第12話 オークション会場 中編(9日目)
「……おい、ウソだろ……」
「的が……真っ二つじゃねえか……」
割れた的を手に驚愕する男たちに、ロッテが能天気に声を掛けた。
「すいませ〜ん、次の的、お願いしま〜す」
いやいや、それはいかん。
慌ててロッテのところに走り寄る。
「ロッテ、ダメだぞ。あれはヒト様の備品だ。
壊してしまったんだから、まず謝らなければ」
あっという顔をして、ロッテがシュンとしてしまった。
「……そうですね、私、チョット興奮してしまって。
申し訳ありませんでした、皆さんの備品壊してしまって」
反省して頭を下げるロッテに、男たちは余計に慄いている。
あ、リーダーさんが来た。
やれやれって顔をしてる。
「申し訳ない、私の部下が大変な失礼―――」
「ああ、いいよいいよ、あんたら軽く見てたコイツらも悪かったんだ。気にすんなよ『流刃』サン」
え?私の事を知ってる?
だからか、あの最初の違和感は……。
「そのクナイのお姉さんが『暗器姫』で、そっちのお姉さんが『剛拳』だろ。
減るもんじゃねえって、全く身の程知らずめ。減るに決まってんだろうが。
ほれ、『剛拳』さんが吊り革袋触って言ってたぞ、『チョット薄い』ってよ。何発か入れたら破けちまってるよ」
「私たちをご存じだったんですね」
「ああ、俺はこの業界は長いからな、デキるヤツの話はいろいろ入ってくる。
あんたら、騎士団の訓練場行ったろ。あれ、結構評判だったぜ。俺らは行くの遅くて見らんなかったがな」
ああ、あの日の演武か。
「リ、リーダー、じゃあこの人たちがテーゼの……」
「おうよ、『流刃』『剛拳』『暗器姫』の3人サマお揃いだ」
「いやぁ……『流刃』さんはともかく、そっちのおふたりは、まんまカワイイお嬢さんじゃないスか」
「見た目で判断しちゃ大ヤケドするなぁ、コイツは」
“カワイイ“って言われてテレテレしてるふたりは置いといて、リーダーさんに改めて詫びを入れた。
「過分な評価いただき、誠にありがとうございます。しかし、やはりあの的については弁償させていただこうと思います」
これをリーダーさんに一蹴された。
「ああ、いいっていいって。あんなの消耗品だ。
それよりさ、詫び入れたいってんなら、この続き見せてくれよ」
おお!と男たちから歓声が上がった。
「俺ら、訓練場で見はぐったからな。
『剛拳』さん、その吊り革袋は破ってもいいから、思いっきりやってみてくんねえか」
リーダーさんはじめ、皆さんからの要望か。
ルナもやる気マンマンって顔になってる。
(……貫手、やるつもりだな)
破ってもいいと言ってくれてるし、このままではルナも不完全燃焼だろう。
「承知しました。ではルナ、頼む」
「はいっ!」
いい返事を返して、ルナが吊り革袋の前に立つ。
うむ、いい目になってきた。
滾ってるのがわかる。
深呼吸をひとつ。
そして――
ババババンッ!!
目にも留まらぬ4発の拳が、吊り革袋を大きく揺らした。
『下がり4段突き』
そこから腰をグッと落とし、揺れる吊り革袋を睨む。
タッと身体が翻り、左足片足立ちからの――
足技3連。
バババンッ!!
そして足を戻し、右手を引いた。
一拍置いて―――
シャッ!!
貫手が走る!
ズボッ!!
右手が吊り革袋に深々と突き刺さった。
「ヒイッ!」
あ……、なんか傭兵連中からヘンな声が……
それをゆっくりと抜き、ふう〜っと大きな息を吐いた。
リーダーさんはニヤニヤしてるが、他の方々は声も出ない。
確かにヘンな声が上がるのも納得だ。
ルナの貫手は刺突武器と同じ。アレを素手で破るなんて、常人にはムリな話だからな。
ルナは殴るのも蹴るのも全部が規格外。どれを浴びせても一撃で敵を沈められる。
「いやぁ、お見事お見事。キッチリ吊り革袋破ってくれたわ」
リーダーさんがパチパチと拍手しながら、次はロッテのところに歩み寄った。
「次は『暗器姫』さん、どうだい?」
リーダーさんの誘いに、ロッテはちょっと考え込んだ。
「う〜ん……、今日はあまり持ってきてないので……。じゃあ、巻き藁いいですか?」
「おお、いいぜ。おい、巻き藁だ、キレイなヤツ持ってこいや」
ニコニコ顔のロッテが、用意された巻き藁の前に立つ。
実際、彼女がどこに何を仕込んでいるのか、私でも完全に把握できない。
さっき袖口からクナイを出したから、あといくつあるんだろう。
「じゃあ、やりますね」
そう言って少しだけ足を開いた。
腰を落とすでも、構えるでもない、ほとんど自然体。
ピンッ!
ベルトのバックルが外れ、握り込み型のダガーナイフが巻き藁を二度三度なぞった。
チンッと戻されたと思いきや、今度はベルトが抜かれた。
いや、外身はベルトのままだ。中身だけ抜いてる。
あ、アレ、中身はペラッペラの剣だ。
それを二振り。
鞭のようにしなりながら、ザクリザクリと巻き藁を抉るように斬る。
次に懐に手を入れた。
現れたのは扇。
パラリと開いた扇が、優雅に巻き藁の周りを舞い始めた。
それが舞う毎に、巻き藁が深傷を負っていく。
あ〜あ、リーダーさん以外はドン引きだな。
パタッと扇を閉じ、かわいらしくお辞儀するロッテ。
笑顔の向こうの巻き藁はズタズタだ。みんな凍りついてるぞ。
リーダーさんが巻き藁を検分してる。
「……いやぁ……、こりゃ想像以上だわ……」
今度はロッテをジロジロ見始めた。
「こないだはあんたは投擲だって聞いたんだがよ……、こりゃさすがに『暗器姫』って呼ばれるだけの事あるわ。なあ、あとどんくらい隠してんだい?」
その問いにロッテはまたニッコリ笑う。
「オトメの秘密です」
その笑顔と、ズタズタの巻き藁が、またイイ味を出してる……
みんなの反応は推して知るべし。
「じゃあ、いよいよ『流刃』さんに見せてもらおうか」
リーダーさんが勧めてくるが、なんか皆さん、お腹いっぱいみたいですけど。
ヒト様の巻き藁だし、ここはひとつにしておこう。
「では、一刀だけ振らせていただきます」
あんなに凍ってた皆さんもそれなりに復活して、私に注目してくれている。
ひとつ深呼吸。
剣を抜き、巻き藁の前に立つ。
神経を集中する。
私と巻き藁との間にある空間。
剣の間合いまであと一歩。
その一歩を踏むための、心の間合いを少しずつ埋めていく。
まだだ……。
剣の切っ先が揺れてる。
まだだ……。
巻き藁と切っ先が重ならない。
もう少し……。
焦点が合っていく。
切っ先のブレが小さくなった。
もうすぐ……。
もう……
来た!
剣が翻る。
上段斜め上から巻き藁の左肩口に剣を運び、そのまま右脇腹まで。
『武神の一閃』と同じ太刀筋。
憧れて止まない、あの太刀筋。
あれに魅せられ、磨き続けた私の剣。
チンッ……
剣を収める。
藁が割れる。
ドサッ、ドサッ
斬られた藁がこぼれ落ち、芯棒が切り口に沿って斜め後ろにのけぞるように折れた。
はぁ~っと、憧れと昂りの残滓を息とともに吐き出した。




