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第5話 益虫は空を飛ぶ

トマトの葉に、穴が空いていた。

嫌な予感がして、そっと葉をめくる。


そこにいたのは、小さな黒い命たち。

無数に、蠢いていた。


……アブラムシだ。


思わず顔をしかめる。

何も、こんな青臭い葉を食べなくてもいいではないか。

でも。

私も、この香りは好きだ。

ほんの少しだけ理解できなくもない。


しかし、とても迷惑だった。


まずは如雨露で水をかける。

流れない。

しぶとい。


次に、ハーブで作られた虫除け水を吹きかける。

虫たちは散ることもなく、そこに留まり続ける。

まるで「その程度で?」と言わんばかりだ。


私は周囲の苗も見て回った。

……あった。


ひとつ。

ふたつ。

みっつ。


数えるのをやめた、。

今や私の庭はおそらく、大人気の集合住宅なのだろう。


……アブラムシの。


うんざりした。


虫除け木を燻して、煙で追ってみようか。

けれど、葉の裏に隠れられてしまえば?

風が吹けば?

どうにも決め手に欠ける。


庭師ジョセフの娘、ジョアンナが声をかけてきた。

「益虫をまいてみますか?」

私は瞬きをする。

「アブラムシを食べる虫を増やすんです!」


そして彼女は、胸を張って言った。

「虫をもって虫を制す!!です!」

……きっと、一度言ってみたかったのだろう。

その勢いが、なんとも頼もしく面白い。

私はすぐに許可した。



数時間後。

ジョアンナは、大小いくつかの箱を抱えて戻ってきた。

「近所の農業専門店で買ってきました!」

まさか。

小さな箱いっぱいに、黒い虫がみっちりと――


ぞっと背筋が冷える。

ジョアンナは、にこにこと箱を開けた。

私は恐る恐る、目を細めて中を見る。


そこにいたのは――

二十匹ほどの、テントウムシだった。


……可愛い。


あまりにも、可愛い。


小さな体で、ちょこちょこと歩く。

丸くて、艶やかで、健気だ。


私は思わず指を差し出した。

一匹が、指先へ。

そこから、手へ。


あまりの可愛さに、そっと手を傾ける。

もう少し、留まっていてほしい。

しかし、ふわり、と飛び立っていった。


……ああ。

蜜月の終わりだわ。

テントウムシとの。

……テントウムシとも。


「テントウムシの主食はアブラムシです!

 いっぱいいっぱい居ますから、いっぱいいっぱい放しましょう!」

彼女は次々と箱を開け

小さな赤い命たちが、庭へ散っていった。


他のお宅へ行ってしまうか

私が問うと、

「そういうこともあります!」

と、明るい返事。


……なるほど。

けれど、それも悪くない。


彼から贈られたアクセサリー。

それを売ったお金で買った、テントウムシ。


私の菜園だけでなく、

近所の菜園にも、もしかしたら役立つかもしれない。


生態系は………影響とかは、正直よくわからない。

けれど。

私に嬉しいことが、少し良いことが、庭の外へ広がる。

そう思うと、少しだけ誇らしかった。


気づけばジョアンナが、大きな箱を抱えている。

こそこそと畑の中央へ向かっていく。

……怪しい姿のあとを、そっとつけた。


しゃがみ込んだところで、背後から声をかける。

「ひゃっ!?」

驚いた彼女は、大箱をひっくり返した。


次の瞬間。

箱から飛び出し空を舞ったのは

無数の


ミミズ。


私は、その日。

人生で最も大きな叫び声を、上げた。

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