戦がねえ最近じゃ、用心棒とか護衛とかするか、山賊あたりに身を落とすしかねえんだよな。だが、少なくともあんたらとカチ合うような事はしねぇようにするわ」
リーダーさんは笑いながらそう言ってた。
そう、テーゼ誕生以降、この地域に戦は起こっていない。
昔は貴族お抱えの武人もいたが、今は武のみで身を立てるのは困難な時代だ。
正業とするなら軍人や騎士団。公の規律を煩わしく思う者は私設の傭兵、法からはみ出す者は野盗山賊の類に行き着く。
私は運がよかった。
騎士団で団長と出会えた。
あの剣に憧れ、あの背を追い続け、今がある。
歩きながら、ルナが彼らを褒めていた。
「気持ちのイイ方々でしたね。傭兵っていうとヤサグレてる輩も結構な確率で多いのに」
「そうだな、たいした御仁だ。規律に縛られるのは好まんが、節度というものは大事にして、ここまで生きてこられたんだろう。荒い言葉の端々に武人としての気概が見え隠れしていたよ」
「私が戦った事のある傭兵?とは全然違う気がしました」
「ハハハ、ロッテ、お前が戦った事のあるのは傭兵じゃない、犯罪者だ。辛抱も根気もないから真っ当な職に就けず、ちょっと武器を扱えるからってイキがっとるチンピラに過ぎん」
周りを見る。
結構な割合でそういうヤツラがいるな。
「副団長、飲み物とかあそこでもらえるみたいです。チョット行ってきますね」
ルナとロッテが、正面入口横にある護衛用の飲食物配布所に向かった。
ベンチに腰掛け、彼女らを待つことにする。
オークションが終わるまでまだ時間はかかりそうだ。
どうするかな。走り込みでもするか、それとも素振りか?
いろいろと考えていると、イヤな感じで声を掛けてきたヤツラがいた。
「よう、おっさん。美人に囲まれての護衛かよ、うらやましいねぇ」
バカ丸出しの男が2人、目の前にいる。
「俺たちもな、護衛でここ来てんだけどよう、あんまり退屈なもんで、ウチのリーダーがチョイと苛立ってんだよ。そんでおっさんの連れのあの姉ちゃんたちを借りてこいって言うんだわ」
「ほう……、彼女たちをな……」
そのリーダーとやらを見る。
テントのなかで酒を煽りながら、コチラをジロジロ眺めている。
この程度のヤツラか……
「俺たちゃ、上からの命令には絶対服従だ。
おっさんもこういう稼業してりゃわかるよな。
んでもって、それ聞いてもらえなかった時に、俺たちがどういう事するかってのもさ」
全く……、なぜこういう奴らはこんな下品な笑い方しかできんのか。不愉快極まる。
せっかくいい気分転換ができたと思ったのに。
ルナとロッテを巻き込むと、余計に面倒―――
いや、彼女たちもこの旅で成長してくれた。
ちゃんと自制というものを学んだようだ。
それが証拠に、彼女たちは暴力沙汰を全く起こしていない。
だからこそ秘密裏に―――
ルナたちを見ると、見慣れない2人のおじさんを引き連れて戻ってくるところだった。
誰だ、あの2人?
「いやぁ、そう仰っていただけて、このテノール、安堵致しましたぞ。アルベルト様には何卒良しなに」
「大丈夫ですよ。あの方は自分の事はどう言われても、どう思われても、全く気にしないんで」
「私も、会長が『人外魔王』――いえアルベルト様を侮って軽く追っ払おうとした時は、この目にハッキリと浮かびましたよ。会長の私設賭博場が、開店初日にあの方に焼き尽くされるのが」
「いやいや、顔役、手厳しいですなぁ、ハッハッハ」
私は面識ない方々だが、だいぶ和やかにお話してるようだ。
「……商会長……、なんでその女どもと……?」
うん?バカ2人の邪気が消えた。
商会長……?
ひょっとして、コイツらの雇い主か?
「副団長〜」
ロッテがトレイに飲み物とか軽食を積んで走ってきた。
ロッテの危険察知が発動しない、という事はコイツらもスッカリ毒気を抜かれたワケか。
「ロッテ、ありがとう。それで、あの紳士はどなたかな?だいぶ和やかな雰囲気だが」
「ええ、テノール商会の会長サンと西地区のギャンブラーの顔役サンです。
顔役サンは、昨日ルナさんが特別ゲーム会場にいたから顔を覚えていらっしゃって、お声掛けて下さったんですよ」
ああ、なるほど、それでか。
「ではテノール会長殿は?」
「あの方は、今日のオークションで例の素描画を狙ってたんですけど、アルベルト様がお願いして辞退していただいたらしいです。
その時に、多少感情の行き違いがあって、アルベルト様に失礼な態度を取ってしまったんですって。で、顔役サンがよ〜く説明したらわかってくださって。私たちに縋り付いてきて、ご自分が詫びていた事をしっかり伝えてほしいと」
ハハハ……あの方のイジワルな人心操作術か。
なんか目に浮かぶようだ……
2人の紳士がにこやかに挨拶してきた。
「お初にお目に掛かります。テノール商会長のテノールと申します。この度、アルベルト様へのお取りなしをこのお嬢様方にお願いしました愚か者です。
何卒、上役のあなた様からも良しなに」
「私は王都西地区で遊技場を経営しておりますグレムと申します。昨日アルベルト様の底しれぬお力をようやく理解した未熟者です。
アルベルト様にお約束しました通り、素描画を狙っていた商会の方々には快く辞退していただきましたので、その旨よろしくお伝え下さい」
顔は笑ってるけど、よっぽど怖い思いしたんだろうな……。
「ご丁寧なご挨拶痛み入ります。
護衛リーダーのアレクと申します。
ご両所の誠実なご対応は確かに承りました。
アルベルト様に責任を持ってお伝え致します」
私の言葉に、また一段と笑顔を作った。
心の底からようやく安心できたんだろうな。
「で……、お前らはそこで何をしている?」
「まさか……とは思うが、このお方に失礼な事は……しておらんだろうな」
すっかり空気になってたバカ2人を、会長サンと顔役サンが詰め始めた。
おお、慌ててリーダーが飛んできた。
「いやあ!スイマセン!コイツら、チイっとそこのお嬢さんたちにのぼせちまったようで!
俺からきつく言って聞かせますんで、ここんとこは堪忍してやってくだせい!」
ふむ……、手下のせいにするところは少し気にいらんが、一応頭は下げてるか。
どうしたもんかな、と考えていたら、さっきの傭兵団のリーダーさんが後ろを通りかかった。
「よう、お前ら、たいした度胸だな。あの『流刃』『剛拳』『暗器姫』にイチャモンつけるなんてよ。俺らじゃおっかなくて、とてもできねえ芸当だ。やるならしっかり遺書書いとけよ、ハッハッハ」
そのまま手を振って去っていく傭兵団。
で、コチラは―――
おお、サァ〜ッと顔が青ざめていくな。
「き、キサマら!いったいナニしてくれておる!」
「お前ら!この王都を焼け野原にするつもりか!」
いやいや、もういいですよ……
会場の中では素描画を巡って、スッゴイ駆け引きがされてるんだろうなぁ、と思いながら、ふと振り返る。
この旅も、あと数日で終わるのか……。
そんな感慨を噛み締めながら、目の前の単純極まる喜劇に苦笑せざるを得なかった。
❖ ❖
「結構お帰りになる方々が増えてきましたね」
ルナが会場出入口を見ながら言う。
「お目当てのオークションが終わったんだな。
たぶんエリシア様たちもそろそろ――」
「来ました!!」
ロッテがいきなり立ち上がった。
さすがエリシア様感知機能。
わかっちゃうのか。
「間違いありません!ロビーに出てこられました」
というロッテの宣言と時を同じくして、誘導係が、馬車を会場出入口に移動するよう言ってきた。
素描画のオークションが終わったようだ。
馬車を移動して出入口に着け、その前で待つ。
エリシア様とアルベルト様だ。
エリシア様の手には―――
ある!
素描画だ!
私たちに向かって、エリシア様が笑顔で素描画を大きく掲げた。
ルナとロッテは歓喜の声を上げて、エリシア様のもとに駆け寄る。
踊り出さんばかりに喜ぶ3人に、アルベルト様がとても温かい眼差しを注いでいる。
アルベルト様の傍らに立ち、スッと右手を差し出した。
あの方は、いたく満足気に微笑み、私の手をガッチリと握り返してくれた。




