第10話 特別ゲーム終了後の夜(8日目)
アルベルト様がゲームに勝って、金貨500枚を手に入れて凱旋した。
さすがは「人外」の二つ名で呼ばれるだけはある。
リンちゃんは大喜び且つ大泣きしている。
2つの感情が混じりあってのあの涙は、たいへんに美しく、そして大切なモノだ。
私たちの護衛もその一助たり得たと思うと、胸に迫るものがある。
手元の570枚と今回の報酬500枚で合計1070枚。
これで軍資金は準備できた。
明日のオークションに参加し、目当ての素描画を落とせれば、最高の結果を以て旅を終了できる。
明日は気合いが入るな。
そんな想いを抱きつつ、控室に戻った。
控室ではルナが、ロッテに熱弁を奮っていた。
「とにかく、あのヒトの怖さって、底知れないっていうか、得体の知れないっていうか、そんな掴みどころのないモノがモヤ〜って絡みついてくる薄気味悪さなのよ!」
アルベルト様か……。
ルナはよっぽど怖い思いをしたらしい。
そう、あの方の恐ろしさというのは、自分の全てをわかられてしまう怖さであり、反対にあの方の事がなんだかわからないっていう怖さなんだよ。
とにかく、深いんだ。
あの洞察は。
海みたいなモンだ。
私たち浅瀬の魚は、あの深さには耐えられない。
「で!で、あのヒト、こうパラパラってシャッフルするでしょ、これ見ながら数字覚えちゃうのよ!52枚全部!ヤマ4つ208枚覚えて、次に何が来るかわかってんの!
アレやられたらギャンブルになんないよね!」
うん、あの方は13歳の頃から見習いとして5〜6年ずっと資料整備してたらしい。
官吏が指示した資料を資料館で探し、使用済み資料を格納する、アレだ。
ただ出し入れしていたわけじゃない。
どんな政策立案の基礎データになるのかを、教わり、読み込み、覚えた。
だからあの方は、街の歴史を数字として知っている。
そんなヒトに208枚のカードなど、立ち合い前の剣選び程度、いや、それ以前の事かもしれん。
「あとね、会場にエヴァさんがいたの。シドさんもいたよ。
エヴァさん、なんと王都裏街では女王って呼ばれてて、ギャンブラーの親玉みたいに敬われてた」
なに?エヴァがいた?
という事は……あのお面はやっぱりシドか。
「あ〜!やっぱりあの怪生物はシドさんだったんですね」
「怪生物?」
「そう、リンちゃんが入れないまでも会場に行きたいって言うから、みんなで会場に向かってたんです。そしたら妙なお面かぶったシドさん型生物が、焦った感じで走り回ってて」
「ヤダ〜、ナニそれ〜、あはははは」
シドとエヴァ……。
あの夫婦も大概掴めきれん。
表の顔は酒場を営む寡黙な店主と能弁な女将。
裏側では諜報分野における我々のよき協力者。
裏社会との関係性もあろうという立ち位置だが……
リヒテンラーデ王都のギャンブラーを統べる女王だって?
テーゼの酒場の女将さんが?
得体の知れない人間が多すぎるだろう、テーゼには。
「なんか本人たちは、毎年ゲームの内容だけ提案してる、ただのアドバイザーだって笑ってたけどさ」
なぜだろう……。
底の見えない人間に限って、こういうフクザツな立ち位置を、ものすご〜くカンタンな存在に置き換えて語るなぁ。
アルベルト様然り、エヴァ然り……。
「そしたらね、今度からはアルベルト様が『人外魔王』として、リヒテンラーデ王都の裏街に君臨するんだってさ」
ブホッ!
コーヒーを吹いた!
アルベルト様が―――
リヒテンラーデ王都裏街の支配者!?
な、なんでそうなった?!
「私やエリシア様でさえ、アルベルト様があんなに怖かったんだから、他のヒトからしたらとんでもない畏怖の対象よねぇ。
それに、エヴァさんが言うには」
い、言うには……?
「ご威光に逆らったら、アルベルト様が自暴自棄になって、裏街全部焼け野原にするって宣言したらしいのよ」
何してんですか、アナタは――!!!
「いや、私も詳しい話はわかんないんだけど、印象的な単語を拾ってくと、そんなカンジなの」
カラカラと能天気に笑ってるケドな、ルナ……。
要するに全部お前の印象論だ。
ソレは風評被害だぞ。
テーゼの第2席がリヒテンラーデ王都裏街の支配者なんてあり得んだろう。
立場としてな……
実力的にはあり得すぎて、ナニも言えんが……
「で、副団長とロッテは、なんかなかったんですか?
会場までリンちゃんといらっしゃったんでしょ?危なくなかったですか?
まあ、ロッテはいつも通りの装備でいいだろうケド、副団長は帯剣したくないって仰ってたし」
ルナが私とロッテに不穏な問いを投げてきた。
「ソコはほら、私のコーディネート力でバッチリでしたよ!」
むふ〜と鼻息荒く胸を張るロッテ。
だが、ルナの視線は憐れみを含む。
「……副団長、もしかして……お肉屋さん……?」
ちがーーーーーーう!!
「いや、角指とプッシュナイフを借りてな。
さすが『暗器姫』のコーディネートだ。キッチリ役に立ったよ」
ロッテがウンウンと満足気だ。
「羽虫が3匹寄ってきただけでしたね。
歯応えすらない輩で」
「いいんだよ、それで。素直にお話を聞かせてもらえたしな」
ロッテがあの場面を思い出したか、ウットリしてる。
「アルベルト様が勝って、決勝戦に進んだって聞いた時のリンちゃんの喜びようったら、ホントかわいらしかったです。
帰る時の『ホサ〜!ガンバレ〜!』も愛しすぎて……ハァ……」
ハハハ、また新しい『執着』か?
だが、いいだろう。
私から見ても、リンちゃんとロッテはとてもいい関係を築けている。
健全な妹への愛情だ。
「ああ、それからな、日程の変更だ。
出立が1日延びる。舞踏会の翌日はカーライル侯爵閣下のお見舞いに行かれる事になった」
ふたりとも頷く。
素描画公開日に倒れられた時は、ふたりが護衛についていたからな。細かい事情は私より知っている。
「アルベルト様が、勝手に予定を延期してすまないと詫びていたよ。気にする程のことではないのだがな」
明日のオークション、私自身もより一層気を引き締めねばならん。
改めてふたりに向かって姿勢を正す。
反射的にふたりもビッと私に倣った。
「明日のオークション、明後日の舞踏会、3日目の見舞い、我々の任務はまだ続く!決して気を抜かぬよう心掛けよ!」
「ハッ!」




