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異界の旅人と運命の少女  作者: はるきち
第一章『ヴァレンシュタイン辺境伯』
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一章3 魔力適性

朝食を終えた悠真は、エレナと共にローデン城の中庭へ向かっていた。

城内を案内すると言っていたレオンハルトは、少し遅れて来るらしい。


「この城、思っていたよりずっと広いな」


悠真は周囲を見渡しながら歩く。


「ローデン城は、ヴァレンシュタイン家の居城であると同時に、北方の防衛拠点でもあるから」


エレナが答える。


「兵士たちの訓練場もあるし、武器庫や馬小屋もあるわ。城の地下には備蓄庫もあるの」


「ほとんど要塞だな」


「実際、要塞みたいなものよ」


中庭を抜けると、広い訓練場が現れた。

そこでは数十人の騎士や兵士たちが剣を振っている。


「すごい……」


悠真は足を止めた。

鋭い金属音が響く。

騎士同士が木剣を打ち合わせ、激しい攻防を繰り広げている。


「ここでは毎朝、兵士たちが訓練しているの」


「本格的だな」


悠真が見ていると、一人の大柄な騎士がこちらに気づいた。


「おや?」


騎士が剣を下ろす。


「エレナ様ではありませんか」


「おはようございます」


エレナが挨拶する。


「おはようございます。そちらは?」


「昨日話したユウマよ」


「昨日の?」


騎士が悠真を見る。


「森で魔物に襲われていたという……」


「はい。神谷悠真です」


「私はグランツ・ハルト。ローデン城の騎士を務めています」


グランツは豪快に笑った。


「異世界から来たという話、本当なんですか?」


「……まあ」


「それは面白い!」


「グランツ」


背後から低い声がした。

レオンハルトだった。


「訓練中だろう」


「申し訳ありません、閣下」


グランツは慌てて姿勢を正す。

レオンハルトは悠真たちのもとへ歩いてきた。


「待たせたな」


「いえ」


「では、始めるか」


「何をですか?」


「お前の魔力適性の確認だ」


レオンハルトは訓練場の端にある小さな建物へ悠真を案内した。

中には様々な道具が並べられていた。


剣。

魔法道具。

そして中央の台座には、透明な水晶が置かれている。


「それは?」


「魔力測定器だ」


レオンハルトが答える。


「手を置けば、体内にある魔力を測定できる」


「なるほど……」


悠真は水晶を見つめた。

ゲームでよく見るような道具だった。


「これに触ればいいんですか?」


「ああ」


悠真は恐る恐る手を伸ばした。

そして、水晶に手を置く。


――何も起こらない。


「……?」


悠真は首を傾げる。


「失敗ですか?」


「まだだ」


 レオンハルトが水晶を見つめる。


数秒。

十秒。


何も起こらない。


「魔力がないってことですか?」


「そうとも限らない」


「じゃあ……」


その瞬間。

水晶の奥に、小さな光が灯った。


「……!」


淡い光だった。

白。

そして青。


やがて水晶全体へ光が広がっていく。


「これは……」


レオンハルトの表情が僅かに変わった。

エレナも驚いたように水晶を見つめる。


「ユウマ、手を離さないで」


「分かった」


光はさらに強くなっていく。


青い光。

白い光。


そして――。


一瞬だけ、黒い光が混じった。

悠真には、それが何を意味するのか分からなかった。

しかし、レオンハルトは違った。


「……」


彼の目が鋭くなる。


「どうしたんですか?」


「いや……」


レオンハルトは水晶から視線を外さない。


「少し珍しい反応だ」


「珍しい?」


「ああ」


レオンハルトは水晶に手をかざした。

すると光が収まり、水晶は元の透明な状態へ戻った。


「結果は?」


悠真が尋ねる。


「魔力はある」


「本当ですか?」


「かなり強い」


「マジで?」


悠真の顔が明るくなる。


「じゃあ、俺も魔法を使えるんですか?」


「訓練すればな」


「やった……!」


思わず拳を握る。

エレナが笑う。


「そんなに嬉しい?」


「だって魔法だぞ? 使えるなら使ってみたいだろ」


「それはそうね」


悠真は再び水晶を見る。

自分にも魔力がある。

それだけで、少しだけこの世界に居場所ができたような気がした。


「ところで、俺の属性は?」


「まだ分からない」


レオンハルトが答える。


「魔力の量は測定できても、属性までは簡単には分からない。実際に魔法を使ってみる必要がある」


「なるほど」


「今日はここまでだ」


「え?」


「魔力の制御も知らない状態で無理をすれば危険だ」


「分かりました」


悠真は頷いた。

その時だった。


「レオンハルト様」


部屋の入口から声がした。

一人の兵士が立っている。


「どうした?」


「北門から報告です」


兵士の表情が険しい。


「北の森で、魔物の群れが確認されました」


空気が変わった。


「数は?」


「現在確認できているだけで二十以上。さらに増えている可能性があります」


「種類は?」


「魔狼とオーガ、それに大型種が数体」


悠真の脳裏に、昨夜の魔物が蘇った。

レオンハルトはすぐに判断した。


「警戒態勢を取れ。北門の兵士を増員する」


「はっ!」


兵士が走り去る。

エレナの表情も険しくなる。


「最近、魔物が増えているわね」


「ああ」


レオンハルトは短く答えた。


「例年とは明らかに違う」


「何か原因があるんでしょうか?」


悠真が尋ねる。


「まだ分からない」


レオンハルトは答えた。


「だが、魔物の動きが変わっている」


その言葉には、強い警戒が滲んでいた。

悠真は窓の外を見る。

北の空には、朝だというのに黒い雲が広がっていた。


「……俺がここに来たことと、関係あるのかな」


悠真が呟く。

レオンハルトは何も答えなかった。

ただ、悠真を見つめる。

そしてエレナへ視線を移した。


一瞬だけ。


その表情に、深い思案が浮かんだ。


「ユウマ」


「はい?」


「今日から、城の外へ出る時は必ず誰かを同行させろ」


「分かりました」


「そして、魔力の訓練も私の許可があるまで勝手に行うな」


「はい」


「いいな?」


「……分かりました」


悠真は頷いた。


その直後。

遠くから鐘の音が鳴り響いた。


――ゴーン。

――ゴーン。


城内に緊張が走る。

兵士たちが一斉に動き始めた。


「北門、警戒態勢!」


「弓兵を配置しろ!」


「魔法兵は城壁へ!」


怒号が飛び交う。

悠真は呆然とその光景を見ていた。

つい昨日まで、自分は普通の会社員だった。


それが今は――。


魔物の襲撃を知らせる鐘の音を聞いている。


「……異世界って、本当に大変だな」


エレナが隣に立つ。


「怖い?」


「少しな」


悠真は正直に答えた。

だが、逃げたいとは思わなかった。


「でも……」


悠真は城壁の向こうを見る。


「ここには、助けてくれた人たちがいるから」


エレナが悠真を見る。


「……そう」


小さく微笑んだ。


その一方で。

レオンハルトは北の森を見つめていた。


魔物の異常行動。

異世界から現れた青年。

そして、何かを予感させる不穏な気配。


すべてが偶然とは思えない。


「……始まったか」


レオンハルトは誰にも聞こえない声で呟いた。


北方の魔境。


そこから迫る異変は、まだ始まりに過ぎなかった。

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