第11話 オークション会場 前編(9日目)
オークション当日。
いよいよだ。
昨日のエリシア様付き護衛はルナだったから、オークション会場の護衛は私とロッテになるはずだった。
だが、リンちゃんは今日は宿舎で静かに待っていたいから、護衛は不要と言う。
「みんなでお姉ちゃんとホサを守ってあげて」
宿舎は貴族街にある。もともと貴族の別宅を、祭り期間中借り上げたモノだし、滅多な事が起こる危険は乏しい。
4人のメイドさんたちも、留守番は任せてほしいと言ってくれた。
「それでね……」
リンちゃんがモジモジしながら聞いてきた。
「ホサとお姉ちゃんに……出かける時になにか言ってあげたいの……。わたしのためにありがとう……とか。なにがいいかな……?」
ロッテが目頭を押さえてる。
いじらしさに感極まったか。
ルナも少し目が赤いな。
スッと腰を落とし、リンちゃんに目線を合わせた。
「わたしのためにありがとう……は、最後に取っておきましょう。絵を持ち帰った時に言って差し上げて下さい。
本番の戦いはこれからです。
それじゃ……おまじないをひとつお教えしますね」
❖ ❖
出立時間になり、玄関先で皆が見送りに集まった。
リンちゃんが、エリシア様とアルベルト様を見つめている。
「じゃあ、行ってくる、待っててくれ」
エリシア様とアルベルト様がそう告げると、リンちゃんがビシッと姿勢を正した。
胸に右手を当て、大声でこう言った。
「ごぶうんを―――!!」
騎士団式の、出立部隊への送辞。
エリシア様とアルベルト様が、一瞬固まった。
二、三拍おいて、おふたりの表情と身体が溶け始める。
リンちゃんも、引き締めた顔から少し泣き笑い気味の顔に変わった。
エリシア様がリンちゃんをガバッと抱きしめた。
「……うん、行ってくるよ……」
続いてアルベルト様も、リンちゃんを優しく抱きしめた。
「必ず買って帰ってくるから、待っててね」
潤む10の瞳に見送られながら、私たちはオークション会場に出立した。
❖ ❖
おふたりを会場に送り出し、待機所に移動する。
護衛がたむろっている。
紋章入りの貴族の馬車はない。
全員が商人の護衛のようだ。
貴族は―――ああ、指定場所は別か。
その方がコチラも気楽でいい。
護衛はみんな傭兵だな。
練度はーーーあまり大したことはない。
デキると思わせるのも数人はいるようだが、大半は及第点といったところか。
「副団長、帰りまで結構時間ありますよ。どうしましょうか」
ロッテが聞いてきた。
そうなんだ。開始までまだ2時間近くあるし、そこから目当ての素描画までどれくらいかかるかなど、正直わからんし。
この時間を無為に過ごすのももったいない。
周囲の護衛たちは―――カードしてる連中もいるし、雑談してるのもいるな。
おや……?
一番奥の方で、訓練らしき事をしているグループがいる。
吊り革袋と、投擲と、巻き藁か。
「副団長!副団長!あそこあそこ!吊り革袋ヤッてます!交ぜてもらいましょう!」
「投擲!投擲ありますよ!ぜひ合流したいです!お願いしてください、副団長のカオで!」
ふたりが食いついてきた。
そりゃあそうなるだろうな。
このままヒマな時間を過ごすのもナンだし、頼んでみるか。
「わかった。私も少し身体を動かしたいしな。
頼んでみようか」
きゃあ〜っと声を上げるふたりを連れて、そのグループのところに行く。
「スマンが、ちょっといいかな」
腰に手をやり訓練を見つめている、リーダーらしき男に声を掛けた。
「うん?なんだい、あんたら」
私と同じくらいの年代。
歴戦の傭兵といった雰囲気を感じる。
返答に特に警戒感も威圧感もない。
ないが……。
「護衛で来てるんだが、時間を持て余していてね。よければ私たちにも少しヤラせてもらえないかな」
後ろのふたりも愛想よく笑顔を振りまいている。
訓練していた男たちも手を止め、リーダーにずり寄ってきた。
「リーダー、リーダー。いいじゃねえか、減るもんじゃねえしよ。こんなきれいなお嬢さんたちとご一緒できるってんなら、俺たちも一層身が入るってモンだ、なぁみんな」
そうだそうだと合唱する男たちに、リーダーらしき男が苦笑いを浮かべ、小さく呟いた気がした。
(……バカども、身の程知らずめ……)
うん?聞き取りづらかったか、確かそう言ったような……
「ああ、わかった、いいぜ。減るもんじゃ……ねえンならな。そこら辺ヨロシク頼むわ」
ポンと私の肩を叩くリーダーさん。
なんか含みがあるような……。
だが、ルナもロッテもコッチの事などお構いなしだ。
男たちはべらせるように、ルナが吊り革袋の前に立った。
ふたつの吊り革袋をポンポンと軽く触る。
「う〜ん、チョット薄いかな……」
少し不穏な単語を口にするルナ。
ロッテは―――ああ、だいぶ後ろに下がってるな。まあ、彼女にとってはいつもの距離だ。
「おいおい、お姉さん、ソコから的を狙うんか?離れ過ぎじゃねえか?」
「いえ、いつもこれくらいですので」
平然と男たちの倍以上の距離に立ったロッテに、男たちは更に不審そうな顔をする。
「そんならいいけどよ、ナニも持ってねえじゃねえか。コッチ使うか?」
簡易テーブルの上の投げナイフを指さす男に、ニッコリと笑う。
「お気遣いなく、持ってますから」
そう言ってダランと両腕を下げる。
クッと、少し突っ張るように動かすと、左右の袖口から2本ずつ、クナイが現れ出た。
「え……?」
「行きま〜す!!」
満面の笑みとともに両手が交互に振り抜かれた。
ヒュンッと唸りを上げたクナイが、男たちの眼前の空を切る。
ガガガッ!という音とともに、的の中央に4本のクナイが突き刺さった。
ほう……とご満悦なため息を吐くロッテ。
思いっきり投擲ができてよかっ―――
ピシッ……
……ん……?
なんか異音が……
ピシッピシッピシッ……
ピシッピシッピシッピシッピシ……
ガゴ〜ン!
的が割れて落ちた。
またヤッてしまった……。
「チッ……、ヤッパ減ったじゃねえか……」
私の肩越しに、リーダーさんの言葉が聞こえてきた。




